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メイドさんは突然に06

 夕食後。


 だらだらとテレビを見ていると、


「夏さん」


 白雪さんから声がかかった。


「お風呂の準備が整いました」


「ありがとね」


「もったいのう」


 そして僕の衣服とバスタオルを腕を物干し竿代わりにして持っている。


「自分で持っていけるからいいよ」


 そういって僕は白雪さんから衣服とバスタオルを貰い受ける。


「…………」


 そのまま風呂場へ向かうと、何故か白雪さんまでついてきた。


「何か用?」


「夏さんの脱衣を援助するのも使用人の務めですので」


「却下」


「ええ!?」


 そこで驚く意味が分かんないんだけど。


「とりあえず」


 と時間稼ぎの意味も込めて言ってみる。


 それから言葉を選んで、


「そういうのは要らないから」


「そう……ですか……」


 シュンとする白雪さんは愛らしかったけど言葉にはしない。


 女の子に脱衣を手伝わせるなんて割腹ものだ。


 どんな羞恥を晒すか青写真を描ける。


 ……青写真ってこんな時に使う言葉だったっけ?


 ともあれ、


「それじゃ」


 とパタンと扉を閉めて脱衣所で全裸になる。


 それから浴室に入ってシャワーを浴びる。


 この時の僕は白雪さんの恐ろしさをまるで理解していなかった。


「あー」


 ボーッとシャワーを浴びる。


 水滴が跳ねる。


 その無数の合唱団が大音量となって衣擦れの音を隠したことに気づいたのは後になってからだった。


 キィと扉が開く音がする。


 そして、


「失礼します」


 と白雪さんの声が聞こえた。


「…………」


 …………。


「……………………」


 ……………………。


 ん!?


 いまいち事情がつかめなかった。


「そうであること」


 と、


「まさか」


 という現実と憂慮の擦り合わせが摩擦熱を起こしたためだ。


「それでは夏さん」


 はいはい?


「まずは髪を洗わせてもらいます」


 はぁ。


 思考が硬直していまいち自分が何をして何をされているのか認識できていなかった。


 シャワーの方を向いているため線対称の扉に背を向ける形で、すなわち白雪さんにも背を向けているのもその一助だ。


 白雪さんはすんなりとシャンプーを手に取ると、シャワーで濡れた僕の髪をわしゃわしゃと洗い出した。


 いわゆる一つの洗髪。


 ギュッと目をつむる。


 床屋や美容院に行くと洗髪してもらえるけど、なんか他人に髪を洗われるのって快感だよね。


 それを白雪さんにしてもらえているわけだ。


 強弱をつけて洗髪した後、


「では流しますね」


 とシャワーを出して髪からシャンプーを洗い流す。


「次は夏さんのお体ですね」


 ここでようやく僕は我を取り戻した。


「ちょっと待ったぁ!」


 声を張り上げる。


「は、はい。何でしょう?」


 白雪さんの狼狽えたような声が聞こえてきたけど、狼狽えたいのはどう考えてもこっちの方だ。


「何で風呂場に入って来てるの?」


「夏さんにご奉仕するためですが……?」


 なにゆえ疑問形?


「おかしいでしょ!」


「はあ。何がでしょう?」


 だからなにゆえ疑問形なんだ!


「なんで白雪さんが僕の洗髪や洗体したりするの?」


「夏さんの使用人だからでしょうか?」


 だーかーらー……なにゆえ疑問形?


「そういうところは一線引いて」


「お断りします」


 断じられた。


「何でさ?」


「わたくしが夏さんの使用人だからです」


「変態の気質でもあるの?」


「純粋に勤労精神と言ってくだされば、と」


「僕の裸を見るのも勤労精神?」


「夏さんは素敵なモノをお持ち……ですね」


 言葉の途中の三点リーダが不安を呼ぶ。


「体を洗うくらい自分で出来るから。それから髪も自分で洗えるから」


「だ・め・で・す」


 言い聞かせるように白雪さんは却下した。


「これからはわたくしが夏さんの洗髪と洗体を担当させてもらいます」


「なにゆえ?」


「それがわたくしのレゾンデートルです故」


「本当に洗っちゃうの?」


「ええ。隅から隅まで。いけませんか?」


「いけないね」


「そこは妥協してもらうとして……」


 それ。


 使用人のセリフじゃなくない?


「夏さんの体にご奉仕したいのです。夏さんに身も心も捧げたいのです」


 う。


 そう言われると。


「痛いなぁ……」


 そう思わざるを得ない。

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