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169/545

メイドさんは突然に03

「とりあえずお茶淹れるからくつろいでて」


「何をおっしゃいます。使用人であるわたくしこそがご主人様に茶をふるまうべきです」


「…………」


 何だかなぁ。


「ご主人様呼びはやめて」


「では旦那様と」


「却下」


「夏様?」


「様は嫌いだな」


「ええ!?」


 ……そこで驚くんだ。


「夏でいいよ」


「夏……さん……?」


 どうやら呼び捨て禁止だけは何があろうと譲れないらしい。


「夏さんね。それでお願い」


「わかりました。ごしゅ……夏さんの言う通りに」


 良かれ良かれ。


 結局お茶の準備は白雪さんにとられた。


 湯を沸かしてしばし。


 茶を淹れてふるまわれる。


 ダイニングで二人。


 僕らは対面して茶を飲んだ。


 白雪さんは最初、


「夏さんと席を囲むわけにはまいりません」


 とか言ってたけど懇願となだめすかしで席に着けた。


 茶を飲んでひととき。


 ようやく事情を冷静に把握する。


 というか邪気が無いからって家に上げた時点で白雪さんの空気に呑まれた証拠だろう。


「君は誰? 何の用?」


「先述しましたが……」


 ティーカップのふちを指でなぞりながら。


「わたくしは瀬川白雪と申します。年齢は夏さんと同じです。此度夏さんを補佐するために参上しました」


「えーと……」


 痛むこめかみを人差し指で押さえる。


 白雪さんの着ている服は薄手のメイド服。


 つまり……、


「もしかしてここに住み着くつもり?」


「ええ」


 それが何か?


 と副音声が聞こえてきそうな簡潔さだった。


「夏さんを物理的にも精神的にもフォローするのがわたくしのレゾンデートルです故」


 サファイアの瞳に虚偽は無かった。


「男女七歳にして……って知ってる?」


「言葉としては」


 何だろう?


 この状況。


 メイドさんが現れて慕ってくれてご奉仕してくれて一つ屋根の下で暮らすと言い出す。


 コレナンテエロゲ。


「白雪さんはそれでいいの?」


「そのためのわたくしです」


 さいでっか。


 どうしたって警戒心が先に立つ。


 詐欺の類には思えないけど必然性が圧倒的に足りていない。


「契約金を用意させてもらいました」


 契約金?


 リビングに置きっぱなしの白雪さんの荷物。


 その大きなアタッシュケースとキャリーバックの内、アタッシュケースの方を持ってきてダイニングテーブルに乗せる。


 何だろう?


 そんなことを思っていると、カチンと施錠が解かれて開帳される。


 中に入っていたのは無数の札束だった。


「……っ!」


 絶句するのもしょうがないだろう。


 白雪さんの無造作加減と現実としてのアタッシュケース内の大金が両立していなかった。


「十億円あります。足りなければいくらでも補充いたしますので遠慮なくおっしゃってください」


「この大金は……?」


「先述しましたが契約金です。夏さんの家に泊めてもらうのです。それ相応の契約金が必要になると思い用意させてもらいました」


「ええ~……?」


「足りませんか?」


 いや。


 足りる足りないの話ではなく……。


「白雪さんはメイドさんなんだよね?」


「はい」


 率直に肯定するのもどうよ?


「普通こういう場合は僕が白雪さんに給料を払う立場じゃない?」


「わたくしが夏さんに求めるものはありません。あえて言うならば夏さんにはわたくしを受け入れてもらえれば幸いです」


 受け入れるって……。


 エロゲじゃあるまいし。


「わたくしは夏さんのメイドです。それを受け入れてもらえれば他に何も要りません」


 蒼い瞳は不安に揺れていた。


 拒絶を恐れる光だ。


「あー……」


 茶を一口。


 悪い人じゃなさそうだ。


 そう思う。


「じゃあお願いします」


 気づけばそう言っていた。


 パァッと花咲くように白雪さんの笑顔がほころぶ。


 僕の家にメイドさんがやってきた。


 喜ぶところなんだろうか?

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