メイドさんは突然に02
ニュース番組を見ながら時間を潰していると、玄関ベルが鳴った。
ピンポーンと一つ。
「はいはい」
玄関対応する僕。
これも今までは両親がこなしてきた面倒事だ。
施錠はしてないのであっさりと玄関を開ける。
「どなたでしょう?」
そんなお決まりの文句を並べながら客と対面する。
そして、
「……っ!」
絶句する。
何故か?
それはお客様が大層な美少女だったからだ。
背丈や顔の造りから、
「同年代くらいだろう」
という概算は出来た。
ただ同年齢と云い難い雰囲気を客である美少女は持っていた。
髪は青く透き通っている。
サファイアを溶かして染料にしたような色だ。
瞳も同色。
蒼い美少女と云えるだろう。
瞳には控えめな情熱と優しさを湛えている。
何より着ている服がぶっ飛んでいた。
メイド服。
エプロンドレスである。
蒼いショートヘアにもメイドカチューシャをつけている。
手荷物は大きなアタッシュケースとキャリーバックが一つずつ。
何の用だろう?
至極真っ当な疑問。
別にデリヘルを呼んだ覚えはない。
ましてメイドさんプレイなぞ指定した覚えもない。
「蝉川夏様ですよね?」
「はあ……そうですが……?」
ぼんやりと返す。
蒼色のメイドさんは慇懃に一礼すると、
「今日から夏様……ご主人様を奉仕する任を持つ瀬川白雪と申します。どうぞよろしく」
戯けたことを言ってのけた。
「ええと……ええ……?」
困惑する他ない。
いきなり玄関にメイドさんが現れたと思えば、
「僕に奉仕する」
と言ってのけたのだ。
混乱しない方がどうかしている。
蒼色のメイドさん……瀬川白雪さんは頭を上げるとニッコリ笑った。
「…………っ!」
瞬時に紅潮する僕。
誰だって美少女に微笑まれればこうなるだろう。
それにしても瀬川白雪さんは絶世の美少女だ。
サファイアの髪と瞳にメイド服。
さらには、
「蝉川夏に奉仕する」
とまで言ったのだ。
意味が分からないにもほどがある。
「ええと……」
言葉を検索する。
「瀬川さん?」
「白雪で構いません。むしろそう呼んでください」
有無を言わせぬ口調だった。
「白雪さん……」
「さんはいりません」
「………………ダメ」
「と仰いますと?」
「何があっても『さん』はつけさせてもらうよ」
「ふむ……」
と思案した後、僕の瞳を覗き込むと、
「はいな」
受諾してくれた
ニコリと微笑む白雪さんは愛らしかったけど、それでいいのか瀬川白雪さん。
「ええと……何の用?」
「ですから……今日から蝉川夏様、転じてご主人様を補佐する使用人でございます」
意味不明なことをのたまう白雪さんだった。
「メイドさん?」
「はいな」
肯定は一瞬。
特に気後れた様子はない。
「どんなドッキリ?」
まずはそこを疑うべきだろう。
「ドッキリではありません」
白雪さんはそう否定してのけた。
「とは言われても……」
これは僕の困惑。
いきなりメイドさんが現れて僕をご主人様と呼ぶ。
しかも美少女。
これで裏を読むなと言う方が無理だ。
「間に合ってますんで」
迂遠に断りの言葉を言うと、
「そうはいきません」
白雪さんは断固たる口調で否定した。
「ご主人様をサポートするのがわたくしの役目でありますれば」
「ご主人様って誰?」
「蝉川夏様に相違ありません」
「うーむ」
「誓って後ろ暗いことは有りません。どうかわたくしにご奉仕なされてください」
デリヘル……では無いことはわかった。
だけど疑問は尽きない。
「なんで僕がご主人様?」
「それがわたくしのレゾンデートルでありますれば」
会話になってるようでなっていない。
そんな印象を受けた。
「とりあえず」
と白雪さん。
「家に上がらせてもらえませんか?」
「いいけどさ」
少なくとも害意が無いのは理解できた。
お客さんとして振る舞うことにも否やは無い。
「では失礼します」
そして白雪さんは僕の家に侵入するのだった。




