バイオレンスカウンター14
水月は九李から目を借りてアシュレイの居場所を確認した。
そこはイクスカレッジの南……繁華街と裏街の間に建てられた一棟の廃墟ビルだった。
イクスカレッジが故意的に黙認している以上、裏街に廃ビルが産まれるのはしょうがないことでもあった。
そしてその廃ビルで……水月が確認したところパーティが開かれているのだった。
アシュレイもそのパーティに参加している。
いわゆる一つのドラッグパーティだ。
集団で麻薬を服用する集まりを指す。
この場合の麻薬はハオマ……である。
水月は月明かりに照らされている廃ビルを眺めて、それから情報端末を使い救急車を呼んだ。
ともあれ、
「じゃ、行くか」
あっさりと水月は言って、それに真理とシアンが続く。
ビルの一階には受付があって、キツネがなめまわすように水月たちを鑑みるのだった。
「何? 何の用?」
不躾なキツネの言葉に、
「ちょっとドラパに参加させてほしくてな」
「飛び入り?」
「そうとも言えるかもな」
「五百ドル」
「これで足りるか?」
そう言って水月は紙幣の束をドサッと受付に置いた。
百万円の束だ。
あまりに不意打ちの大金を目にして、
「……っ!」
キツネは絶句した。
それから百万の札束を確認した後、
「申し分ねぇ。案内するぜ」
そう言って一種の敬意を水月に持ってドラパの会場である上の階へと先導する。
ドラッグパーティの会場……そこは混沌とした場であった。
誰かの哄笑がひっきりなしに続くかと思えば泣き上戸の慟哭も聞こえてきてとにかくカオスな空間だった。
そしてその一人、アシュレイ=メイザースがドラパの会場にいた。
「あはは……あははは……!」
ハオマはアッパー系のドラッグだと水月は既に聞いている。
アシュレイが気が触れたように笑いつづけるのも全く不思議なことではない。
そしてアシュレイは水月と真理とシアンを見つけると、
「あはは! 役先生! 見て見て! アスモデウスの召喚に成功したの! どう! すごいでしょ!」
そんな自慢をしてくるのだった。
しかして水月たちの視界にアスモデウスは映っていない。
どう考えても麻薬にやられて幻覚を見ているに相違ないことは、水月たちには手に取るようにわかった。
要するに事態は簡潔だった。
魔術の訓練にて魔術を覚えられなかったアシュレイが魔術を扱えるようになる薬……ハオマに手を出した。
ただそれだけの簡単な事実だ。
「手を出すなって言ったのにこの馬鹿は……」
そう呟くと水月はアシュレイの首筋を掴んで頸動脈を絞める。
数十秒後……血流を止められたアシュレイは気絶するのだった。
それから気絶したアシュレイを抱えて水月は廃ビルを後にする。
他にもハオマに手を出した愚か者は多数いたが、それらを救うまで慈善事業を行なうほど水月は優しくはない。
「勝手にやっていろ」
というのが本音である。
そしてアシュレイを事前に呼んでいた救急車に乗せて病院へと向かう。
イクスカレッジ南部では一番大きな病院だ。
救急車の中では、
「ああ、お嬢様……!」
とシアンが哀惜極まったようにアシュレイへと呼びかける。
「…………」
水月は無言だ。
アシュレイの所業については自業自得だと思っているし、そうじゃなくとも勝手にやっていればいいと言う判断だ。
「…………」
なのにこうやって救急車に付き合っている。
ふつふつと滾る感情が何なのか。
理解はしているものの、面倒だという感情も否定はできない。
「…………」
だから悩む。
この感情をどうすればいいのか。
水月は悩む。
この感情を何処に向ければいいのか。
「…………」
無論、答えは決まっている。
要するに、
「やるなら徹底的に……か」
そういうことなのだった。
それはゴキブリ駆除に似た感情だ。
自分の知らないところでならいくらでも好き勝手にどうぞ、と。
しかして視界の端に映れば不愉快を催す。
まして正面から堂々と活躍されたのならば忌々しいなんてレベルを超えて殺意すら覚えるのだ。
「お嬢様……!」
シアンがアシュレイの手を握って悲観する。
「わたくしはお嬢様の心情を理解してなどいなかったんですね……。よもやここまで追い詰められていようとは……」
そんなシアンの言葉に、
「ハオマに手を出したのはアシュレイの勝手だ。お前が気にすることじゃない」
水月は意味の無いフォローを入れた。
「お嬢様……!」
シアンは苦悩しているらしかった。
水月にはどうでもいいことだが。
「まだそんなにハオマの服用はしていないだろ。除毒治療を続ければなんとかなるさ」
半端な優しさを見せる水月。
胡散臭いのは百も承知だ。
しかしてシアンを慰めるのは必要事項だ。
アシュレイのためにも。




