バイオレンスカウンター05
「あー……死ぬ」
水月は愚痴を吐く。
「もう駄目だー……」
濡れタオルを目に当てて椅子にもたれかかってうんざりとする水月。
「何を情けないことを」
とこれはアシュレイ。
「役先生はわたくしを指導するという義務があるのですの」
正論だがソレが通じないのも水月である。
ちなみに時間は昼休み。
場所はコンスタン研究室。
その場にいるのは水月とラーラと真理とアシュレイとシアンである。
「面倒だな~」
水月は本音を吐露する。
「まぁ先輩にしてみればよく動いている方だと思いますよ」
ラーラがフォローした。
「いつもの水月なら『勝手にやってろ』の一言で終わりますからね。そういう意味ではアシュレイは運がいいと思います」
真理もそれに続く。
「そんなものでしょうか?」
やや不機嫌なアシュレイだった。
「基本的に面倒事は他人に押し付けるのが先輩ですんで」
「そうそう」
うんうんとラーラと真理が頷く。
ラーラにしても真理にしても、水月という人間に対する一定の評価というか価値というモノを理解しているらしかった。
「じゃあわたくしは運がいいと?」
確認するようなアシュレイの言に、
「それも」
ラーラと、
「とびっきりね」
真理が同意する。
「面倒くせー……超面倒くせーよ……」
濡れタオルを双眸に当てて水月はぼやく。
「本人はこう言っていますの」
社長椅子に寄っかかっている水月を指差してアシュレイ。
「水月先輩はツンデレだから」
ラーラが言い、
「あー、わかるわかる」
と真理が追従した。
「とにかく捻くれてるっていうか……」
真理が言い、
「先輩の基本ですね」
ラーラが苦笑する。
くつくつと笑うラーラと真理に、
「うっせ」
と水月が反論する。
「コンスタン教授直々の命令なんだ。蔑に出来るかよ」
「そういう免罪符を持てばやる気出るってことですか?」
ラーラが皮肉る。
「殺すぞ」
水月は濡れタオルを目に当てたまま睨みつけるという矛盾した行為を行なう。
「でも事実水月はアシュレイに指導してるじゃないですか」
真理がフォローする。
無論それは、
「…………」
水月を不快にさせるだけだったが。
「だいたい魔術を教えるのなら俺じゃなくてもいいだろうがっ」
水月はそう抗議する。
「でもですねぇ」
「やはりですねぇ」
ラーラと真理は反論する。
「先輩以上に魔術師らしい魔術師なんていませんし」
「ある意味天然記念物ですよ」
正論を述べるラーラと真理に、
「うっせ……」
反論する術を持たない水月だった。
「そもそも水月はどうやって魔術を覚えましたの?」
これはアシュレイだ。
「どうもこうも。元々役一族は魔術に特化した一族だ」
水月は濡れタオルをひっくり返して目に当てながらそう言う。
「血統の違い……とでも言いますの?」
「率直に言えばな」
「…………」
納得いかないとアシュレイ。
「そもそもの資質において古典魔術の家系は新古典魔術や現代魔術に勝っている。これはある意味で真理だ。宇宙の絶対的法則だ」
「なにゆえ?」
「精神疾患を持って生まれてくるんだ。これ以上はあるまいよ」
「精神疾患?」
「要するに脳がぶっ壊れた状態で生まれてくるってことだ」
水月は、
「何を当たり前のことを」
と言う。
「だから脳を壊すために魔術師見習いは麻薬を服用するんだろう?」
「麻薬……脳の破壊……」
呟くアシュレイに、
「そ」
水月は肯定する。
「要するに」
とここで一呼吸。
そして、
「メイザースの祖が聖術師である以上、お前にそんな超越感は無いだろうがな」
「新古典魔術は血統として劣っていると言いたいんですの?」
「然り」
あっさりと水月。
「あーうー」
と呻いた後、水月は言うのだった。
「それを補助するために俺がいるんだがな」




