表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
初恋はさくらの如く
15/545

第一エピローグ14

 三秒後。


 プスプス、と、焦げて、煙をあげているチンピラを見下ろしながら、悪意も見せずに、ニッコリと笑うケイオス。


「私が警察官である以上、犯人の制圧および尋問のための魔術くらい持っているに決まっているだろう? それも傷をつけず後遺症を遺さず無傷で痛めつける……もとい犯人を無力化するための魔術を揃えていて当然だと思わないか?」


「鬼かお前は」


 水月の皮肉も、さらりと無視して、ケイオスは尋問を続ける。


「君たちの依頼主は誰だ?」


「ビーッチ」


 あくまで答えないチンピラに、


「――EvangelOf、Furfur――」


 電気ショックを与えるケイオス。


 言語化できない悲鳴を上げた後、チンピラは意識を失った。


「あ、しまった。やりすぎた……。どうしよう役君」


「どうしようって言われてもな。ともあれ、これじゃ背景を吐かせるのは無理っぽいな。だいたいにしてこいつらが依頼主を知っているかも怪しいし。それだったらネズミ用の仲介屋をあたった方がいいんじゃないか?」


「警察の協力を得られるならそれもいいのだが、アンネくんの素性を明かすわけにはいかないし……そもそも警察機構を信じられんと言ったのは役君だろう」


 困ったように、アンネを一瞥するケイオスに、


「やっぱり人海戦術じゃないとそういうのは無理か……」


 水月も、また困ったように、頭を掻いた。


「そもそも相手だって自分から、魔法メジャーのエージェントをしている者でして、なんて名乗るわけもないから情報元を辿っても無駄かもしれんが」


 ――どうしたものか、と水月が、溜息をついたところに、


「なるほど……役様にローレンツ様がお守りですか。魔術師が二人もでしゃばってはネズミでは相手にならなくて当然ですね」


 第三者の声が、聞こえた。


 とっさに振り向く、水月とケイオス。


 それに遅れて、アンネとラーラが、振り向いた。


 大通りへと続く、小路の向こう。


 そこを塞ぐように、一人の人間が立っていた。


「内部の人間を味方につけた可能性があるとの経過報告は入っていましたが……まさか役水月にケイオス=ローレンツとは……わからないものですね……」


 そいつは、とても奇妙だった。


 のっぺりと、地面の影から、垂直に生え出たような、黒一色のシルエット。


 その頭頂部、人ならば顔があるだろうあたりに、宗教的な模様を描いた仮面がついている。


 それは、単純に、真っ黒なローブを着て、仮面をかぶっただけの装いなのだろうが、ファッションというにはぶっとびすぎている。


 まるで、絵に描いた、邪神教の信者のような、不気味な雰囲気を感じる出で立ちだった。


 そいつは、言葉を続ける。


「ああ、申し遅れました。私、魔法メジャーのエージェントをしている者でして……と、こう名乗ればいいのでしょうか?」


 先ほどの水月たちの会話を聞いていたらしく、おどけたように言うそいつ。


 水月は直感的に、敵だ、と判断した。


 ケイオスも、似たようなことを思ったらしい。


「役君、あいつは……」


「多分、だろうな……」


 出るものが出た、といった心境だった。


 アンネも、一つ遅れて気付いたらしい。


「水月ー……もしかしてあれってー……」


「お前を狙ってる当人……だろうな」


「じゃあ魔法メジャーの手先ー……?」


「ええ、そうですよ」


 アンネの言葉に、黒衣仮面が、素直に答えた。


「カイザーガットマン様、お迎えにまいりました。どうぞこちらに」


 うやうやしく一礼しながら、ぬけぬけと言う、黒衣仮面。


「意外と礼儀正しい奴だな」


「カイザーガットマン様はその卓越した魔術によって魔術師としての最高の名誉たる無形魔法遺産に選ばれたお方。粗相のないよう接するのは最低限の礼儀というものです」


 あくまで、真面目に返す、黒衣仮面。


 納得する水月。


 向こうにしてみれば、アンネマリーは重要人物だ。


 VIP待遇も頷ける……というものである。


 が、当のアンネは、その自覚がないらしく、コソコソと隠れるように、水月の背後にまわって、それから恐る恐るといった様子で、黒衣仮面に話しかける。


「あのー私ー魔術なんて使えないんですけどー。人違いじゃー?」


 二重人格の自覚がないアンネにしてみれば、それは寝耳に水だった。


「いいえ、間違いございません。さあこちらにおいでくださいカイザーガットマン様」


 言いながら、すすす、と、音もなく歩み寄ってきた黒衣仮面に、


「――現世に示現せよ、前鬼戦斧――」


 水月が、魔術を撃った。


 水月の手元から発生した斬撃が、くうを飛び、黒衣仮面の足元に、深い爪痕を残す。


 それはつまり、


「それ以上近づくな」


 という警告だ。


「……何のつもりですか?」


 不思議そうに聞いてくる黒衣仮面に、細く笑う水月。


「まぁえらくアンネを持ち上げちゃいるが、それは要するにこいつの脳髄をえぐりとってコレクションにしようって話だろ? どうぞどうぞ、とは言えんわな」


「なるほど、無形魔法遺産の内実を知っている。マリー様と接触したようですね」


 黒衣仮面は、否定しなかった。


 水月の中の、悲嘆と絶望が、色を深くする。


「しかしそれは蒙昧というものです。カイザーガットマン様の貴重な能力は保存されてしかるべきものです。言い換えるならばそれはカイザーガットマン様に永遠の命を与えるための我々の崇高な使命。安易な人道主義などつけ入る余地はありません」


「ものは言い様だな」


「……ふむ、どうやら言葉では通じないようですね」


 困ったように呟く黒衣仮面が、何かしらのアクションを起こすより…………疾く、


「――迦楼羅焔――」


 水月は、炎の塊を、黒衣仮面に叩きつけた。


 不意打ち。


 炎は、黒衣仮面に接触するや否や、大爆発をおこし、光と熱と音を、四方に八散させる。


 同時に、


「――EvangelOf、Haborym!――」


 ケイオスが、魔術を発動させた。


 ケイオスの手元から、炎の濁流が生まれ、黒衣仮面の立っていた場所を陵辱。


 直後に爆発四散。


 爆発の中から、さらに爆発が生まれ、熱風が、水月たちの肌を舐めた。


 急すぎる水月とケイオスの凶行に、口をあんぐりと開けるアンネとラーラ。


「ちょー……ちょっとやりすぎじゃないー?」


「水月先輩……ローレンツ先生……これ……あれ……死んだんじゃ……」


「馬鹿言え」


 が、水月は、立ち上る炎と煙を、油断なく見据える。


「相手は本場の魔術師だぞ。こんなんで死んだら御の字だ」


 そう言ってアンネとラーラの首根っこを掴んで、ケイオスに目で合図をする水月。


「ケイオス、足止め頼む」


「任された」


 一つ頷くケイオス。


「ど、どうするのー水月ー」


「逃げる」


 アンネの疑問に、きっぱりと言い切って、水月は走り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ