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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
現代における魔法の定義
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楽しい魔術の実践論11

 イクスカレッジの最北端は魔術の演習場としての機能を持っている。


 魔術師を目指す者は、何故かは明確に裏を取れてはいないのだが、攻性魔術を覚えようと躍起になる傾向がある。


 そして学園都市であるイクスカレッジのど真ん中で攻性魔術をぶっ放されたら被害甚大である。


 水月にもソレについては前科がある。


 そういうわけでイクスカレッジ本体に余計なダメージが出ないように魔術の演習は北の端っこで行なう取り決めなのだった。


 攻性魔術なら尚更だ。


 しかして水月を含むコンスタン研究室のメンバーはイクスカレッジの本当の意味での最北端に来ていた。


 つまり北大西洋をその視界に収めているのだ。


 イクスカレッジの円周を囲む高い壁の外側。


 アシュレイとシアンが壁の外側で北大西洋を見ながらポカンとする。


「あー……」


 とこれは水月。


 やる気も無さそうに「じゃあ始めるか~……」と言葉をこぼす。


「役先生……」


「なんだ?」


「何ゆえ演習場じゃなくわざわざこんな外壁の外側まで来て魔術の演習なんですの?」


 まったくわからないとアシュレイが言う。


 答えて水月は、


「ちょっと俺の魔術は強力すぎるからなぁ」


 そんなことを言う……どこまでもやる気無さげに。


 そこには自慢も自負も存在してはいなかった。


 当たり前のことを言わせるなとばかりに気だるげな感情だけで水月は答えたのだ。


「アシュレイ。麻薬は服用してきたか?」


「当然ですの」


「さて、じゃ魔術の訓練をするより先にお前に渡すモノがある」


 そう言って水月はアシュレイに杖を渡した。


 ハイファンタジーの物語に出てきそうな、木製で教鞭のように小さく細く適度な長さの杖である。


「コレはいったい何ですの?」


 与えられた教鞭のように適度な長さの杖を持ってしげしげとアシュレイは見つめる。


「マジックアイテムだ。分類はウィッチステッキ。イクスカレッジでは初心の杖と呼ばれてるな」


「初心の杖……ですの……」


「要するに魔術の初心者がもっぱら持つ杖のことだ」


「マジックアイテムと言いましたの……」


「言ったな」


「この杖を持てば魔術が使えるんですの?」


「いや? 魔術が使えるかはお前次第だ」


「マジックアイテムじゃないんですの?」


「マジックアイテムだが……分類はウィッチステッキだからな」


「何ですの? そのウィッチステッキとは……」


「要するに魔女にとっての杖となるモノだ……とか何とか言っても何のことやらわからんだろうな。つまり魔術のイメージを補助するためのアイテムの総称をウィッチステッキと呼ぶ。今お前が持っている杖や……後は魔法陣なんかもウィッチステッキに含まれる。魔術を使うにあたってのイメージ強化……条件付けとしてのマジックアイテムのことだ」


「条件付け……」


「魔術に慣れていったら杖無しでも魔術は使えるようになる。ただ初心者は杖を持って気分を出した方が魔術を発生させえやすい。そのための初心の杖だ」


「なるほどですの……」


 そう言ってヒュンヒュンとアシュレイは初心の杖を振る。


 水月もまたもう一つの初心の杖を握ると、


「あ~……じゃあ演習を始めるか」


 そう述べた。


「俺とお前の杖を重ねて呪文を唱えるぞ。魔力の入力の呪文は『現世に示現せよ』で魔力の演算の呪文は『迦楼羅焔』。魔力の入力のイメージは任せるとして魔力の演算のイメージはファイヤーボールだ。炎の球が飛んでいって爆発するソレだな」


 並べたてる水月の言葉を、


「現世に示現せよ……迦楼羅焔……ファイヤーボール……ですの」


 アシュレイは要点だけ繰り返す。


「よし。じゃあ海に向かって放つぞ」


 そう言って水月はアシュレイの背後にまわってアシュレイとともに初心の杖を同方向たる水平線へと差し向ける。


 そして水月が、


「オンマユラキランデイソワカ……」


 と条件付けを言の葉として放ち思考のセーフティを外すと、自身とアシュレイとが呪文を唱えた。


「「――現世に示現せよ。迦楼羅焔――」」


 水月とアシュレイの言葉が重なる。


 次の瞬間、熱力学第一法則が崩れた。


 水月とアシュレイのピンと伸ばした初心の杖の先から炎が生まれた。


 炎は一瞬で拡大し神鳥の形をとると水平線の向こうへと羽ばたき、そして十分にイクスカレッジとの距離をとってから大爆発を起こした。


 閃光……後に衝撃と爆音が水月たちを叩く。


 ミサイルもかくやと言わんばかりの威力だった。


「「…………」」


 アシュレイとシアンはポカンとした。


 言葉も無いらしい。


 当然だろう。


 ファイヤーボールどころの騒ぎではない。


 水月とアシュレイの杖の先から生まれ出でた炎は球ではなく炎の鳥の形でもって戦術級の爆発を起こしたのだ。


 驚くなと言う方が無茶だろう。


「相も変わらず非常識な威力ですね……」


 これはラーラ。


「どこがファイヤーボールですの!」


 アシュレイがつっこむ。


「ま、今のは冗談」


「冗談って……それにしたって……ですの……」


「本番だ。杖を重ねろ」


 至極真面目にそう言って水月はピンと初心の杖を大西洋の水平線に向ける。


 アシュレイも初心の杖を水月のソレに重ねる。


 そして呪文。


「「――現世に示現せよ。迦楼羅焔――」」


 次の瞬間、熱力学第一法則が崩れた。


 水月とアシュレイのピンと伸ばした初心の杖の先から炎が生まれた。


 炎はバスケットボール大の球となり水平線目掛けて飛び、そして爆発を起こした。


 先の迦楼羅焔よりも二回り以上小さな爆発である。


 そして水月が言う。


「これをお前には覚えてもらう」


「なんだかさっきの迦楼羅焔に比べれば……こう言っては何ですが地味ですの」


「そのために真なる迦楼羅焔を先に撃ったんだよ」


「どういうことですの?」


「ブリアレーオの法則を覚えているか?」


「術者が価値を重く置く現象ほど魔術での再現が難しくなる……でしたの。ああ、なるほど。つまり本命の魔術の価値を薄めるため、あえて先に強力な魔術を行使してみせたのですの……ね?」


「そういうこと」


「それならそうと先に言って欲しかったですの」


「それだと覚悟を持っちまうだろ」


「それは……そうなのですけど……」


「麻薬はまだ利いてるか?」


「四時間くらいは大丈夫ですの」


「あっそ。なら先の現象に価値を置かないまま強くイメージしろ。炎の球が杖の先から生まれ出でて当然という意識をしろ」


「難しいことを言ってくれますの……」


「そうじゃないと魔術が使えないんだよ」


「難儀な浮世ですの」


 嘆息して、それから、


「現世に示現せよ。迦楼羅焔……!」


 とアシュレイは呪文を唱えた。


 当然……魔術は発動しなかった。

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