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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
初恋はさくらの如く
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第一エピローグ13

「要するに、遺体がなくなっちゃったら、人はもう生き返らないって事でしょー?」


「アークにアクセスして、当人のオリジナルデータを引き出せれば、話は別だがな」


「アークー?」


「……要するに遺体がなくなったら人はもう生き返らないってことだ」


 もう説明すら億劫になって、水月は、アンネの結論を復唱した。


「しかし……そうするとさくらを生き返らせるってのは絶望的だな。いや、まだ死んだと決まったわけじゃないが……」


 椅子の背にもたれかかって、空に溜息をつく水月。


 さくらが死んでいるかもしれない――――などという可能性を提示されたにも関わらず、水月の思考は、冴えわたった。


 それは水月にとっては、夢幻のように、儚い認識だった。


 急に言われて、信じれるはずもなかった。


 焦って、自問して、取り乱して、そういった乱心をするべきだろうか、とそこまで考えてから水月は、「無意味だな」と結論付ける。


 隣で紅茶を嗜んでいたケイオスが、難しい顔をして、水月の思考に水を差した。


「それよりも問題は魔法メジャーの悪行だろう。組織ぐるみで優秀な魔術師を集めては非人道的な所業をほどこすなど……それを見捨てておける正義なし。告発すべきだ!」


「できるならやってる」


 やたら、使命感に燃えた発言をしだすケイオスに、水をぶっかける水月。


「そもそもにして情報の出どころが既に不透明なんだぜ? 俺ですら疑ってるのに誰が真に受ける? 仮にイクスカレッジでも国際連合でもその話を馬鹿正直に信じ込んで魔法メジャーを告発したって、向こうが笑顔で否定すればそれで終わりだ」


「……我々は無力だ」


「結局アンネがその足で逃げるしかないってことだ。個人の持ちうる力ってのは脆弱だーね」


「他人事みたいに言わないでよー」


「他人事だし。正直なところ葛城さくらが死んでるってんなら他の誰がどうなろうと俺の知るところじゃあ……ないな」


 にべもない水月であった。


「むしろ俺としてはアンネの盛大な勘違いであってほしいんだが」


「昨日襲われたことは現実だよー」


「それなんだよな……」


 がっくりと、うな垂れる水月。


「初恋の君たる葛城さくらの死を前に役水月は茫然自失とした……」


「水月先輩? モノローグがだだもれてますよ?」


 ラーラのつっこみは、無視する水月。


「あー……ケーキ無くなったー……」


 どこまでも無頓着なアンネが、全ての問題を無視して、そう呟いた。


 同時に、


「――現世に示現せよ、千引之岩――」


 水月が、呪文を唱えた。


 不可視の障壁が、水月の背後に創られ、それはナイフを弾いた。


 ナイフを弾かれ驚いた様子の男……其へと振り返り、水月は座っていた椅子を持つと、男の脳天へ、勢いよく叩きつける。


 男は昏倒した。


「……っ!」


 突然の水月の凶行に、ラーラにアンネに、周囲の客が言葉を失う。


「嗅ぎつけられたみたいだね」


 ケイオスだけが、冷静に、そう呟いてみせた。


 テラスの外側に、チンピラが複数人、待ち構えていた。


 計四人。


 アンネが怯えて、水月の背中にまわった。


「……昨日は世話になったな」


 視線で人を殺そうか、といわんばかりに睨みつけながら、チンピラの一人が、そう言う。


 たしか昨日見た顔だったか――などと、おぼろげに記憶を掘り起こしていた水月の横で、


「おい役君、このパセリよりも主役になれなさそうな群像どもが例のネズ公か」


 ケイオスが、平然と、地雷を踏んだ。


 チンピラ全員の背中から、殺気が立ち上ったが、ケイオスは気にするそぶりもない。


 さすがに警察官は慣れているか――と納得する水月。


「せ、先輩……」


「水月ー……」


 対して、ラーラとアンネは、怯えたように、水月の服の袖をつまんでいる。


「まぁこれもいたしかたないか」


 と納得する水月。


「で、何の用?」


 水月は、昨日のチンピラに、問いかける。


 チンピラの答えは、簡潔だった。


「カイザーガットマンを渡せ」


 そらそうだわな、と納得する水月。


「わ、渡しちゃ駄目よー?」


 怯えながらも抗議するアンネ。


 少し笑った後、水月は、アンネの頭を、優しく叩いた。


「大丈夫だ。というわけで後はよろしくメカドッグ」


 水月の冗談に、


「おまかせピタゴラス」


 答えたケイオスが、


「――EvangelOf、Vepar――」


 呪文を唱えた。


 ――熱力学第一法則が、崩壊する。


 突然、発生した突風が、チンピラ四人を、まとめて吹き飛ばすと、そのまま意識を奪った。


 何事か、と驚いて現場を見る通行人や、喫茶店のテラス席の客を無視して、ケイオスは手錠を五つ取り出した。


「用意がいいな」


「こんなこともあろうかと」


 どこかで聞いたようなセリフを言って、チンピラ五人の両腕を手錠で拘束すると、ケイオスは、気絶しているチンピラたちの首根っこを引っぱって、小路へと潜り込む。


 後に続く、水月とアンネとラーラ。


「そいつら、逮捕しないのか?」


「しない」


 水月の疑問に、簡潔に答えるケイオス。


「アンネくんはイクスカレッジに不法に侵入しているのだろう? そのあたりのことを詰め所で喋られるとややこしくなる」


「たしかに……」


 納得して頷く水月。


 小路の奥で、ケイオスがチンピラ五人を寝かせて、しばし。


 昨日のチンピラが、いち早く目を覚ました。


 チンピラは呆然とした後、事態を理解したのだろう……憎々しげに、ケイオスを見上げた。


「その腕章……ストパンか。ちっ、運の悪い」


「そんなことはどうでもいい。それより貴様らネズミなんだろう? 依頼主は誰だ?」


 尋問を始めるケイオス。


「へっ、依頼主は誰だって聞かれて正直に答える馬鹿がいるかよ……」


 案の定、反攻的な態度を示すチンピラに、


「……そうか」


 と一つ頷き、


「――EvangelOf、Furfur――」


 ケイオスは、躊躇なく魔術を起こした。


 ケイオスの右手から、雷光が閃くと同時に、


「ギャーッ!」


 チンピラの体に、電気ショックが迸り、悲鳴がこだました。


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