劣等生への講義11
夕方。
ダアト図書館近くの甘味処ロマンス。
お馴染みの場所にて水月とラーラと真理は席を囲んだ。
テラス席である。
水月はアイスコーヒーとモンブラン。
ラーラはアイスティーにショートケーキ。
真理はハーブティーにオペラ。
水月が栗を征服にかかっているところに、
「で、先輩……」
とラーラが声をかける。
「何だ?」
「正直手応えはどうですか?」
「主語は明確に」
「アシュレイのことですよ」
「あー……アイツね……」
水月はモンブランを咀嚼、嚥下する。
それからストローでコーヒーを飲み下し、
「仮にもメイザースの家に生まれたんだから環境は悪くないはず……とは少しばっかり思わないでもない」
「でも色んな西洋魔術組織をたらいまわしにされてイクスカレッジにおはちがまわってきているんでしょ?」
「だな」
「何が原因だと思います?」
「わかってて聞くか普通?」
「ブリアレーオの法則……ですか……」
「え?」
「は?」
水月とラーラはポカンとした。
「違うんですか?」
「それもあるかもしれんがもっと端的な条件があるだろ」
「なんでしょう?」
と問うたのは真理。
オペラをフォークで崩しながら、である。
「魔術の基礎を習っていないから……だと思う……」
水月はそこまで言って、
「多分」
と余計な言葉を付け加えた。
「魔術の基礎って……」
ラーラが、
「何を……」
と言う。
「メイザースの家に生まれたならそれくらいは施されているのでは?」
「どうだかな」
水月は曖昧模糊だった。
「違う……と水月は言うんですね」
真理が拾い上げる。
「そもそもメイザースの祖……マグレガー=メイザースはソロモン七十二柱の魔神を召喚できた。これはいいな?」
「ですね」
「はい」
「じゃあ聞くがそれは魔術だろうか?」
「それは……」
「違うと思います……」
「当然だ。魔術はただでさえ精神崩壊の土壌の上に建っている城だ。魔術を一つ覚えるだけでも脳を魔術向けに壊さなければならない」
「…………」
「…………」
「魔術を一つ覚えるだけでもそれだけの代償が必要なんだ。魔術を複数覚えるってことは人格を分裂させて魔術の数だけ構築することに他ならない」
「…………」
「…………」
水月はモンブランを嚥下する。
「結論として七十二種類の魔神をそれぞれ呼び出すってことは七十二重人格を持たなければならない。ジキルとハイドも真っ青だな」
「聖術……」
ポツリと真理が呟く。
水月がその言葉に頷いた。
「そうだ。おそらく始祖マグレガー=メイザースはゲーティアを通してアークのソロモン七十二柱の項目にリンクしていたはずだ。そうでもなければ説明がつかん」
「つまりマグレガー=メイザースは魔術師ではなかった……と?」
ラーラの疑問に、
「他にあるめぇよ」
水月はいっそさっぱりと答える。
「であるからマグレガー=メイザースの聖術を見て育ったメイザースの後継は苦労しただろうな。聖術を魔術で再現しろってんだから」
「つまりメイザースの血統には後継を育てる下地が出来ていないと? それ故にアシュレイは苦労していると?」
「当然ながら魔術における才能の問題もあるだろうな。事実メイザース家の麒麟児……アシュレイの姉であるアシュリー=メイザースは《アスモデウスのアシュリー》と呼ばれている」
そう言って水月はコーヒーを飲む。
「アスモデウスのアシュリー……」
ラーラが呆然と言う。
「水月とどっちが上ですか?」
真理は興味本位でそんな質問をする。
「負ける気はしないな」
くつくつと水月は笑う。
「自己観測者故ですか?」
「それだけじゃ……ないんだが……」
人差し指で頬を掻く。
「問題は……」
水月がうんざりと言う。
「アシュレイが現代魔術を許容できるかってことに尽きるな」
そして水月はモンブランにフォークを刺した。




