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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
現代における魔法の定義
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劣等生への講義08

 対してアシュレイは、


「古典魔術……」


 と水月の言葉を反復する。


 古典魔術。


 それは各国に伝わる神話や伝説を再現する魔術を指すのだ。


 基礎にして大元。


 全ての魔術の祖ともいえる魔術である。


 水月は頬杖をついたまま指折り数える。


「日本なら神道……仏教……陰陽道……密教……修験道……この辺りが有力か。ちなみに俺、役水月の属している役一族は修験道の大家だ」


「修験道って何ですの?」


「先に述べた神道……仏教……陰陽道……密教……に山岳信仰をミックスしたわりと節操のない古典魔術のパワーイメージだ。小角のじじい……俺の祖である役行者が開祖の宗教だから役一族は代々修験道の魔術を受け継いでいる。役行者って聞いたことないか?」


「ないですの」


「そうか。まぁ安倍晴明や天草四郎ほど有名な魔術師じゃないしな。それでも日本じゃ有力な魔術師の一人だ……って言うと身内自慢か?」


「そんなことありませんよ。実際先輩以上の修験道の体現を成している魔術師ですから。それだけでその実力が窺えようというものです」


 水月の軽口にラーラがそうフォローする。


「ところで……」


 これはアシュレイ。


 金眼に疑問を乗せて水月に問う。


「パワーイメージって何ですの?」


 ゴスっと水月の額が教卓にぶつかった。


 要するにずっこけたのである。


「そんなことも知らんときさんはイクスカレッジに来たんかい!」


 体勢を持ち直すと水月は激昂した。


「そんな単語どこの組織も使ってなんかいませんでしたの」


 むぅと頬を膨らませて反論するアシュレイ。


「魔術の基礎だろうが! 昨日と今日講義に出たんだよな? なら習うはずだろ?」


「昨日の講義はグリモワール研究で今日はトランスセットの講義しか受けていませんの」


「…………」


 言葉も無いとはこのことだ、と水月は心底思うのだった。


「真理……」


 と水月が真理を呼ぶ。


「何でしょう水月?」


「俺の講義に出ている以上お前もラーラも俺の生徒ということになる」


「ですね」


「じゃあ講師から生徒真理に質問だ。パワーイメージとは何ぞや?」


「ある種の例外を除いて……魔術を扱うにあたって骨子や背景となる神秘主義の思想のことを指します」


「はい正解。わかったかアシュレイ?」


「?」


 わからないとアシュレイは目をパチクリさせる。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 と長くため息をついた後、


「つまり魔術思想の背景になる《力ある想像》のことだ。お前の血統……メイザース家ならばソロモン七十二柱の魔神がソレにあたる。あるいはアレイスター=クロウリーならタロットのアルカナだったりする。ユダヤ教をパワーイメージに持てばカバラやゴーレムやゲマトリアを行使した魔術を発動できる。つまりさっき真理が言った通り、魔術を扱うにあたって骨子や背景となる神秘主義の思想のことを指すんだよ」


「なるほど……」


「こんなもの近代現代魔術の基礎だぞ。予習くらいしてこい」


 うんざりと言う水月に、


「先輩がソレを言いますか……」


 ラーラが控えめにつっこむ。


 当然無視する水月。


 それからまた頬杖をつきなおして水月は指でパワーイメージを数える。


「そうだな……古典魔術のパワーイメージの他に名のあるものといえば……中国なら仏教……儒教……道教……風水あたりか。旧約聖書ならユダヤ教……キリスト教……イスラム教……。あるいは他に言うのならブードゥー教……ルーン魔術……北欧神話……魔女術……ギリシャ神話……ローマ神話……バビロニア神話……スラヴ神話……ケルト魔術……エジプト神話にエジプト魔術……インド神話……インディアン信仰……黄道十二宮……まだまだあるが……とまれ、これらは全て古典魔術と呼ばれて一括りにされている。そもそもにして古典魔術のパワーイメージはその土地や風土の文化に根差したイメージに他ならない。だから多様な思想があり……そしてそれ故にナツァカパラドックスを持ち得るんだ」


「ナツァカパラドックス?」


「ま、それについては後回しとして……」


 ガリガリと水月は頭を掻く。


「これら多様な魔術が古典魔術として君臨していることさえ覚えてもらえればいい」


 そう結論付ける。


「ソロモン七十二柱はどうなんですの?」


 アシュレイが問う。


「それはこれから話す」


 そう言って、


「くあ……」


 と欠伸をすると、


「俺、何やってんだろ」


 人生の虚しさを噛みしめる水月だった。


 そして無気力さを排除して言葉を紡ぐ。


「さて、じゃあ古典魔術については以上の通りとして、次は新古典魔術について語るか」


「新古典魔術……」


 反復するアシュレイに、


「そ」


 水月は頷くと、


「ラーラ」


 と名を呼ぶ。


「何でしょう先輩?」


「新古典魔術とは何ぞや?」


「十七世紀くらいから発生した新たなパワーイメージを元に行使される魔術の総称です。その根幹に歴史的背景は無く、古典魔術のパワーイメージの改ざんや好意的変遷によって為されている魔術です」


「はい正解。わかったかアシュレイ?」


「わかりませんの」


「つまり古典魔術の都合のいい箇所だけをパッチワークのように繋ぎ合わせて古典魔術そのものに敬意を払わない歴史の浅い魔術の総称だ。ネットで検索するのなら近代西洋儀式魔術やケイオスマジックって言ったところだな。歴史も浅いし不条理さも抜群の二流思想にあたる」


「む……」


 と苛立つアシュレイ。


 当然だ。


 つまり先の水月の否定の言葉にはソロモン七十二柱の否定も含まれているのだから。

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