劣等生への講義07
「んん……!」
と咳をして水月は言葉を紡ぐ。
「さて、ここで一番重要な魔術の分類がある」
重要そうに水月が言う。
「一番重要な……!」
アシュレイも気を張る。
アシュレイの侍女……シアンも心なしか緊張する。
「魔術全体を四つに区分する分類だ」
そこまで言って、頬杖をついたまま、
「アシュレイ……わかるか?」
水月は問うた。
「そんなの簡単ですの」
あっさりとアシュレイは言った。
「ほう」
感心したように水月。
「で? 如何に?」
「火、水、風、土の四大属性ですの」
ガツンと大きな音が鳴った。
教卓に頬杖をついていた水月がずっこけて額を教卓に打ちつけたのだ。
「お、お、お、お前……」
言葉にならない水月を放っておいて、
「これくらい簡単ですの」
アシュレイは、
「ふふん」
と勝ち誇る。
「ああ、これだから新古典魔術脳は……」
うんざりと水月は首を振る。
「何ですの? その反応は?」
わからないとアシュレイは言う。
「…………」
水月は額を押さえた。
その意味を正しく理解するラーラと真理。
「まぁな。確かにな。新古典魔術ならばそう言うだろうけどな……」
そんな水月の言葉に、
「馬鹿にされていますの?」
アシュレイは問う。
それを無視して、
「じゃあラーラ……」
水月はラーラに話を振る。
「はひ?」
「現代魔術において四つの区分といえば?」
「古典魔術……新古典魔術……近代魔術……現代魔術……。この四つの魔術の分類を指しますね」
「正解」
水月は肯定する。
アシュレイはポカンとするばかりだ。
「古典魔術?」
「然り」
「新古典魔術?」
「然り」
「近代魔術?」
「然り」
「現代魔術?」
「然り」
水月はアシュレイの言葉にことごとく頷いた。
「古典魔術……新古典魔術……近代魔術……現代魔術……。これが現代魔術における全魔術を四つに区分する方法だ」
そう結論付ける。
「それは何なんですの?」
問うアシュレイに、
「それは今から説明してやる」
はたして水月は再度頬杖をついて言う。
「まず古典魔術。これは説明のしようがないな」
「そうなんですの?」
アシュレイの言葉に、
「そうなんですの」
繰り言をする水月。
「要するに古い魔術を指す。神話や伝説……御伽噺に出てくる思想や神秘を指して古典魔術という」
「?」
クネリと首を傾げるアシュレイ。
「あー……」
と迷った後、
「つまりだな」
水月は言う。
「例えば俺の家系である役一族がそれに当たる」
「役一族……」
「そ」
首肯する水月。
「山岳信仰の神秘思想なんだが。何はともあれ山岳国家の日本にとっては珍しくない古い魔術の思想と言っていいかもな」
そして水月は言葉を続ける。
「ヨーロッパなら……そうだな……。ギリシャ神話や北欧神話を基軸とする魔術師に会ったことはないか?」
そんな水月の言に、
「会ったことはありますけど……」
アシュレイはおずおずと頷くのだった。
我が意を得たりと水月は言葉を続ける。
「つまり伝説や神話を再現する魔術のことを古典魔術と……そしてそれらの逸話を具現する存在を古典魔術師と呼ぶ」
「なるほど……」
「聖書の世界観や仏教の世界観もこれに順ずるな。要するに神代の世代の信仰を現実に表現する魔術だ」
そんな水月の説明に、
「ふむ……」
と興味深げにアシュレイは納得するのだった。
「神話や伝説を……」
「それ故に……古い魔術の理論故に……」
水月は断ずる。
「古典魔術と言う」




