劣等生への講義02
「やれやれ……」
ぼやきながらコンスタン教授との面会を終えて水月はコンスタン研究室の扉を潜ろうと室内を見る。
そこには茶髪の美少女が二人いた。
一人は茶髪にパーマをかけてボブカットにしているイタリア美人……ラーラ=ヴェルミチェッリである。
もう一人は茶髪のショートカットに頭部の側面、その片方の髪をリボンで纏めた日本美人……只野真理である。
この茶髪コンビは、世にも珍しい現代魔術を扱う美少女二人としてコンスタン研究室の話題を隆起させる存在だった。
もっとも……コンスタン研究室の名を成さしめる一番の原因は古典魔術を自在に操る役水月に他ならないのだが……。
ともあれコンスタン研究室の扉にかけられている、
「在室」
「不在(学内)」
「不在(学外)」
「帰宅」
という状況を記すホワイトボードにくっついている水月と文字を刻まれたマグネットを「在室」の欄に引っ付けて、水月は開けっ放しの扉から研究室に入る。
そこではラーラがパソコンを組み立てていた。
「何してんの?」
水月が聞くと、
「ん~?」
と間延びした声を出し、
「アシュレイの席を用意してるんですよ」
そうラーラは結論付けた。
「で?」
とこれはラーラ。
問い返す形だ。
「結局アシュレイは先輩の生徒になるんですか?」
「そういうことらしい」
どこまでも、
「不満だ」
と表情で表す水月。
そんな会話の間にもラーラはテキパキとパソコンを組み立て続ける。
電子機器がからっきしのコンスタン研究室において、それに詳しいラーラはそれだけで重宝されるのだ。
その上魔術が使えるとなれば文句のつけようが無い。
無論、水月にしてみれば、
「まだまだ未熟」
という評価だが。
この場合、
「魔術に関しては」
である。
水月はラーラから視線を外して自身の席につく。
そしてぐったりと椅子にもたれかかった。
「お疲れですね水月」
クスクスと真理が笑う。
「悩みもするさ」
水月は率直だ。
「才能の無い人間に魔術を教えるなんて動物に説法するようなものだ」
「説法って何です?」
これはラーラ。
「要するに仏教における有難い僧の言葉だな」
「仏教……」
イタリア人のラーラにしてみればよくわからない言葉だろう。
しかして魔術師である以上ラーラはカトリックではない。
ともあれ、
「真理」
と水月は真理を呼ぶ。
「何でしょう?」
「コーヒーが飲みたい」
「はいな」
そう言って席を立つ真理。
そして真理はこれあるを予想していたため、お湯の入ったポットからお湯をカップに注ぎ、インスタントコーヒーを混ぜる。
あっという間にコーヒーが出来上がった。
「はい、どうぞ」
真理は椅子にもたれかかって無気力を味わっている水月の席のテーブルにコーヒーの入ったカップを置く。
「んー。ども」
感謝してズズと水月はコーヒーをすする。
「では……」
と呟いて真理は元の位置に戻る。
同時に、
「これで良し」
とラーラが独りごちた。
パソコンが完成したのだろう。
それくらいは水月にもわかった。
つまりこれでアシュレイの席がコンスタン研究室に出来たことを意味する。
「…………」
水月は無言でコーヒーをすすると、気にしないように努めた。
そしてパソコンの電源を入れる。
パソコンが起動して十秒と経たずに安定する。
コンスタン研究室は魔術師を所有する研究室であるから、他の研究室より数倍多い研究費を受給している。
そしてパソコンに詳しいラーラもいる。
つまり最新のパソコンが常に配備されるのだった。
水月はパソコンを立ち上げるとネットサーフィンを始めた。
「…………」
ネット上でソロモン七十二柱について調べるのだった。
とはいっても項目は多岐にわたる。
メイザース一族の祖……マグレガー=メイザースがいったいどれほどの許容の持ち主だったのか……。
今ではわからないが、
「…………」
聖術師ではなかったのか……という推測は簡単に立った。
「そもそもにして……」
水月はぼやく。
「ソロモン七十二柱を全て召喚できるってのが常識の埒外だしな」
無論、口の中だけに完結させる。




