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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
現代における魔法の定義
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劣等生への講義01

 エキストラ・リベラル・アーツ・カレッジ。


 当カレッジを知る人間には、イクスカレッジという略称が浸透している。


 カレッジといっても言葉通りの面積ではなく、一つの都市としての規模を誇る。


 そして何より挙げるべき特徴は「魔法魔術を専門とする研究および教育のための機関」という馬鹿げた設計思想によって成り立っていることであろう。


 北大西洋のほぼ中央に建設された海上都市として機能し、国際化領域に属している。


(……絶海の隔離施設にして核実験場だぁな、ようするに)


 と、役水月はみもふたもなく切りすてるのだった。


 ともあれ、


「聞いてないんだが」


 水月とコンスタン教授の会話は水月の皮肉から始まった。


 時間は昼過ぎ。


 あの後……つまり宿舎での一問答が終わった後、いよいよもってアシュレイ=メイザースが水月を頼りにイクスカレッジの門を叩いたことが明確になったのだった。


 その真偽を確かめるためにコンスタン研究室の教授の部屋に乗り込んで水月は直談判に臨んだ次第である。


 ちなみにラーラと真理は生徒用の研究室に引っ込んだ。


 アシュレイはイクスカレッジに編入したと同時に、講義を請け負う義務を持ったため単位取得のためシアンを連れて一般講義室へと向かっているのだった。


 コンスタン教授は淡々と言った。


「言っていませんからね」


 老齢の女性たるコンスタン教授は亀の甲より年の功……と言えるまでには水月の皮肉など気にした風もなかった。


「何故言わなかった?」


「アシュレイ嬢がイクスカレッジに編入してくるまでにあと一週間はあるだろうと思っていました故。明後日くらいに説明をしようと思ったんですよ」


「アシュレイ=メイザース……まさか偶然の一致じゃあるまいな?」


「無論かの名高きメイザースの血統です」


 水月はこめかみを押さえる。


「なんでそんな新古典魔術の金看板がわざわざイクスカレッジまで?」


「千年以上の歴史を持つ役一族が言うと皮肉にしか聞こえませんね」


 ちなみにメイザース一族は祖であるマグレガー=メイザースから数えても百五十年程度の歴史しか持っていない。


 千年を超える神代の世代の魔術旧家とは格が違う。


 そんなことは水月もコンスタン教授も既にして了解しているのである。


「だから何で俺がアシュレイの面倒を見なきゃならんのだ? いくら百年ちょっとの新古典魔術一族とはいえ後継を育てるくらいは可能だろう?」


「そこで育たなかったからこちらにおはちがまわってきたのですよ」


「それにしたって……イギリスなら《裏ロンドン》とか魔術を学べる組織はいくらでもあるだろう? だから何でイクスカレッジに来るんだよ?」


「ああ、その話は終わっています」


「?」


「既にヨーロッパ中の魔法学校や魔術結社にたらいまわしにされてアシュレイ嬢はここに辿り着いたのですから」


「それってつまり貧乏くじ?」


「と、言うのでしょうね」


「やってられるかっ」


 水月はふてくされるのだった。


「そもそもにして俺は古典魔術師だろう? 新古典魔術には当然ながら明るくない。ましてやメイザースとくればソロモン七十二柱の召喚私式を主とする一族だろう。完全にお門違いだと思うんだが……」


「その点については心配いりません」


「どういう意味でだ?」


「アシュレイ嬢には現代魔術を覚えてもらう予定ですから」


「可能か?」


「巡り巡った魔法学校や魔術結社の総意は……アシュレイ嬢には魔力が無い……ということでした」


「おい。まさかケイ仮説を支持するのか……」


「まさか、ですね。そも量子燃料仮説を役先生に教えたのは誰でしょう?」


「皮肉はいい。で、なんで現代魔術になる?」


「当人の意識改革が必要だからです。ケイ仮説を信じているアシュレイ嬢の盲を開かねばなりません」


「俺……古典魔術師なんだが……」


「しかして私の研究室で現代魔術史は学んだでしょう?」


「そらそうかもしれんが……」


 嫌な流れだ、と水月は察する。


「それにしたってイクスカレッジは名目とは反対に現代魔術師には厳しい場所です。そも生徒が現代魔術を覚えた例は数少ない。ですから功績が欲しいんですよ。現代魔術を覚え操る人間が現れたという功績が……」


「ガンハートは駄目なのか?」


「アレはある意味で最も現代魔術師らしい魔術師ですが特異すぎるでしょう。参考にはなりませんよ」


「…………」


 正論故に反論のしようもない。


 水月は嘆息した。


「条件がある」


「何でしょう?」


「アシュレイを預かるにあたって……こちらが必要とする設備や環境を最優先で用意させること」


「いいでしょう」


「それからアシュレイが現代魔術を一つだけ覚えた後は俺の生徒という立場から解放させること」


「構いません」


 即答するコンスタン教授であった。


「そもそも好き好んで魔術を覚えようとしている時点で……」


 ガシガシと頭を掻く水月。


「愚かしいですか?」


「いい趣味してるなとは思うな」


 ケッとふてくされる。


「ソーマは後日準備します。出来るだけ早く準備しますが二日は見ていてほしいと」


「必要ねーよ」


 水月は肩をすくめて首を振る。


「とりあえずだがケイ仮説の呪縛から解くところから始めにゃならんからな。ソーマはその後だ……」


「役先生がそう言うのならそちらの予定に合わせましょう」


「ちなみにアシュレイもコンスタン研究室に所属するのか?」


「他に無いでしょう?」


「納得……」


 やれやれと水月はぼやいた。

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