プロローグ
「むむむ……!」
ラーラは呻く。
「むむむ、じゃないですよぅ」
真理は「あん」と声を上げた。
ラーラが真理の胸を揉んだからである。
真理もラーラも裸だった。
全裸である。
ラーラは白い肌に艶がある。
茶髪のパーマはシャワーで湿気っており快活にはねてはいない。
バストはまぁまぁ。
腰はくびれており、お尻に向かって綺麗な曲線を描いている。
真理は黄色い肌で、しかして染み一つない。
バストは下手な果実よりは大きい。
巨乳ではあるが形も整っており豊乳という言い方が正確だと水月は言う。
胸の大きさの割に腰は細くスタイルとしては高得点だ。
それも水月の言である。
ちなみに場所は役水月と只野真理の住んでいる宿舎である。
その風呂場。
時間は真昼を超えている。
午前中は出るべき講義が無かったためラーラが水月と真理の宿舎に遊びに来た……といった次第だ。
ちなみに水月はまだ寝ている。
「やっぱりこの胸か。この胸が先輩を……!」
もにゅもにゅとラーラは真理の胸を揉みしだく。
「胸ならラーラもあるじゃないですか」
「でも真理の胸は大きいのにステータスが均一にとれていて綺麗なんだもん」
そんなラーラの言葉に、
「ステータスって……」
真理は苦笑する他ない。
「本当に真理は先輩とコトに至ってないの?」
「ですよ?」
頷いてみせる真理。
ラーラはまた呻く。
「むむむ……!」
「そこは安心する場面では?」
真理は賛同を求める。
「それはまぁ男性と女性なんだから一夜の間違いがあっても決して不思議ではないでしょうけど……」
「でも先輩は葛城先輩のデッドコピー……サクラプライムにキスされた時もまんざらではなかった様だし、リッパー渡辺椿にキスされたらしいし、本当に女の子に興味が無いのかなって……」
「でも大魔術師葛城さくら先生とは恋人同士だったんでしょう?」
「それは……まぁ」
「寝たこともあるのでは?」
「さすがにそこまでは私にはわからないけど」
でも、とラーラは言う。
「水月先輩にとって葛城先生は唯一無二の存在でした」
「魔術師が唯一無二なんて言葉を使っちゃいけませんよぅ」
真理が訂正する。
この世界には唯一無二で代替の出来ない質料など存在しない。
形相が同一を示す限り質料は同じ答えを吐き出すからだ。
この世に再現できない現象は無い。
それが現代魔術師の総論だ。
「それはそうだけど水月先輩にとって葛城先生は大きすぎた……」
「胸がですか?」
「たしかに胸も大きかったんだけど……ここで言うのは水月先輩の心の中を占める割合の話よ」
「わかってますよ。冗談です」
くつくつと真理は笑う。
そしてシャワーでボディソープを洗い流す。
相変わらずラーラはもにゅもにゅと真理の胸を揉んでいる。
「あがりましょうラーラ。そろそろ水月を起こさないと……」
「この胸が私にもあれば」
どうしてもラーラは真理の胸に執着したいらしかった。
ともあれ二人は風呂場から出て、玄関兼キッチンへと至り、バスタオルで体を拭う。
と、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
「お客様とは珍しい」
これは真理の言。
そして真理はバスタオルを巻いて裸体を隠すと、
「はいはいはーい」
と、玄関に応対する。
「こちらは役水月先生の宿舎でよろしいんですの?」
玄関越しにそんな言葉が聞こえてくる。
「ええ……まぁ……そうですけど……」
真理はおずおずと答えた。
「役水月先生に用事があって参りましたの。開けてもらえます?」
「名は?」
「アシュレイ=メイザースと申しますの」
「アシュレイ……メイザース……?」
苗字の方に真理は存分に聞き覚えがあった。
ともあれ水月に対する客だろうと把握して真理は玄関を開ける。
玄関先にいたのは金髪金眼のゴスロリ美少女に銀髪銀眼のオフィススーツ美女の二人だ。
声を発したのはゴスロリの方だろうと真理はあたりをつける。
そしてそれは正解だった。
ゴスロリの美少女……アシュレイが訝しむ。
「なんでタオル一枚で出てきますの? もしかして役水月先生と……」
「違います。風呂上りなだけです」
即座に真理は否定する。
「そうですの。先に言いましたが私はアシュレイと言いますの。こちらはシアン。では、あがらせてもらいますの」
そう言ってアシュレイはスーツ美女たるシアンとともにズカズカと水月と真理の宿舎に入室するのだった。
重ねて言うが水月はまだ寝ている。
ブラとスキャンティのみのラーラを通り過ぎて居間に顔を出すアシュレイとシアンはそこでベッドに寝こけている水月を発見する。
金眼と銀眼が水月を捉えた。
「シアン……」
「なんでしょうお嬢様?」
「役水月先生にブレーンバスターを」
「了解しました」
そう言って銀髪銀眼のスーツ美女……シアンはアシュレイの言葉に従ってブレーンバスターをかますべく水月を逆さに持ち上げた。
その次の瞬間、
「……っ!」
寝ていたはずの水月がカッと目を見開いてシアンの頭部を股で挟むと空中で一回転。
ベッドにシアンを叩きつけて腕ひしぎ十字固めへと移行した。
そして、
「あれ?」
と、とぼける。
反射的に害意に対応したため意識が追い付いていないのだ。
結界を張っていたためブレーンバスターは防げたが、何故自分が銀髪銀眼のスーツ美女を腕ひしぎ十字固めにしているのかがわかっていないらしい。
そして水月は腕ひしぎ十字固めを解いてアシュレイとシアンに問う。
「何なんだお前ら?」
当然の質問だ。
「わたくしはアシュレイと言いますの。あなたが不逞を働いた方はわたくしの侍女シアン。わたくしは役水月先生の生徒となる存在ですの」
至極あっさりとアシュレイは言った。
「「「は?」」」
と呆けた水月とラーラと真理を誰も責められはしないだろう。
「コンスタン教授の紹介で役先生に魔術を習う事を認められた存在ですの」
やはりあっさりとアシュレイは言う。
「俺の……生徒……?」
ポカンとする水月に、
「然りですの」
強固にアシュレイは頷いた。




