エピローグ
わいわいがやがやと妖精郷は活気に満ちていた。
今日は聖杯大会の優勝者たる水月と妖精王女ラーラの結婚式だ。
結婚式に参加したプレイヤーには回復アイテム……エリクサーが百個贈られる。
故にあらゆるプレイヤーが妖精郷に集まって、水月とラーラを賛美した。
一種のお祭り騒ぎだ。
参加するだけで貴重な回復アイテムのエリクサーを百個ももらえるとなれば誰だって参加するだろう。
そういう意味では根本的に水月とラーラの結婚を称えている人間がどれほどいるかは測定できないが、水月もラーラもそんなことを気にするタチではない。
水月は装飾装備として燕尾服を着せられて妖精郷の教会にてラーラを待った。
ラーラはウェディングドレスを着て教会に現れた。
それはまるで本当に妖精のように可憐だった。
元々ラーラは卓越した美貌の持ち主だ。
水月が大和撫子を好きだということを差し引いてもラーラは美少女である。
そんなラーラがウェディングドレスを着て水月に肩を並べたのだ。
「どうですか? 先輩……」
とラーラが問うと、
「馬子にも衣装だな」
水月は皮肉る。
「こっちの世界にずっといれば水月先輩と夫婦になれるんですね……」
「俺はこの式が終わった後にリターンスフィアを使うつもりだがな」
どこまでも水月はそっけない。
しかしてラーラは、
「ふふ……」
と微笑むのみだ。
「何がおかしい?」
問う水月に、
「いや、やっぱり先輩は先輩だな……って」
ラーラはくつくつと笑う。
「侮辱されてんのか?」
「逆ですよ。褒めてるんです」
「どういう意味でだ?」
「水月先輩がぶれないってことにです」
「まぁそれが俺の性格だからな」
水月は鬱陶しそうに燕尾服のネクタイを緩める。
「これで先輩はツウィンズの世界で一定の評価を得るに至ったんですよね」
「まぁそりゃそうだな」
要するに最後のセナとの一騎打ち。
高速を超える超高速をさらに超える神速を見せた水月はツウィンズ最強プレイヤーの一角に数えられることになったのだ。
最強の槍リリガーヴを持つリベアや最強の斧レリガーヴを持つセナを下したのだ。
肯定はされても否定されることはなかった。
「いっそこっちに住んでしまいましょうか?」
「お前一人で好きにしろよ。俺はシンメトリカルツイントライアングルに報告を届けなきゃならんから、この式が終われば即座に基準世界に戻るぞ」
「むぅ」
ラーラは不満そうだった。
しかして水月やラーラの意志を気にせず結婚式は進行していく。
水月とラーラはキスをして契約を交わすのだった。
結婚という名の契約を。
それは一時的なモノであったとしても、
「夢みたいです……。水月先輩とキスできるなんて……」
ラーラには幸福だったらしい。
そして妖精郷の教会の屋上に水月とラーラが顔を出すと、ワッと結婚式に参加したプレイヤーが沸いた。
水月は、
「やれやれ」
と疲れたように呟く。
*
水月とラーラの疑似結婚式は半日で終わった。
エリクサーを手に入れたプレイヤーたちは一人一人と妖精郷を去っていくのだった。
そんな中、一人だけ水月とラーラに接するプレイヤーがいた。
無論のことセナである。
「結婚おめでと」
むず痒いといった表情で水月とラーラを祝福するセナ。
水月は言う。
「世話になったな」
対してセナは、
「別に……」
と言葉を濁して、それから、
「私が良かれと思ってしたことだから」
と否定的な言葉を口にする。
「あんたがあんなに強いなんて……正直予想外だったわ」
神速のことを言っているのだろう。
それくらいは水月にもわかった。
既に結婚式は終わり……残ったのは水月とラーラとセナだけである。
「現実世界……基準世界っていうんだっけ? 帰るの?」
「目的も果たしたしな」
「そう言えばこの世界がどういうものなのか……ソレを聞いてないわね」
「宿題として出したろう?」
「わかんなかったわよ」
「簡単なことだろう」
水月はあっさりと言う。
「それがわかんないって言ってるのよ」
憤懣やるかたないとセナ。
「ここはアークテストの試験場じゃない」
「それは聞いた。じゃあ何なのよ?」
「理想郷だ」
「理想郷?」
「そ」
感慨もなく水月は頷く。
「理想郷って……」
「信じられないか?」
「だって死と直結してるデスゲームよ? なんでそれが理想郷になるのよ?」
「そんなもの現実世界でも同じだろう。誰かが誰かを殺したってニュースで基準世界は溢れている」
「…………」
「努力が成果に繋がる。つまり徒労にならぬ努力が認められる世界……それがこの世界なんだ」
「…………」
セナは沈黙するしかない。
水月は言葉を紡ぐ。
「いくら努力しても夢がかなわないこともある……それが現実世界だ。けれどツウィンズの世界では経験値という名の努力によって公平に評価される世界だ。つまり……やっぱりこの世界は理想郷なんだよ」
「…………」
「だからさ。お前はここで誇りを持って生きていけ。現実の逃避なんかじゃない。お前はこの世界において確かに結果を出してるんだからな」
「いいの?」
「何がだ?」
「私はこの世界に居続けていいの?」
「いいに決まってる」
水月はあっさりと頷いた。
「それがお前の生きる意味だ」
そして水月はラーラに目線をやる。
ラーラは頷く。
「「リターンスフィア、オン」」
ボイススキップでリターンスフィアを起動させる水月とラーラ。
そうして理想郷から脱出する水月とラーラだった。
丁度時間と相成りました。
これにて「ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング」……閉幕にございます。
如何でしたでしょうか?
お帰りの前に少しだけ寄り道して感想や評価をくだされば、これに勝る喜びはありません。




