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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング
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ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング25

 そしてAブロックはセナが勝ち残り、BブロックおよびCブロックも終わった後、


「次は俺の番か……」


 とは水月は言なわなかった。


 何故か。


 VIPルームのフカフカのソファに寝転がって熟睡していたからだ。


「ん……むにぃ……」


 すやすやと眠る水月の人中と喉に一本拳が撃ち込まれる。


 そうしてやっと、


「ふげあ!」


 と妙な絶叫とともに水月は覚醒するのだった。


 一本拳を打ちこんだラーラとセナはジト目で水月を睨みつける。


 水月は観念したようにハンズアップ。


「わかってる。わかってるよ」


「本当に……?」


「もうリターンスフィアで基準世界に帰るよ。リターンス……!」


「どっせい!」


 リターンスフィアをボイススキップで使用しようとした水月目掛けてラーラが飛び蹴りをかます。


「何考えてんですかぁ!」


「お前のことはヨロシクやってるって上には伝えておくから……」


「何もわかっていませんよねソレ!」


 ラーラはどこまでも必死だった。


 セナの方はというと溜め息をついて、


「はい。水月。缶コーヒー」


 と缶コーヒーをアイテム欄からポップして水月に渡す。


「あんがとさん」


 水月はソレを受け取ってカフェインで眠気を覚ます。


 それから攻撃用と防御用の日本刀二振りを腰にさしてVIPルームを出る。


 案内に従ってコロシアムへと向かう。


 水月を除く二十三名のプレイヤーは既に決闘場に現れていた。


 そして全員が鬼気迫る顔をしている。


 そんな中で水月は刀を抜かず腕を組んでコロシアムの入り口に陣取った。


 既に全員を心眼に捉えて臆することは何もない。


 水月の登場に会場がざわめく。


 今の水月は女装しているのだ。


 そして聖杯大会の商品はラーラとの結婚。


 つまり同性愛者に見られているのである。


 それについてはセナも同じだったが、ともあれDブロックは女装した水月以外に女っ気は無かった。


「よう。お前もこの大会に出てたのか。冷やかしか?」


 気さくに声をかけてきたのは最強ギルド……マーチラビットのソードマンにして中国系の男プレイヤーたるレイである。


 右手に片手剣を握りヘラヘラと水月に声をかけてくる。


 Aブロックでもそうだったが、Dブロック参戦者の全てのプレイヤーのヒットポイントは公にされていた。


 レイのヒットポイントは320。


 つまりハーフヒット制においては160のダメージを与えねばならない。


 水月は少し思案した後、レイの挑発に答える。


「優勝するつもりだ」


「は! 本気か?」


「なんなら真っ先に潰しあうか?」


「勘弁。俺が手を下さずとも自然淘汰されるだろ。俺はお前にゃ興味はねえよ」


 ヒラヒラと手を振ってレイは水月から遠ざかっていった。


「さて白熱のバトルロワイヤル! その最終戦Dブロックの戦士が此処に集まった!」


 どこからかマイクパフォーマンスが聞こえてくる。


「ここでの強者があのリベアと覇を競う! では予選Dブロック……戦闘開始!」


 そんな宣言とともに決闘場は非戦闘区域から戦闘区域へと変わった。


 水月は武器を構えることなく腕を組んだままその場につっ立った。


 ちなみに水月のヒットポイントは多いとは言えない。


 だいたい決闘場にいるプレイヤーたちの平均ヒットポイントの半分といったところだ。


 それゆえ低レベルプレイヤーと見なされて相手にされなかった。


 低レベルプレイヤーに構って高レベルプレイヤーの攻撃を背中に受けたのでは割に合わないからだ。


 そんなわけで水月の近くに立っているプレイヤーたちは水月に背を向けて互いに高レベルプレイヤーの相手をするのだった。


 水月にしてみれば、


「まぁ勝手に淘汰しあってくれるならそれに越したことはないな」


 とばかりに脱力するのだった。


 そして五分の時間が過ぎた。


 残っているプレイヤーは水月を含め四人だけ。


 レイも生き残っている。


 水月を除く三人は水月を無視して互いを傷つけ合って、そしてレイが勝ち残った。


 ただし圧勝というわけではない。


 レイのヒットポイントは200まで減っていた。


 あと40ポイントを消費すれば脱落である。


「さて……」


 とレイは腕を組んでボーっとしている水月に声をかける。


「ここにいたってノーダメージとはご機嫌だな」


「んなこと言われてもな」


 水月は飄々としている。


「手加減してもらえるとは思うなよ」


「思ってねーよ」


「ふん」


 とレイは鼻を鳴らすと片手剣を両手で握り、水月目掛けて駆け出した。


 常人にしては素早い駆け方だったが水月にしてみれば欠伸の出る速度である。


 そして水月は攻撃用の日本刀に手をかける。


 構えは抜刀術。


 そして狙いも抜刀術だった。


 水月とレイの間合いがゼロに近付く。


 瞬間、


「…………」


 水月は高速で日本刀を抜き放ち、


「な……っ!」


 と驚愕するレイを切って捨てた。


 ヒットポイントが半分を割ってレイは脱落する。


 最後に残った水月がDブロックの勝者だった。


 観客は唖然とする。


 それもしょうがあるまい。


 今大会で最も低レベルなプレイヤーが勝ち残ったのだから。

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