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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング
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ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング24

 そして妖精郷にも朝が来る。


 それは同時に聖杯大会の始まりを意味していた。


 さて、水月はというと、


「…………」


 当然のように寝ていた。


 妖精王の城の一室で。


 そしてラーラとセナによって叩き起こされる。


 セナは昨夜見せた儚げな声を振り切っていつものセナに戻っていた。


「起きてください先輩!」


「起きなさいよ水月!」


「まだ寝るぅ」


 枕を抱きしめて夢うつつに水月がそう言うと、


「てい!」


「ほわちゃあ!」


 ラーラとセナは人中と喉に一本拳を打ちこんだ。


「そげぶ……っ!」


 と意味不明な悲鳴を上げて水月は覚醒する。


「あー……」


 と呟いて起き上がりガシガシと頭を掻くと、


「何すんだ」


 とずれた憤慨を口にする。


「今日は聖杯大会ですよ。先輩と私が結婚する記念日です」


「聖杯大会よ。早く準備なさい」


「へーへ」


 くあ、と欠伸をした後、水月はボイススキップを行なった。


 同時に水月の着ていた寝巻が光に還元され、代わりにいつも通りの服装が身を包む。


 梅の花模様の着物に簪。


 そして攻撃用と防御用の日本刀が計二振り。


 二刀流を難なく扱う水月の日本刀はそれだけで凶悪だ。


「くあ……。で? 聖杯大会とやらはどこでやるんだ?」


「決闘場に決まってるでしょ」


「決闘場なんて妖精郷に有ったっけか?」


「無いわよ。だから跳ぶんじゃない」


「跳ぶって?」


 水月が問うた瞬間、水月の視界が変異した。


 グニャリと空間が歪み、水月とセナとラーラは水月とレイが決闘をした決闘場……コロシアムに転移するのだった。


 ただし此度転移したのは決闘する場ではない。


 周囲を囲む観客席でもない。


 妖精王が言う。


「ようやく来たか。ラーラ。水月殿。セナ殿」


「はあ……どうも」


 水月は頭を下げて、それからガラスの壁から観察できる風景を目にした。


 高い場所なのだろう。


 決闘場がガラスの壁から一望できるというだけでその高さは計測できた。


「どこだ……ここは……?」


「決闘場のVIPルームよ。我らだけに許可された閲覧席と言えばわかるか?」


「VIPルームね……」


 やれやれと水月は嘆息する。


 そんな水月に構わず、


「じゃあ私はもう行くわね。Aブロックだから」


 セナはレリガーヴを肩に引っ掛けて部屋を出ていくのだった。


「ちなみに俺のブロックは?」


「Dです。先輩」


 ちなみに準決勝戦はAブロックとBブロックの勝ち上がりが、そしてCブロックとDブロックの勝ち上がりが、それぞれ戦うことになっている。


 つまりセナがAブロックで水月がDブロックということは、どちらが勝ちあがっても決勝まで会わないということなのだ。


「レディースアンドジェントルメン!」


 から始まるマイクパフォーマーがコロシアムの空気を盛り上げる。


 セナはレリガーヴを肩にかけ、コロシアムの中央に位置していた。


 聖杯大会の参加人数は九十六人。


 つまり一ブロック二十四人。


 そんなセナを含めた二十四人がひしめき合う中でセナは淡々としていた。


 こういった混戦のパターンは単純だ。


 強い奴から潰す。


 それに尽きる。


 仮に自身が生き延びても最後に相手にするのが自身より強い奴ではまるで意味が無い。


 そういう意味ではセナの持つレリガーヴは注目に値した。


 それを承知でセナはレリガーヴを見せびらかしているのだった。


「妖精郷の王女の心を射止める強者は誰だ! では始めるぞ! 聖杯大会Aブロック予選……開始!」


 そんなマイクパフォーマンスと同時に混戦が始まった。


 そこまで広いとは言えない決闘場に二十四人が集まっているのだ。


 しかも自身以外の全てが敵と云った状況だ。


 混戦にならない方がおかしい。


 水月とラーラと妖精王はVIPルームからそれを一望する。


 決闘場にいるプレイヤーのヒットポイントは見て取れる。


 そういう仕様なのだろう。


 そしてそれはつまり水月が決闘場に立ったときにも相手に読まれることを前提とすることでもあった。


 ちなみに混戦のど真ん中に立たされたセナはというと、


「サークルインパクト!」


 とボイススキップを行ない戦闘スキルを発動させる。


 同時にサークルインパクトが発動……全周囲に強力な斧の斬撃が解放されてセナの周囲のプレイヤーが脱落していく。


「はは……!」


 と水月は笑う。


 サークルインパクトによって死角の無い攻撃を行なうセナは決闘場では無双と言っていい活躍をしているのだ。


 とうとうヒットポイントの消費の無いままセナは数少なく残った残りの選手に視線をやる。


 残ったセナ以外の選手は剣や槍や斧を構えたが、もはや無駄なあがきなのは水月でなくとも知れていることだった。


「セナ……強……っ」


 ラーラが驚く。


「まぁ熟練の戦士だからな~」


 水月は安楽そうに言葉を紡ぐ。


「よくやるよ」

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