ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング21
「ま、まさか玉座の間の奥の空間にまで入れるなんて……!」
場所は王女ラーラの私室。
「どんなクエストやイベントでも入れなかったのにこんなにあっさり……!」
そんなことを呟きながらセナはしきりに感動していた。
豪奢な机や椅子や天蓋付きベッド。
そして机……テーブルには三人分の紅茶が。
妖精王女の専属侍女が淹れた紅茶である。
ポップしたものではなく一から淹れてくれた一品である。
「で、先輩。また新しい女の子を落としたんですか?」
ラーラは水月とセナをジト目で睨み、あさってな感動をしているセナには聞こえないように水月に小声でそう皮肉った。
「成り行きだ」
水月は諸手をあげる。
「ていうかお前こそ色んな奴にキスしてもらったんだろ?」
「……裏切りじゃないですよ? だいたい百人近くに誓いのキスを手の甲に……なんて有難味が無くて単純作業ですし」
「好みの戦士とかいなかったのか」
「いましたよ」
「ほう。どんな奴だ?」
「梅の花の着物を着て簪をさした女の子風味な男の人です。名前、聞きたいですか?」
「……遠慮する」
ブスッとして水月は紅茶を飲む。
「しかし妖精郷で会えるたぁ聞いてたがこんな形とはな……」
「ゲームとはいえ水月先輩と結婚できるなら私も本望です」
「つかぬことを聞くがリターンスフィアは使えないのか」
「というかアイテムそのものが使用不可です。チャットもできませんし。色々と禁則くらってるんですよね」
「ふーん」
水月は紅茶を飲む。
「先輩もしかして私を探すためこのツウィンズの世界に?」
「それもある」
「それもってことは……」
「シンメトリカルツイントライアングルからの要請だ。イクスカレッジはザ・ワールド・イズ・マイ・ソングをアークコネクタと定義し、そのプログラムをアークテストと断じた。俺はその方法論と解決の仕方を探りにきた。まぁお前が心配ってのも一割くらいはあったが……」
「一割……」
ムスッとするラーラ。
「心配してやっただけ有難く思え。余計なことに巻き込まれおってからに」
「そりゃ私の不用意ですけど……」
そこでラーラはハッとした。
「私の他にあと二人の友達が一緒にツウィンズプレイしたんですよ……! その二人もこの世界に?」
「いや、二人とも基準世界に帰ってる。一人は生きて。一人は死んで」
「……っ!」
「まぁデスゲームだからな。そういうこともあるだろ」
ラーラの感傷に付き合う気は水月にはさらさらなかった。
水月は紅茶を飲む。
「そういえば」
とこれはセナ。
感動からは立ち直ったらしい。
「ラーラさんが……」
「さんをつけるな」
「ラーラ……の状況が差し迫ってるって言ってましたね? どゆことです?」
「別に俺には関係の無い話ではあるんだが……」
「せんぱーいぃ……」
「ラーラの貞操が危ないって話だな」
むしろさっぱりと水月は言った。
「「は?」」
これはセナとラーラの分。
「どういうことです!」
驚愕極まると云った様子でラーラが問う。
「今回のクエストのイベント名は?」
「聖杯大会よね?」
「優勝賞品は?」
「リターンスフィア。それからラーラとの結婚」
「ちなみに聖杯はよく女性の子宮に例えられる」
「「まさか……!」」
「ま、まさにそのまさかだろうな。結婚っていうプレイヤー同士の契約はつまりプレイヤー同士で(唐突にバキューンと銃声が鳴る)できるってことじゃないか?」
「私の女の子の一番大切なものがーっ!」
ラーラは悲鳴を上げた。
「じゃあラーラと優勝者とが必然的に……!」
「だろうな」
水月は紅茶を飲んでホッと吐息をつく。
「安穏としている場合ですかぁ! 可愛い後輩の貞操の危機なんですよ!?」
「俺かセナが優勝すれば何の問題もないだろ」
「それは……そうですけど……でも先輩だってこっちに来て日が浅いんじゃないですか? 高レベルプレイヤーと戦えるんですか?」
「そりゃやりようは色々あるさ」
不遜とも云える自信で水月。
「そこで王女としてのラーラに頼みたいことがあるんだが」
「何でしょう?」
「俺とセナが決勝までぶつからないように配慮してほしい。俺とセナが潰しあえばお前にとっても損だろう?」
「それは……多分可能ですけど」
「多分セナの実力なら決勝に行けるはずだ。後は俺が何処まで行けるかだな」
「優勝してくださいよ。先輩になら私……!」
「俺が嫌だ」
「そんな~先輩~」
ああんと切なそうにラーラが呟いた。
「アークテストの方の調べ物はいいの?」
これはセナ。
「ああ、まぁ」
水月はギシリと椅子にもたれかかる。
「ある程度の目処はついた」
「そうなの?」
「そうなの」
そして水月は紅茶を飲んだ。




