ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング20
王女は茶髪パーマのイタリア美人だった。
豪奢なドレスを着てはいるが、顔の本質はまったく異なってはいない。
名を……ラーラ=ヴェルミチェッリという。
「何やってんのお前ぇぇぇぇぇ!?」
水月は思わず立ち上がってこの不条理に突っ込んだ。
そんな水月を視界に捉えて、
「え? 水月先輩?」
ラーラはポカンとするのだった。
それからラーラは目に涙をためて、
「先輩!」
と水月に走り寄り、抱きつこうとして、
「……っ」
システムに阻まれた。
水月の視界には、
「ラーラの抱きつきを許可しますか?」
というウィンドウが出る。
水月は容赦なく却下した。
バチンと弾かれるラーラ。
「何するんですか!」
不満そうなラーラの言葉に、
「それはこっちのセリフだ!」
水月は言い返す。
「ていうか何で着物着て簪つけて女装してるんです?」
「あー……成り行きだ」
ともあれ、
「お前が妖精郷の王女って……」
うんざりする水月。
「何がどうしてこうなった?」
「知りませんよう。いきなりゲームの世界に取り込まれて妖精王の娘として振る舞うように言われたんですから」
「そんなことがありうるのか?」
水月はチラリとセナを見る。
セナは嘆息すると……言った。
「多分スペシャルスタートね」
「「スペシャルスタート?」」
水月とラーラが首を傾げる。
「そ。スペシャルスタート」
頷くセナ。
「稀にあるらしいのよ。プレイヤーによって基本的な村や街からの出発じゃなくて特別な状況からスタートする状況が」
「それが……」
「スペシャルスタート……」
「そういうことね」
やはり頷くセナ。
「つまりそのスペシャルスタートによってラーラは妖精郷の王女として始まったということでいいのか?」
「他に候補は無いしね」
「何でチャットが通じなかったんだ?」
「前にも言ったでしょ? 状況によってはチャットの通じない状況もあり得るって。妖精郷の王女と気楽にチャットできるわけないじゃない」
「それならコイツは一生このままなのか?」
「それは無いわね。どんなスペシャルスタートだろうと時間が経てばプレイヤーとして振る舞えるようになる。聖杯大会の優勝特権……覚えてる?」
「リターンスフィアをもらえて妖精郷の王女と結婚できる……だったか?」
水月は確認するようにクエストの内容をなぞる。
「つまり王女……ラーラさんは聖杯大会の優勝者と結婚してからこの世界……ツウィンズでの冒険が始まるといった次第ね」
そんなセナの言に、
「なるほど」
「納得」
水月とラーラは事実を受け入れた。
そして白髪の老人……妖精王オベロンが会話に介入する。
「娘よ。戦士に祝福を」
「娘じゃないんですけど……」
不満そうにラーラはそう言って、
「汝、最強たらんとするなら誓いの口づけをここに」
シルクの手袋をしている右手を水月に差し出した。
それが何を意味するのかは水月にもわかっている。
「最強を証明する」
そう言って水月はラーラの……その右手の甲に口づけをした。
それが契約。
つまり祝福。
これで水月は聖杯大会の出場権を持ったのだった。
ラーラはセナに視線をやると、
「汝、最強たらんとするなら誓いの口づけをここに」
そう言って右手を差し出す。
「……う……間接キス……」
セナは物怖じするのだった。
「形式ですから早くしてください」
ラーラがセナに催促する。
「う……」
と唸った後、
「最強を証明する」
セナはそう言ってラーラの右手の甲に口づけをした。
「はい。これで終わりです」
ラーラがそう言う。
「これで俺たちは聖杯大会に出れるのか?」
「そういうことですね」
「で、勝ち上がった奴がお前と結婚すると……」
「う……」
とラーラは怯み、
「もちろん先輩が優勝しますよね?」
救いを求めるようにラーラは言う。
「先のことは知らん。優勝する気で臨みはするが。お前の進退にも関わることだしな」
「どういうことです?」
「お前、状況わかってないだろ?」
「だから何がです?」
「ま、いいやな。それについてはゆっくり話そう。茶を出してくれ。こんな大きな城なんだから部屋はいくつもあるんだろう? ならそこで話そうじゃないか」
「では私の部屋に……」
ラーラはそう言って水月とセナを自身の部屋へと招く。




