ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング18
妖精郷にワープした水月の視界に真っ先に飛び込んできたのは辺り一面の花畑だった。
赤、青、黄、エトセトラエトセトラ……。
あらゆる色の花が氾濫し咲き誇っているのだった。
それだけではなかった。
良く見れば花と花の間をまるでミツバチのようにミツバチ程度の大きさの人型が背に伸ばしている羽を動かし飛び回っているのだった。
その数は数えきれないほどだ。
花も……人型も……。
妖精。
人型はそう呼ばれる存在だろうと水月は理解する。
なにせこの都市の名は妖精郷だ。
妖精がいてもおかしくはない。
花が咲き誇り妖精が飛びまわる。
「まさに妖精郷だな」
感嘆と水月が言うと、
「然りね」
セナは平然と同意した。
それから水月はグルリと周囲半周を見回して、妖精郷の中心に高くそびえ立っている城を見つけ、妖精郷に屯す多数のプレイヤーを見るのだった。
「妖精郷と言うくらいだから秘境を想像してたんだが結構プレイヤーいるな」
「たしかに変ね」
セナは口元に手を当てて同意する。
「変なのか?」
「変よ。本来妖精郷はそんな大層なクエストもないから誰も無理に来ようとはしない場所なのよ。なんでこんなにプレイヤーが集まってるのか……」
二人そろって頭上にクエスチョンマークを飛ばしていると、
「お、やっぱりセナさんも来たか。こりゃ聖杯大会も荒れるな」
そんな声がかけられた。
声のした方を見ると黒い天然パーマの髪を持ったソードマンがいた。
セナを勧誘してきたかつての高レベルギルド……マーチラビットの一人たるレイだ。
レベル70台の猛者である。
ともあれ聞き逃せない言葉があって、
「聖杯大会って何だ?」
水月がレイに問うと、
「そんなことも知らずに妖精郷に来たのかお前は? ていうかお前女だったのか……」
馬鹿にされ、勘違いされた。
水月はあえて訂正をしない。
そしてレイはセナに視線をやる。
「もしかしてセナさんも知らなかったり?」
「ええ、初めて聞いたわよ」
「あちゃー。失敗した。でもまぁこの盛況を見ればどっちにしろわかるか……。メニューからクエストに跳べばわかるよ。聖杯大会について載ってるから。それよりセナさん、マーチラビットに所属する意思は決まった? 俺からも勧めるよ? セナさんならギルドテスターだって一発だ。それにソロプレイだとこんな聖杯大会みたいなクエストも見逃しかねないじゃん? 俺もギルド揃って出るから知ったわけで。そういう対人情報ツールも持ってるのは損じゃないと思うんだ」
「考えておく」
「じゃ俺はこれで。大会に出るならそこで会お」
そう言ってレイは去っていった。
そんなレイを見送った後、
「クエスト表示、聖杯大会、水月と共有」
セナはボイススキップを行なった。
水月はというと花と花の間を飛びかう妖精の一匹を捕まえて検分しているところだった。
そんな水月の視界にイメージウィンドウが現れる。
聖杯大会と呼ばれるクエストの情報が表示される。
捕まえた妖精を解放してウィンドウを見る水月。
「要するにコロシアムでの決闘ってことね」
これはセナの言。
聖杯大会のルールはこうだった。
AブロックからDブロックまでの予選がコロシアム形式で行われ、そこから勝ち上がってきた四人がトーナメント形式で覇を競い合う。
ステータスおよび装備およびスキルはレベル無制限……ただしアイテムの使用は不可。
決着はハーフヒット制。
優勝者は妖精王オベロンの娘……つまり妖精郷の王女と結婚でき、なおかつ副賞としてリターンスフィアを一つ進呈される。
参加にはクエストを受諾した後、王女の祝福を受ける必要あり。
以上。
「なるほどな」
水月は聖杯大会のルールを確認すると、クエストを受諾した。
「出るんだ……」
これはセナ。
「ハーフヒット制なら死ぬ危険はないだろ?」
「そうだけど」
セナも指でウィンドウを操作してクエストを受諾した。
「ところで妖精の王女と結婚って何だ?」
「言葉通りでしょ」
「結婚……できるのか?」
「できるわよ」
「ゲーム世界なのに?」
「マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲームなら珍しい事じゃないけどね」
「……ふーん」
おずおずと水月は納得する。
「結婚すると何か得があるのか?」
「特に無いわね。まぁ一種の自己満足よ。いくつかボーナスはつくらしいけど詳しくは私も知らない」
「お前なら引く手数多じゃないのか?」
「ノンプレかもしれない相手に結婚願望が沸くわけないでしょ」
「納得……」
ポツリと水月。
「じゃあ俺ならいいのか」
とは水月は聞かなかった。
肯定されたら厄介だと思った結果である。
故に話題を変える。
「じゃあとりあえず王女の祝福を受けるために城に向かうか」
「そうね」
「それよりラーラとここで会えるってことはアイツもこのクエストに参加してるってことになる……のか?」
クネリと首を傾げる水月に、
「まぁ十中八九そうでしょうね」
セナも同意する。




