ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング17
「これでいいですよね?」
セナがそう言った。
何のことかと言えば敵軍の大将の首級である。
それをアドバイザーに渡すのだった。
「ほう……」
とアドバイザーは感嘆の吐息をついた。
「どうやって手に入れた?」
「なんというか……」
セナは言葉に詰まる。
「不条理が原因よ」
「不条理?」
首を傾げるアドバイザーに、
「不条理とは失敬だぞ」
不満を漏らす水月。
そしてセナはアドバイザー相手に事の経緯を説明する。
つまり水月がセナを抱えて戦場の兵士たちを足場にして跳躍を繰り返し、一気に敵の大将に襲い掛かったということを。
「ほう」
とアドバイザーは水月を見て感心した。
「そんな御大層なこっちゃないだろ?」
水月は謙遜するのだった。
「ともあれクエスト完了よ。さあ、ラーラさんは何処にいるの?」
結論を急ぐセナ。
そしてソレを聞くために水月とセナは命を懸けた戦争クエストに参加し、敵軍の大将の首をとってきたのだから。
アドバイザーは簡潔に、何事もなく、
「ラーラには妖精郷で会える」
あっさりと言った。
そして、
「それ以上の情報はやれん」
とばかりに沈黙するのだった。
水月とセナはそれ以上の情報を諦めてアドバイザーのもとを去る。
そして商都ヤマトの団子屋に腰を落ち着けるのだった。
水月は抹茶を飲み、それからセナに問うた。
「妖精郷って何処ぞ?」
ある意味当然の疑問である。
セナはおはぎを食べて嚥下するとボイススキップを使った。
「大陸マップ、水月と共有」
水月とセナの視界に大陸のマップが表示される。
そしてセナが指を振って東の国アインの最東端の森をチェックする。
「ここが妖精郷よ」
森の一部に小さな空白地帯があり、妖精郷と記されていた。
「東ねえ。ワープアイテムは使えるんだろ?」
「まぁね」
「しかし何でまた妖精郷でラーラと会えるんだ? もしかしてアイツこの世界を楽しんでいるんじゃあるまいな」
そう言って水月はみたらし団子を食べる。
「まぁ会えばわかるでしょ」
「だな」
気楽な水月とセナだった。
水月が話を変える。
「ところでだ」
「何よ?」
「お前が大将の首をとった時のことだがな」
「…………」
「当然相手は自動防御……カウンターを発動させうるものだとばかり思ってたんだが、大将ともあろう者が使わなかったよな。結果として安易に勝利と首級を得ることが出来たが……ありゃいったい何だったんだ?」
「カウンターキャンセルていう特殊スキルよ」
「カウンターキャンセル……」
「そ。レベル六十から現れる高レベルスキルね。攻撃が敵のカウンターの対象外になるって云う便利なスキルよ。その分スキルポイントを大幅に削るからあんまり人気は無いんだけど私のレリガーヴ……斧みたいに一撃に力を込めるタイプの手合いには必須スキルと言えるわね」
「なるほどな」
クイと水月は抹茶を飲む。
「しかしレベルによってそんな凶悪なスキルが現れるんならレベル差ってのは思いの外強固な世界だな此処は……」
「そうでもないわよ」
「?」
「少なくともステータスにおいては結構考えられているのよ」
「どんな風にだ?」
「ステータスポイントの取得はレベル50でストップするのよ」
「そうなのか?」
「ええ。レベル差における有利を縮めるためでしょうね。だからステータスポイントの最大は250ポイント。レベル51からはステータスをポイントで強化することはできないのよ。ま、その代わりに凶悪なスキルや装備コストが増えていくんだけどね」
「装備コスト……」
所謂装備にはコストがあり、自身のレベルを超えるコストの装備は出来ないというルールだ。
レベル80のセナはそれだけで装備のスロットコストが80もあるということだ。
たとえステータスポイントに限りがあろうと装備の差は隔絶として開くもの……。
セナはそう言ったのである。
「だからレベル50が一つの境目って言われてるわね」
「なるほどな」
納得して水月は抹茶を飲む。
「ちなみにレリガーヴの性能は?」
「直接攻撃力60に直接防御力20をプラスよ」
「無茶苦茶だ……」
「コスト40も消費するのよ? それくらい普通だってば」
「さすが伝説のガーヴシリーズってことか?」
「ま、ね」
セナは苦笑した。
水月はクイと抹茶を飲み干し、団子を食い尽くすと、セナに言った。
「セナ、そろそろ」
「わかってるわよ。転移石、オン。妖精郷」
そうボイススキップを行ないワープアイテムを起動させる。
そして水月とセナは妖精郷に跳躍するのだった。




