ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング14
ソフ国とオウル国の戦争クエストに参加するのは簡単だった。
メニューから参加可能なクエスト一覧を覗けば、その中に存在したからである。
水月とセナはオウル国軍側に味方する傭兵として参加の旨を取り付け、オウル国の国境間際にある要塞都市ワイバーンへと転移した。
それから水月とセナはワイバーンの要塞に顔を出し、明日の戦争における立ち位置を巡って論議する。
要するに傭兵としての水月とセナの立ち位置についてだ。
水月とセナは近距離武器を構えている癖に隊列の後方に位置することを望んだ。
無論このツウィンズというゲームは実際の死亡の危険性をはらんでいるデスゲームであるため……というのがその理屈だ。
ならそもそも戦争クエストに参加しなければいいのだが、アドバイザーの依頼とあっては無視できるはずもなかった。
そして傭兵でありながら軍の後方に陣取ることを軍に確約させると、水月とセナは要塞を離れて要塞都市ワイバーンを見て回るのだった。
ある種の観光である。
岩を積み上げて出来た要塞都市は、中世のソレを想起させて水月にとっては新鮮の一言だったのである。
商都ヤマトの様な古来日本風の雰囲気は水月とさくらにとっての故郷に似ているため安堵感を覚えたが、岩を積み上げて作られピリピリと緊張感をはらんだ要塞都市ワイバーンは意外と言ってよかった。
それから水月とセナの二人は食事処に入ってウェイトレスの歓迎を受けて席につくと、食事のメニューウィンドウを認識する。
水月は黒パンにコーンスープにドラゴン肉の厚切りベーコンを頼む。
セナはカルボナーラを頼む。
そして頼んだ瞬間、水月とセナの頼んだ料理がテーブルに一瞬でポップするのだった。
ツウィンズならではの光景だ。
それらを咀嚼、嚥下しながらセナが感慨深く言う。
「まさか私が戦争クエストに出るとはね……」
「え? お前も初参加なのか?」
「当たり前でしょ。戦争クエストに参加するなんて馬鹿のやること。オールヒット制で……しかも相手は手加減無しの波状攻撃よ? 普通なら死ぬっての」
「でも回復アイテムは使えるんだろう?」
「大量に持っていてもいずれ尽きる時はくるわよ」
「じゃあ何で戦争クエストなんて存在するんだ? 兵士たちもノンプレだっつっても死ぬんだろ?」
「ああ、戦争クエストに参加するプレイヤーはそのクエストのためだけにポップする存在だから。立ち位置としてはプレイヤーっていうよりモンスターに近いわね。私たちみたいな望んで参加するプレイヤーはレアなのよ」
「ふーん」
水月はベーコンを嚥下しながら納得する。
「…………」
「…………」
しばし無言の時が流れる。
水月もセナも食事に集中する。
アグリと水月がベーコンを食べ終わると同時に……セナが口を開いた。
「ねえ水月……」
「なんだ?」
「水月は魔術師なのよね」
「この世界で証明は出来んがな」
「でもこんな……ツウィンズみたいな世界があるってことはつまり不思議なことが存在して……それは向こうの世界……基準世界にも不思議なことがある証明でしょ?」
「その議論は終えているだろう?」
「じゃあさ」
セナは意を決して言う。
「私も現実世界に戻ったらイクスカレッジ……だっけ? そこで魔術師になれるかな?」
「無理だな」
躊躇も何もなく水月は否定する。
「バッサリね……」
「嘘はつきたくないからな」
「何で無理なの?」
「いくつか理由はあるが……一番の理由としてはお前が魔術というモノを理解していないからだ」
「でも魔法は使ったことあるよ?」
「こっちの……ツウィンズの世界と一緒にするな。ツウィンズではレベル上げてスキルポイントを割り振って呪文唱えれば……っ!」
そこで水月の言葉が途切れた。
水月は思案するように顎に手をやる。
思考と思念の渦に絡め取られて沈黙する。
「どうしたの?」
そんな風に問うたセナに、
「いや……まぁ……」
と水月は出した結論を自身の心に封印し施錠して、言葉を続けるのだった。
「つまりツウィンズではレベル上げてスキルポイントを割り振って呪文唱えれば魔術……こっちの世界では魔法か……を使える。だが現実世界の魔術の行使はそんなに生ぬるいモノじゃないんだよ。薬や実験によって脳の機能をぶっ壊して異常者になった後、その異常な脳を冷静に扱って理論的に行使する必要がある。脳の異常と冷静という二律背反を制御しきる矛盾した意識が魔術には必要になるんだ」
「私じゃ無理?」
「かどうかはわからんが……まぁまず目は無いな」
「ふーん」
カルボナーラを食べながらセナは納得のいっていない顔で納得するのだった。
「そもそもお前はこっちの住人だろう? 今更基準世界の話なんてするなよ」
「それは……そうだけど……」
「基準世界に比べて準拠世界……こっちの世界は楽しいだろ?」
「そうなんだけど……」
「なら良しとしろよ。ある意味でアークコネクタに選ばれたお前は誇っていい事柄なんだろうさ」
「…………」
セナは沈黙する。
その沈黙には意味があった。
しかして水月には関係の無い話である。
わかっていて水月は重苦しい沈黙をサラリと無視するのだった。
要するに遠慮が無いのだ。
「水月も……その……魔術師ってことは……壊れてるの……?」
「まぁな」
「でも普通よ?」
「そう気取っているだけだ」
議論の余地なく水月は言葉で切り捨てた。




