ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング11
重厚な門にはドラゴンの姿が彫られていた。
つまりこの扉の先にドラゴンがいるだろうことは水月にとっても想像が容易だ。
「水月」
「何だ?」
「速攻で決めるわよ」
「ふと思ったんだがな。俺が此処にいてお前だけで戦うってのは無しか?」
「ソロクエならそれも有りだけど今回はグルクエだから無理ね」
ソロクエとはソロクエスト……つまり当人一人に与えられるクエストである。
対してグルクエはグループクエスト……グルメン総がかりで行なわなければならないクエストである。
そしてこれもアークの為せる業か。
グルクエにて高レベルプレイヤーの無法を許すことはシステム的に不可能なのだった。
そうセナが水月に告げると、
「なるほどね」
水月は恐れ入ったりはせず淡々と言葉を返すのみだ。
「私がオフェンス。あんたがディフェンス。とにかくダメージを与えるのは私だからあんたはドラゴンの攻撃に対処してなさい」
「俺だってダメージ与えられるぞ?」
「言ったでしょ? ボスはノックバックしないのよ。攻撃の最中に相打ち覚悟で攻撃されたらどうするのよ?」
「抗魔剣の方で防ぐ」
「……まぁあんたなら確かにそうするんでしょうけど……万が一もあるから攻撃は私に任せて。十分もあれば倒せるから」
「へぇへぇ」
水月はガシガシと後頭部を掻くと、スラリと二本の刀を鞘から抜いた。
セナは片手に巨大な斧……レリガーヴを構えた。
そして扉を開かれる。
同時に、
「グアアアアアアアアアアアッ!」
とドラゴンの咆哮が聞こえてきた。
咆哮をあげたドラゴンの体は頭から尻尾から翼まで水晶で出来ていた。
まさにクリスタルドラゴン。
「グオオオオオオオオオオオッ!」
まるで洞窟全てが鳴動しているかのような咆哮。
圧倒的なプレッシャー。
並の人間ならすくみ上るソレに対して水月もセナもなんらの恐怖も痛痒も感じいることはなかった。
そしてセナが疾駆する。
水月にしてみれば赤点のソレもドラゴンにとっては驚異の一言だ。
そしてセナは斧を振りかぶり、
「パワーインパクト!」
とスキルの名を叫び……ボイススキップである……防御力無効化の一撃をドラゴンに与える。
それはドラゴンのヒットポイントの五パーセントを削り取るのだった。
圧倒的攻撃力。
さらにドラゴンのブレスや尻尾による攻撃によっても致命的なダメージを与えられない圧倒的防御力。
レベル80の神髄がそこにはあった。
「おおおっ!」
と雄々しく叫んでセナは巨大な斧……レリガーヴを振るう。
それは着実にドラゴンにダメージを与えていった。
「なるほど」
水月は攻撃用の日本刀を持った手で頬を掻きながら、
「これなら確かに十分で終わるな」
納得するのだった。
セナはというとドラゴンの攻撃を斧で弾いては、ドラゴンに攻撃を加えていく。
蓄積されていくダメージはエリクサーと呼ばれるアイテムをボイススキップで呼び出して回復させる。
そして、
「パワーインパクト!」
と必殺技をヒットさせていく。
クリスタルドラゴンはといえば、
「グルァアアアアア!」
と吼えて、目標を、
「お?」
とぼける水月へと変更するのだった。
ドラゴンが水月目掛けてブレスを吐く。
炎として吐かれたドラゴンブレスを水月は、
「よっ……と」
軽々しく抗魔剣の日本刀で切り払う。
アンチマジックが作用してドラゴンのブレスは朝霧のように消失する。
その間にも、
「カスケードインパクト!」
セナがドラゴンに攻撃を加える。
「グオアアアアアアアアアアッ!」
「ああああああああっ!」
ドラゴンとセナは互いに咆哮をあげて殺し合う。
そしてドラゴンが完全にセナに向いたのを察した水月が疾駆する。
「…………」
無言かつ無音でドラゴンに走り寄ると、
「しっ!」
と呼気一つ。
水月の高速で連続的な斬撃がドラゴンを襲う。
その斬撃はドラゴンのヒットポイントの三割を削った。
圧倒的な剣速の前にドラゴンは対処のしようがない。
しかもその連撃は攻撃スキルではないのだ。
あくまで水月自身の技術によるもの。
当然ドラゴンは水月に意識を向けるが、しかして水月に意識を向けることはセナに背中を晒すことと同様だった。
「パワーインパクト!」
セナは必殺技を放つ。
ソレをあえて受けながらドラゴンは水月目掛けて尻尾を振るが、水月はその時には既にボスフロアの天井に足をつけていた。
非常識な跳躍力が可能とする曲技だった。
そして、
「しっ!」
呼気を吐くと、天井を蹴って急降下……その間に十九回の斬撃をクリスタルドラゴンに与える。
それがとどめだった。
クリスタルドラゴンは断末魔の叫びをあげて消失する。
水月の視界にクリスタルドラゴンを倒した旨と、それから経験値と金銭とクリスタルドラゴンの鱗を手に入れた情報がウィンドウとして現れるのだった。
「あんたって……」
セナが水月の無茶に唖然としているのが水月にはおかしかった。




