エピローグ
あの街に帰るべく、事務所を後にして道を歩く。
「そういえば、チカはどうして俺の居場所がわかったんだ?」
「ん? えっと、よくわかんない」
「わかんないって」
「昨日までは、秀則の場所なんて全然わかんなかったんだよ? でも、今日のお昼くらいにビビッて来たの。あ、こっちに秀則がいるーって」
俺は昼間のことを思い出してみる。
病院を抜け出して、一万円札を拾って、腹一杯飯を食って、あいつらに捕まった。
チカに居場所を知らせるような特別なことなんて、何もしていない。
「そのビビッて感じ、まだするか?」
「うん。特にこの辺から」
そう言ってチカが指差したのは俺の股間だった。
「お前!?」
「違うよ! ポケット、右のポケットの中からそんな感じがするの!」
「なんだ、ポケットか」
俺は息をつき、ポケットの中をまさぐった。
入っているのは、財布と、なんだ?
小さな紙のようなものに指が当たった。俺はそれを取り出してみる。
「これは、切符か」
行ける限り遠くまで行こうとしたものの、あいつらに捕まって、結局使わなかったものだった。それを眺めていて、俺はあることに気がついた。
「あ」
「なになに? げっ」
チカが横から覗いて、眉を寄せた。
切符には、四つの数字が付いている。
俺がつまんでいる切符に印刷されたそれは、「四四四四」だった。
自殺をしようと部屋を出た日の朝に、駅で出会った女子高生を思い浮かべながら俺は呟いた。
「都市伝説ってのも、案外馬鹿にはできねえな」
切符をポケットに戻して、俺は再び歩き出した。
「ところでさ、これからどこに行くの?」
小走りに駆けたチカが、数歩前で振り返って首を傾げる。
「とりあえず、あの街に帰る」
「その指で?」
チカは、俺の左手を指した。
それを追って俺の目に入ったのは、悲惨な状態の小指。
喉が引きつる。
チカとの再会ですっかり忘れていた痛みが蘇る。
「うわあああああ、痛ああああああああああああああ!」
行き先がはっきりした。
病院への道すがら、焼けるような痛みに思うのだった。
俺、生きているんだなあ。