三
「拗ねないでよー」
「拗ねてない。呆れてるんだ」
「どっちでもいいからやめてよー。もっと構ってよー」
まともに相手をすると馬鹿を見るのがわかり、適当に扱うこと三十分。はじめこそ意地の悪い笑みを浮かべていたチカだったが、今では夏休みなんだからどこかに連れてってとねだる子供状態だ。とにかく、うっとうしいことこの上ない。
子供といえば――。高校のクラスメイトから、できちゃった婚での結婚式の招待状が来ていたことを思い出す。どうせ社交辞令か席を埋めるために送ってきたのだろうから、欠席に丸を付けて返信してやった。同封されていた写真には、クラスメイトと腹の膨らんだ嫁さんが写っていた。クラスメイトは嫁を労り、嫁はそれを信頼していることが写真から伝わってきた。幸福というタイトルが付いていても不思議じゃなかった。
俺が苦しんでいる分、誰かが幸せになっている。そう実感した。
降りる駅は直感で決めた。
しかし、そうして降りた駅名には聞き覚えがあった。
あれはそう、まだ真面目にバイトをしていた頃のことだ。
人付き合いを面倒くさがっていた俺にも、唯一よく話をする先輩がいた。前に働いていた会社を、四十を過ぎてリストラされた先輩の癖はため息だった。その日もいつものように、仕事が一段落すると長いため息を吐いていた。それから大きな独り言を漏らす。
「俺、死のうかな」と。
すると他の同僚はさっさとどこかへ行ってしまう。先輩の相手は俺がするものだと決まっていた。俺は先輩とバックヤードに残り、聞き役に徹する。この日、先輩は自殺について語った。方法とそれぞれの長所短所、遺書の書き方、それに有名な自殺スポット。
今の今まですっかり忘れていたが、たまたま降りたこの無人駅は、先輩が話していた自殺スポットの最寄り駅だった。
試しに行ってみるか。
「チカ、行くぞ」
「う、うん! ごめんね、もうからかったりしない!」
駅舎の壁に貼られた地図で場所を確認する。目的地は山の中。それでも道は単純で、迷わずに向かえそうだ。
外に出ると、濃い草の匂いがした。電車から見えた通り、周囲は緑一色。民家も見当たらず、こんな所に駅が必要なのか疑問だ。
「ねえ、ところで行くってどこに?」
「あー、山の中。近くに自殺スポットがあるって聞いたことがある」
「彼氏と二人でデートスポットに行ったことも無いのに、いきなり自殺スポットに行くのかあ」
「死にに行くんだからしかたねえだろ。それに、俺だってそんな経験ねえよ」
チカは目を丸くした。
「あんた二十四でしょ? それなのにまだなの?」
「うるせえ、お前だって同い年じゃねえか」
「あたしは十五で死んだから。もし生きてたら、絶対に彼氏くらいいたもんね」
「どうだかな」
「へへーん、負け惜ーしみー」
チカはついさっき自分で言ったことも覚えてないようなので、俺も適当なあしらいを再開する。と言っても、すぐにチカの幼児退行が面倒くさくなり、長くは続かなかったが。
しばらく歩いていると、徐々に木の密度が増していき、その内すっかり山の中に入っていた。道は舗装されておらず、何度も石や木の根に足を取られる。幽霊には道の良し悪しは関係なく、チカは綺麗な花なんかを見つけては駆け寄り、笑顔で俺の方に手を振ったりと、存分にハイキングを堪能している。心底、幽霊が羨ましくなった。
肩で息をするようになった頃、水の流れる音が聞こえてきた。
「もうすぐだ」
「ねえ、今度はどんなところ?」
「見りゃわかる。ほら」
木々が途切れ視界が開ける。
現れたのは沢。苔むした大きな岩が転がり、その隙間を澄んだ水が激しく流れている。より一層、緑の匂いが強くなる。
沢の上流に目を向けると、轟々と音を立てる滝があった。この滝こそが先輩の話していた自殺スポット、俺の目的地だ。
「すごい……」
チカは口を開けて呆然としている。既に先輩から聞いている俺でさえ鳥肌が立ったのだから、その反応は当然だ。
滝を眺めていると思わず息が漏れた。ここで何人もが自殺しているのがよくわかる。自分の抱える苦しみを、この滝は全て包み込んでくれそうな気がする。自殺したやつらはきっと、罪を許されたような気持ちで逝けたことだろう。
滝の脇には丸太を組んで作られた階段があり、それを登れば開けたスペースがあった。滝の展望スペースのようだ。ひとまず朽ちかけたベンチに腰掛け、疲労でぱんぱんの脚を休める。地図ではすぐそこに感じられたのだが、実際に歩いてみると起伏があるせいで、予想以上に時間がかかってしまった。
「次はどうやって死ぬつもり?」
隣でチカが首を傾げる。
「滝と言ったらひとつしかないだろ。今度は滝壺への入水自殺だ。飛び降りと違って一瞬じゃ逝けないが、まあ我慢する」
苦しみには二十四年も耐えてきたのだ。それに比べればたいしたことない。
申し訳程度の柵に近づき、下を覗く。高さはさっきのビルの半分くらいしかない。ただ、流れ落ちる大量の水に、絶え間なく湧き出る白泡、そして轟音。迫力は圧倒的にこちらの方が上だ。見上げたときに感じた雄大さも、ここでは畏怖に変わる。
「高さにはもう慣れたと思ったんだが……」
チカも柵から身を乗り出し、声を上げる。
「わー、これは確かにねえ。幽霊のあたしでも怖いもん」
「幽霊でも怖いとか思うのか。お前を見てる限り、幽霊も生きてるやつとそんな変わらないんだな」
「幽霊になったからって、そうそう変わるものじゃないよ。せいぜい体が透けるのと、金縛りやポルターガイストが使えるくらい」
「充分」
というか、ポルターガイストも使えたのか。
「あんまり使い道が無いんだけどね」
「何となく取ってあるデパートの紙袋みたいに言うな」
とにかく、こんなところでびびっていてもしかたない、銀橋さんにあれだけでかい口を叩いたのだ。やっぱり俺も死ぬのやめた、とはいかない。
ポケットから封筒を出して地面に置く。風で飛ばされないよう石を載せる。
「それなに?」
「あー、これか? 遺書だ。水に濡れて読めなくなったら、せっかく書いた意味がねえからな。とりあえずここに置いとけば、誰か見てくれるだろ」
「ふーん」
死ぬ準備はこれで完了。頬を張って気合いを入れる。
「よし、行くか」
柵を乗り越える。その時、柵にこびりついていた苔で手が滑り、危うくそのまま落ちそうになった。
「うわ!」
必死に下草を掴んで持ちこたえる。思わず止めていた息を吐き出し、胸を撫で下ろした。鼓動がとんでもない速さだ。
「危ねえ……」
柵の向こうでは、チカがやれやれと首を振っていた。
「秀則って死にたいんじゃないの?」
「ああ」
「遺書まで書いてさ、本当の本当に、本気で死にたいんだよね?」
「もちろんだ」
チカは軽蔑の眼差しを俺に向ける。それから滝壺を指した。
「今、そのまま落ちればよかったじゃん。それなのに、落ちずに助かったみたいな顔してさ」
「しかたないだろ。死ぬしかないってわかってる理性とは別に、生物としての生存本能があるんだから。それに、俺が望んでるのは事故じゃなくて自殺だ」
「結果は同じでしょ」
「いいや違う。こんなうっかりで死んじまったら、きっと後悔しまくりで死んでも死にきれない。それが原因で地縛霊にでもなったら、お前と一緒に逝くことはできなくなる」
「一緒に逝きたいなら早く死んでよ。あんたが生きてたらもっと無理なんだから」
死んでほしいとお願いしてきたのはチカの方だというのに、なんて言いようだ。
しかし、このまま口で勝負しても勝てないのは明白だ。傷口を広げないためには、早いうちに俺が折れるしかない。今に見てろ。死んで幽霊になったら、まずはその幼稚な頭をひっぱたいてやる。
「わかったよ、とにかく死ねばいいんだろ。死ねばよ」
柵を掴んで立ち上がり、崖の縁に足を揃える。体が震えているのは、滝の近くでは気温が下がるからに違いない。
「ふ、くっ、う~」
この期に及んで、俺の理性は未だに本能に勝てないでいる。
やっぱり、あのビルで飛んでおけばよかった。そうすればこんな怖い思いも、チカに馬鹿にされることも無かったのだ。
何が『なんとなくここでは死にたくない』だ。チカが笑う、いや大爆笑するのもわかる。臭い台詞を吐いてないでさっさと死ぬべきだった。
後悔ばかりの自分が情けなくて、今すぐ死んでしまいたい。
……あー、死ねなくてうじうじしてるんだった。
どうにも思考が八方塞がりで、自分でもどうしていいのかわからなくなってくる。
単純に、死にたいだけなのに。
「だー! なんで最後の一歩が出ねえんだよ! この意気地無しが!」
がりがりと頭を掻き毟って叫ぶ。
「なんなんだよ! 死にたいんだよ!」
怒鳴りつけるのは、生きようとするいじましくみっともない本能。ずっと、何かをやりたいという意欲すら持たなかったくせに、今更になってしゃしゃり出てくる。ひたすら罵倒しねじ伏せようとするが、こいつはしぶとく俺の脚にしがみついて離さない。そのうち、息が上がって言葉が続かなくなった。
「どうすれば、いいんだ?」
「しょうがないなあ、あたしが手伝ってあげよう」
チカは不敵な笑みを浮かべている。
「お前が取り憑いて、代わりに飛び込んでくれるのか?」
「違う違う」
「じゃあ、どうやって?」
「要は怖くて最後の一歩が出ないんでしょ。だから、その一歩が出やすいノリにしてあげる」
「ノリ? そんなんで飛べるようになるのか?」
「任せなさい!」
そう言って、チカは無い胸を張る。胸のボリュームと信用が比例するわけではないが、チカの言葉は頼りない。まあ、どのみち自分ひとりの力では飛べないのだから、頼るしかないのだ。この際、藁をも掴む思いで、絶壁のごとき胸を借りるとしよう。
「あー、よろしく頼む、ひんにゅ……チカ」
「何を言いかけたのか気になるけど、あえて今は聞かないであげる。心の広ーいあたしに感謝しなさい。じゃあ、始めるよ」
チカは足を肩幅に開き、右手を軽く握って口元に持って行く。
飛びやすいノリにって、何をするつもりだ?
二回深呼吸をし、発声練習をし始める。それから「よし」と頷いて、左手を高く掲げる。
なんの準備だ?
チカは左手の人差し指を真っ直ぐ、天に向けて立てる。そして、
「超ウルトラ飛び込みクイーズッ! イェーーーーーーイッ!」
「……」
「おやあ? 返事が聞こえないぞ? もう一回行こう、イエーーーーーーーイッ!」
「い、いえーい……」
「声が小さーい! それで死ねると思うなよ。イエーーーーーイッ!」
こうなったらやけくそだ。
「イエーーーーーイッ!」
「よーし、それでいい。みんな、天国に逝きたいかー!」
「逝きたーい!」
「それじゃあ今から、みんなにはクイズに答えてもらいます。しかーし! ただのクイズではありません! クイズに答えるためには、滝壺に飛び込んでもらいます。わかりましたか?」
「おー!」
「では問題。まもるくんは五歳のときには千円、六歳で二千円、七歳で三千円と毎年千円ずつ増えるようにお年玉を貰っています。しかし、その全額がお母さんにお年玉貯金として持って行かれてしまいます。しかもまもるくんが十一歳のとき、お母さんが欲に駆られ、お年玉貯金を使って十五万のブランドバッグを買ってしまいました。さて、まもるくんが二十歳のとき、お年玉貯金はいくら貯まっているでしょうか?」
お母さん酷過ぎだろ。まもるくんがかわいそうだ。だいたい、これ計算したらマイナス一万四千円って、別の意味で問題だ。
「さあさあ、答えがわかったら飛び込みましょう!」
「よっしゃ!」
縁ぎりぎりに立って唾を呑む。なんとなく、さっきよりは飛べそうな気がする。
「選手はみんな立ちすくんじゃってますね―。それじゃあ答えられませんよ。ほら、飛び込みましょう! みんなー、やればできる!」
「やればできる」
「やればーできる!」
「やればーっ、できるっ!」
逝ける。
膝に力を溜め、大きく腕を振る。全身のバネを意識して、溜まった力を一気に解放。 その瞬間、
「やめた方がいいよ」
「ぐえ!?」
突然、体が硬直した。動きを急に止められた反動で、全身に激痛が走る。痛みでその場を転げ回りたいが、動くのは目と口だけ。この感じには覚えがある。
「チカ、せっかく飛び込めたのに、なんで止めたんだ」
「あ、あたしじゃないよ」
「お前以外、誰がいる」
「私」
不意に金縛りが解かれ、俺はその場にへたり込んだ。声がした方に目を向けると、チカの背後に人影があった。現れたのは、チカよりも小さな女の子。小学校低学年くらいだろうか。腰を遙かに超えて、膝まで伸びた髪が印象的だ。ただ、なによりの特徴は、透けていることだった。
二人目か。
俺はいつ、霊感なんてものに目覚めてしまったのだろう。
「こんにちは」
女の子は礼儀正しくお辞儀をする。つられて俺とチカも頭を下げた。
「あー、君は?」
「私はキリカ」
「うん、キリカちゃんね……」
別に名前を聞きたかった訳じゃないのだが、かといって、俺自身にも何が聞きたかったのかよくわからない。チカも頭の整理が追いつかないのか首を傾げている。
俺たちが喋れずにいると、キリカちゃんは柵をすり抜けて俺の隣に立った。座り込んだままの俺と目線の高さが変わらない。
「お兄さん、ここはやめた方がいいよ」
「え?」
「自殺。ここは駄目」
俺の自殺を止めてくれているのか?
それにしては、何か言い回しが変だ。
「キリカちゃん、俺の自殺を止めてくれてるの?」
聞いてみると、キリカちゃんは頷いてから首を振った。
どっちだ。
キリカちゃんは俺の疑問なんてそっちのけで、自分を指差す。
「お兄さんは、私が見えてるでしょ」
「ああ、どういうわけかばっちりとな」
昨日までは金縛りにもあったことないのに。
「じゃあ、あれを見て」
そう言ってキリカちゃんは、自分を差していた指を滝壺に向ける。さっきまでのノリと勢いを失った今では、覗き込むのも勇気がいる。
「あれってのは、滝壺のこと?」
「うん。何が見える?」
「何って、岩とか泡とか」
「泡の中、もっとよく見て」
そんなこと言われても、一体何があるというのか。手で笠を作り、絶え間なく浮かび上がる泡を眺める。
あの泡がおかしいのか?
言われてみれば、少し泡立ちすぎな気がする。
「きゃっ!」
突然の悲鳴に振り返ると、チカまでも滝壺を指して尻餅をついていた。その顔は尋常じゃなく青い。まあ、幽霊なのだから当然かと納得してしまいそうになるが、チカの表情はそんな冗談で片付けられるものじゃなかった。
「どうした? 何があった?」
「あ、あの泡の中……」
「だから、泡の中がなんだっていうんだ?」
「泡の中、沢山!」
もう一度、チカやキリカちゃんの言う泡の中に目を凝らす。無数の泡はさながら虫の大群のよう。そんな中をじっと見ていると、変な動きをしているものを見つける。ひとつ見つけると、あとは芋づる式だった。それは泡の中だけに収まらず、やがては泡からはみ出して滝壺を埋め尽くした。
「うわあ!」
滝壺いっぱいに広がったのは、人の手だった。肘から先が水面から生え、何かを求めるように蠢く。
「これは!?」
「手だよ」
「それはわかってる! なんであんなに沢山、生えてるんだ!?」
キリカちゃんはあくまで淡々と語る。
「あれはここで死んだ人たちの手」
「ここでって、自殺か?」
「ちゃんと教えてあげるから、先にあっちに行こう? ここは危ないから」
促されるまま柵を乗り越えてベンチに腰を下ろす。膝に肘を載せて指を組む。二人の幽霊を見た。
さっきの手は、こいつらと同じ幽霊なのか?
あまりにも雰囲気が違いすぎる。
チカはベンチの上で膝を抱えて丸くなっている。
幽霊まで怖がらせるなんて。
「あれはなんなんだ? それに、君も」
キリカちゃんは一度頷いてから語り出した。
「あれは、ここで死んだ人たちの手。自殺した人のと、そうでない人の」
「そうでないってのは、事故か?」
キリカちゃんの答えは、予想の遙か上だった。
「ここはね、ずっと昔、山の神様に生け贄を捧げる場所だったの」
「生け贄!?」
「うん。毎年、夏祭りの夜に若い女の人を、お兄さんが飛び込もうとしていたあそこから突き落としていたの」
「そ、そんなの聞いてない……」
「この辺りに住んでる人でも、知ってるのはおじいちゃんおばあちゃんたちだけだから」
先輩、あんたはなんて場所を教えてくれたんだ。
「もしかして、すごく神聖な場所だからここで死んじゃ駄目ってことか?」
しかし、またもキリカちゃんは首を振った。そして震えているチカを見る。
「お兄さん、お姉さんと一緒に天国に逝きたいんでしょ」
「あ、ああ。よくわかったな」
正確にはチカが一緒に逝きたがってるのだが、そんなのはどっちでもいい。
「だから止めたの。ここで死んだら、天国には行けない」
「まさか、地獄行き?」
「地獄にも行けない。ここで死んだらずっとここ。山の神様が生け贄と勘違いして、魂を滝壺の底まで引きずり込んで食べちゃうから」
「食べ……」
俺はそんなところに飛び降りようとしていたのか。背筋に悪寒が走る。死ぬのはいい。しかし、そこから先にまで苦しみがあるのなんてうんざりだ。
「みんな食べられそうになると、助けてって手を伸ばすから、口からはみ出て噛みちぎられちゃうの。お兄さんも飛び込んでたら、あの中の一本になってたよ」
想像するのも恐ろしい。
「ごめん……」
丸まったままチカが呟いた。
「もう少しで、秀則に酷いことするところだった」
確かに、危なく死ぬよりも辛い思いをするところだった。天国にも地獄にも行けず、ただ助けを求めるだけの永遠。
しかし、チカが謝るのは間違っている。
「何を言ってんだ。ここへは俺の意思で来たんだから、お前は何も悪くねえよ。ここがやばいところだって、地元でも知ってるやつが少ねえって言うじゃねえか」
「でも……」
「いいんだよ、結局飛び込まなかったんだから」
チカは小さく頷いた。
思わず手を伸ばしていた。俺の右手がチカの頭をすり抜ける。
今の生きている俺じゃあ、背中をさすってやることもできない。やっぱり、あのビルで飛び降りればよかった。
ここで死ねないとなると、次はどうすればいいのか。近くに死ねる場所なんかは……。
そういえば、キリカちゃんは手だけならずにここにいる。ということはだ、どこか別の場所で死んだはず。
「キリカちゃん、あの手のことはよくわかった。だから、よければ次は君のことを教えてくれないか? あー、答えにくいことには答えなくてもいいから」
「うん、いいよ。でもね」
「でも?」
「代わりにお願いを聞いて」
また幽霊からのお願いか。これが生きている女の子からのお願いだったらどんなに嬉しいか。いや、さすがにキリカちゃんは幼過ぎるから、せめて十年後にな。
まあ、キリカちゃんには助けてもらったし、何かお返しができるならしてあげたいとは思う。チカのお願いみたいに命がけのものじゃなければいいんだが。
「俺にできそうなことなら、任せてくれ」
「それじゃあ、なんでも訊いていいよ」
「ありがとう。そうだな、まずは君がいくつなのか教えてくれないか?」
正直、幽霊の年齢なんかに興味はない。しかし、物事には順序というものがある。いきなり不躾なことを聞いて機嫌を損ねるわけにもいかないし、とりあえずは無難な会話で距離を縮めることにする。
「死んだ時は九才」
「へー、ってことは小学三年生か四年生か」
「……」
急に黙ってしまうキリカちゃん。
しまった、何かまずいことを聞いたか? やっぱり女の子に年齢を聞くのは……って小学生がそんなの気にするわけない。じゃあなんだ?
キリカちゃんはうつ向き、小さく溢した。
「小学校に、行ったことない」
無難にいったつもりが、いきなり地雷を踏んでしまったらしい。
「あー、えっと、どうして行ったことないのか、聞いてもいいかな?」
訊いてはいけないとは思うが、逆に訊かないのも不自然な気がする。
「私……、生まれてからずっと、病院に暮らしてたから」
「ずっと?」
地雷は想像以上に大きかった。
「心臓が弱くて、普通の生活はできないって先生が言ってた。それで病院からは出ちゃいけなかったの」
そんな生活、想像することもできない。
チカもキリカちゃんもうつ向いてしまって空気が重い。それなのに、俺の知りたいことを訊くためには、もっと重い空気になることを覚悟しなければならない。
「それじゃあ、キリカちゃんは病気で死んだんだ」
キリカちゃんは声無く頷いた。
心苦しい思いをしたのに収穫は無し。もしもキリカちゃんが自殺していたなら、その場所を教えて欲しかったんだが。
「死ぬまで病院から出られないなんて、俺には耐えられなかっただろうな」
「うん。私も耐えられなかった」
「え?」
キリカちゃんは顔を上げる。
「私のお願い、聞いてくれるんだよね?」
「あ、ああ」
「じゃあ、ついてきて」
回れ右すると、キリカちゃんは俺達が来たのとは別の、細い獣道に入っていく。チカに声をかけ、慌てて後に続く。
「どこに行くんだ?」
キリカちゃんは振り返らずに答える。
「私が、死んだところ」
どういうことだ?
「キリカちゃんは病気で死んだんだろ? なら、行くのは病院?」
「ううん」
それからキリカちゃんは黙々と山を分け入っていく。いや、実際に分け入ってるのは、体を持ってる俺だけだ。前後の二人は足取り軽く、草だろうが倒木だろうがすり抜けていく。キリカちゃんの歩幅が小さいのがせめてもの救いだ。なんとか見失なわずについていける。こんな道で置いていかれたら、下手すれば遭難してしまう。
一時間ほど歩いただろうか。チカはだいぶ落ち着いてきたようだったが、相変わらず二人とも喋らない。俺もそんな余裕はとうに無くなり、いっそのことここで舌を噛み千切って死んでしまいたいくらいだった。それでもまだ歩いていられるのは、始めこそ獣ですら通れるのか不安だった道が、徐々に太く平らになってきているからだった。
やがてキリカちゃんが何もないところで立ち止まる。
道に迷ったのだろうか?
獣道は途中で幾筋にも分かれていて、俺にはもう、どう進めばあの滝まで帰れるのか見当もつかない。
キリカちゃんは俺に振り返り、茂みの中を指した。
「今度はなんだ? もしかして、またあの手みたいなやつがあるのか?」
しかし、キリカちゃんは首を振る。
そうなると……。
キリカちゃんが獣道へ案内するときに言ったことを思い出した。
「まさか、ここがキリカちゃんの……?」
「うん」
指し示された茂みを掻き分けてみる。すると、そこには人の骨が転がっていた。
息を呑む。
近しい人間が死んだ経験の無い俺にとって、初めて見る光景だった。動物に荒らされたのか、骨は至る所が抜けている。頭蓋骨にそっと手を伸ばし撫でてみると、確かにそれが人の頭だとわかった。
現実的な死が、目の前にある。
「どうして、こんな場所で……」
「お兄さんが言った通り、私も耐えられなかったから」
キリカちゃんが俺の隣にしゃがむ。
「私、生まれてからずっと病院にいた。毎日検査をして、沢山の薬を飲むの。副作用が出た日は息ができないくらい苦しくて、それを抑えるために点滴を打たれた。腕はね、右も左も針の痕だらけで、お母さんはそれを見て泣いてた」
この小さな体に絡み付き突き刺さる管を想像してみた。親じゃない俺でさえ、胸が苦しくなる。
「私が辛いって言うと、お母さんはもっと辛そうな顔をするの。だから私は一生懸命笑って、痛いのも苦しいのも我慢した。その時、私はどうしてって思うの。病気なのは私なのに、本当に辛いのは私なのに、どうして甘えさせてくれないのって。私だって、お母さんの胸の中で泣きたかった。お母さんはずるい」
キリカちゃんは白い骨を睨みつけている。しかし、その視線の先には別のものあるようだった。
「毎日が嫌だった。病院から出ることもできないから、どんどん嫌な気持ちは貯まっていって、それをどうにかするためにもやっぱり薬を飲まされて……。私ね、いつか外に出て死ぬのが夢だった。」
改めて世界の理不尽さを知る。
死ぬのが夢だなんて、子供が口にしていいことじゃない。神様があてにならないなら、医者や政治家はもっとなんとかしろ。無責任にもそう思ってしまう。
「そんな時に、私よりも長く病院にいるお婆さんから、生け贄を捧げるのに使われた滝があるって聞いたの。そこなら、死んで幽霊になっても、仲間がたくさんいるから寂しくないだろうなって思って。だから先生に、もしも外に出られるようになったときのためにって地図を貸してもらって、あの滝の場所を調べたんだ。それでね、体の調子がいい日の夜に病院から抜け出したの。病院の庭で芝生を踏んで、道端で石に触れて、壁が無い世界を見て、全部が嬉しくて涙が出た」
キリカちゃんは自分の体を抱きしめた。子供らしい小さな丸い鼻が赤くなっている。
「幸せって初めて思った。この気持ちのまま死にたい。もう苦しいのは嫌。早く、早くって言うことを聞いてくれない体を動かして、滝を目指した。……でもね、駄目だった。胸が苦しくなって、少しも歩けなくなったの。ちょっと休もうと思ってここに座ったら、すごく眠くなって、起きたら私が死んでた」
「それが、ここ……?」
「うん」
もう一度辺りを見回してみる。何があるわけでもない、杉ばかりが空に向かって背を伸ばす味気ない景色。花のひとつすら見当たらない。
キリカちゃんは、こんな寂しい場所でたった一人、生を終えた。
内蔵がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたように腹が痛む。
喉がひりついて声が出ない。
頬を伝った汗が顎から滴り落ち、地面にシミを作った。徐々に広がるそれとともに、ある感情が俺の心を覆っていく。
憐憫の情だ。
自殺志望者が、まさか既に死んでいる者に同情するなんてな。
せめて触れられれば。今日、そう思ったのはもう何度目だろう。しかしいくら思っても、俺の目覚めたての霊感に、それほどの能力はない。
唾を飲み込み、喉を潤す。
何か言ってやるべきじゃないか。
何か、がはっきりとはしないが、俺は口の動くままに任せた。
「こんな場所で、一人で死んじまって、寂しかったよな」
「お兄さん、なに言ってるの?」
「え?」
キリカちゃんの以外な切り返しに、思わず間抜けな声が出た。
「私、別にここで死んだことを後悔なんてしてないよ。それどころか……」
自分を抱く腕に力を込め、キリカちゃんは頬を染める。その顔に寂寞の色など微塵もなく、あるのは恍惚や陶酔といった、おおよそ子供には似つかわしくないものだった。
「快・感……、ふぅ」
小さな唇から艶っぽい息が漏れる。
な、なんだ?
急にキリカちゃんの雰囲気が変わり、というよりも歳を重ね、色香が漂いだす。まるで夜に羽ばたく蝶のような。
「私を苦しめ続けたひ弱な体は死んでしまった。でもね、代わりに自由を得たの。どんなに動いても痛みが襲ってくることはない。この悦びは、どうしてもっと早く死ななかったって自分を恨んでしまうほど」
あまりの豹変ぶりに、チカも口をぽかんと開けたまま、金縛りにかかったように動けないでいる。
「私に死ぬきっかけをくれたあの滝は、すぐに見に行った。山の神様にお礼を言いたかったから。そしたら、丁度飛び込もうとしている人がいたの。私以外に死のうとしている人を見るのは初めてだったから、とりあえず黙って見ていることにしたわ。まぁ、もう私は死んでたから、話しかけても気づいてもらえなかったんだけど。その人はだいぶ悩んでぶつぶつ呟いていたけど、最後は静かに落ちていった」
キリカちゃんの体がびくびくと大きく震えた。
ついで、悦楽の声を上げる。
「ぞくっとしたわ。それで私は完全に目覚めたの。人が死ぬことの快感に」
うっとりと宙を見つめ、息を荒くする。
「それから何人もがあそこから身を投げるのを見たわ。
泣きながら落ちるの。
怒りながら落ちるの。
笑いながら落ちるのには痺れた……。
あの手に気づいたのは五人目が落ちた時だったかしら。急に怖くなったんでしょうね、その人はすぐに水から顔を上げたの。私は死ぬのが見られなくてがっかりしたけれど、すぐにもっとすごいことが起こったのよ。その人が岸に向かって泳ぎ出した途端、滝壺が割れたの。こうガバーッて。なのに滝壺の底は全然見えなくて、その人は真っ暗な穴に落ちていった。今でもあの驚いた顔は忘れられないわ。はぁ……。それからしばらくして、手だけがまた浮かんできたの」
キリカちゃんも右手を伸ばし、左手で上からなぞる。細い指が艶めかしく動き、唇にたどりついた。
そのしぐさに、相手は子供だというのに顔が熱くなる。直視できなくなり顔を背けると、チカが手の平で顔を覆ってもじもじしていた。
頭の中は疑問で溢れているが、たったひとつ明確なことがある。
キリカちゃんは普通ではない。
「死」に陶酔するなんて、ド変態を軽く通り越して狂人だ。これ以上一緒にいるのは危ない。直感がそう告げていた。
「な、なあ、お願いってのはなんだ? 俺にできることなのか?」
「ああ、お願いね。あなたにできるかどうかは、うーん、どうかしら」
「難しいことか?」
「言葉で言うのは簡単よ」
キリカちゃんはすっかり幼さが消えた微笑みを浮かべる。
「私を、成仏させてほしいの」
「成仏って、どうやって?」
「さあ」
「なんだそれ……」
「もう三十年もあそこから人が飛び降りるのを見てきたから、いい加減に飽きちゃったのよ。だから、そろそろあの世に逝ってもいいかなって思うの。でも私、あの世へ逝く方法なんて知らなくて」
「三十年!? あれ? キリカちゃんって九才じゃあ……」
「それは死んだときの年齢」
紛らわしい。でも、それならキリカちゃんの妙な色っぽさにも納得だ。
「とにかく、成仏させてちょうだい」
「そう言われても」
俺は頭を抱えて考える。俺自身、成仏の経験なんて無いし、何をしたらいいものやら皆目見当が付かない。
「なあチカ、成仏ってどうしたらできるんだ?」
ここは現役の幽霊に訊くのが一番だろう。しかし、
「えー、私? うーん、どうしたらいいんだろう?」
チカさえも首を傾げてしまう。
「どうしたらいいんだろうって、じゃあお前はどうやってあの世に逝く気だったんだよ」
「なんとなく、逝きたいなあって思ったら、スーって煙が消える感じで逝けるんじゃないかなって思ってた」
「適当過ぎるだろ」
「逝きたいって思うだけで逝けるんだったら、私はとっくに逝ってるわよ」
キリカちゃんも呆れた顔をチカに向けていた。
チカは当てにならない。改めて頭を悩ませることにした。
人が死んだら、何をする?
とりあえず葬式だろうが、こんな場所で葬式なんて……。
ああ、でも、まあ。
俺は両手を胸の前で合わせた。
「~~~~~~~~~~~~~~~」
「うわっ、急にぶつぶつ呟きだしてどうしたの秀則」
「~~~~~~~~~~~~~~~」
チカは構わず、俺は続けた。すると、
「あれ? 何か、……気持ちいい?」
キリカちゃんが自分の体を不思議そうに見る。
「あ、こんなのでいいのか」
「こんなのでって、あなた、今何をしたの?」
「読経」
「ど……?」
「ど、きょ、う。要はお経を読んだんだ」
「秀則って、お坊さんだったの!?」
チカが俺とキリカちゃんの間に入って叫ぶ。
「でもハゲてないよ? もしかして、カツラ……」
「違う。ただ訳あってお経を覚えてるだけだ。そんなことより」
チカ越しにキリカちゃんに目を向ける。何も言わなくてもキリカちゃんには通じたらしく、はっきりと頷いた。やっぱり大人だけあって、話が早くて助かる。
「チカはちょっと向こうに行っててくれ。ここにいたら、お前も成仏するぞ」
「わかった!」
チカが両手を広げて、木々の向こうへ駆けていく。それを見送ってから、俺はキリカちゃんと向き合った。
「何か言い残しておきたいこととかあるか?」
「あなたに言ったってねえ。どうせすぐに死ぬんでしょ? ああ、でもこれだけは伝えておかないとね」
「なんだ?」
「森の抜け方。私が逝ったら、あなた、遭難するわよ」
そういえばそうだった。
キリカちゃんは道とは呼べないような木々の隙間を指しながら、抜け道を教えてくれた。案外、出口は近いようだった。
「ありがとう。じゃあ、始めるぞ」
「ええ、お願い」
俺はもう一度手を合わせて、お経を唱え始めた。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「ああ、気持ちいい」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「ん、いいわ……」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「ふぅ、はあ、はあ……」
ん?
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「あ…、あ、あ……」
何故だろうか。俺はお経を読んでいるだけなのに、
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「あっ、もう、駄目……、逝くっ、逝っちゃうっ……」
どうしてこんなに卑猥な感じになるんだ?
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「逝くっ、逝くっ、……逝っちゃ、うーーーーーーーっ!」
キリカちゃんが艶っぽい叫びを上げ、果てた。いや、成仏した。幼い少女の体はチカが言っていたように、煙のごとく希薄になり、やがて消えた。
「逝った、か」
木々をすり抜けてチカが戻ってくる。その頬は朱に染まっている。
「あのさ、秀則」
「なんだ?」
「お経、読んでただけだよね……?」
あらぬ誤解をされているようだった。
「あ、あんな声が聞こえてきたら、勘違いしたってしょうがないでしょ!」
チカが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「マセガキが」
「マセガキじゃない! 私だって、大人の女なんだからね!」
「大人、ねえ」
俺は立ち止まり、チカの体を眺める。
「はっ」
「鼻で笑うな!」
「うが!」
途端に体が動かなくなり、小枝が飛んでくる。避けることもできず、小枝は額に直撃した。
「くそ、幽霊っぽいことしやがって」
「デリカシーの無い秀則が悪い」
チカはそっぽを向いて先に行ってしまう。送れて金縛りが解かれた。関節をぐるぐると回して様子を見る。金縛りに慣れ始めている自分がむなしい。
「そういえばさあ」
少し離れた木を擦り抜けながらチカが言った。
「さっき訳あってお経を覚えてるだけって言ってたけど、それってどんな訳なの?」
「ああ、たいしたことじゃねえよ」
下草や笹を踏み固めながらチカを追う。
「大学受験の時に、縋れるものには何にだって縋ってやろうと思って覚えたんだ。仏教主要宗派はもちろん、神道、キリスト教、イスラム教、拝火教、その他にも色々な」
「へえ。それで、効果は?」
「訊くな」
「ぷっ、そんなの覚えるくらいだったら、試験に出ること覚えたらよかったのに」
「ぐっ……」
チカに正論を諭されるなんて、死ぬほどの屈辱だ。これで死ぬのは願い下げだが。
「でもお経って本当に効果あったんだ」
「それについてはまあ、俺も同意見だな。あんなにあっさり成仏するとは思わなかった」
「三十年もこの世に留まっていたのにね」
「むしろ三十年もいたから、未練なんかどうでもよくなっちまったのかもな」
「三十年かあ……。私たち、まだ生まれてもいないよ」
そう言われると、すごく長い年月に感じる。俺は自分の二十四年間を思い出していた。といっても、何の面白みも無い人生だ。ほとんど勉強ばかりで、他のことには冷めた目を向けているだけだった。
俺はいつからそうなってしまったんだったか。
それだけは思い出せなかった。
「ねえねえ、試しに少しだけお経を読んでみてよ」
「あ? 成仏しちまうぞ?」
「だから少しだけ。キリカちゃんだってすぐには成仏しなかったでしょ。本当にお経を読んだだけで成仏できるのか、気にならない?」
「まあ、確かに」
キリカちゃんの成仏はあまりにもあっけなくて、それが本当にお経の効果なのか、半信半疑ではあった。あれはキリカちゃんが特別なだけで、自分たちの時はうまくいかないんじゃないか。
「よし、じゃあ少しだけな」
「ばっちこーい!」
チカが両手を広げて構える。俺は両手を合わせて、お経を唱えた。
「~~~~~~~~~~~~~~~」
「ふんふん、……ん?」
「~~~~~~~~~~~~~~~」
「ああ、これはなかなか」
「~~~~~~~~~~~~~~~」
「ふふっ、んっ、あっ」
「~~~~~~~~~~~~~~~」
「あっ、あっ」
「~~~~~~~~~~~~~~~」
「い、いい……、もっとぉ」
「~~~~~~~~~~~ってあほか」
「う、ん? あれ? なんでやめちゃうの?」
「これ以上やったら、成仏しちまうだろうが」
「あ! そうだった、危ない危ない。あんまり気持ちいいから、つい」
「つい、じゃねえよ……」
とりあえず、成仏の方法はわかった。それにしても、だ。
成仏って、こんなに卑猥なものだっただろうか。