第1夜
少年と少女が二人、廃ビルの屋上に居た。二人は対になるように、
少年は、空を仰ぎ、少女は地上を見下ろしていた。
今夜の月も、黄色い。
そう、素直に思えるほどに異常な黄色さ。いや、実際、異常である。
この街では満月の夜が、今日で4日続いてる。
「やっぱり、魔王がここに居座ってるのかなぁ?」
僕は、睦月に問いかける。
「でしょうね。さっさと姿を見せればいいのに、何処にいるか分かりもしないわ。」
睦月が、悪態をはく。
「桃花ちゃんに、そろそろお願いした方がいいかなぁ。」
「あの狼に頼むなんて、ごめんよ。」
「そっか。じゃあ、とりあえず帰ろうか」
「私、先に降りてるわよ。」
そう言うと彼女は、無数の闇に千切れてビルの出口を目指して降りる。
「そう言われてるけど、お願いできる?桃花ちゃん。」
振り返って、後ろの少女に尋ねる。
「……ん。必要ない。」
「必要ないって、平和主義なの?」
睦月の問いに、桃花は首を振って返事。
「…分かんないけど。魔狩りの気配がある。」
空気が僅かに重く。
「魔女が来てるのかぁ…。」
月の時間を止めちゃうような強さの魔王だと、倒せるかあやしいなぁ。
「ん、こっちに来てる。」
「!?」
言うが早いか、桃花は僕を抱きかかえると(いわゆるお姫様抱っこ)、5,6階はあるビルの屋上から飛び降りる。
空気を切り裂く音。音。それに僅かに、熱で何かを焦がした臭い。臭い。僕と桃花とは、別の気配が降りてきた。
闇から姿を戻した睦月がツっこむ。
「なんでこっちに、連れてくんのよ!?」
「…やっぱり、今、探索掛けた時に、逆に見つかった…かな?」
違う。論点が、違う。
「見つけました。貴方がこの街の魔王ですね!!」
睦月を睨みつけながら、魔女は言う。
「違わないけど、違うわよ!!」
人違いならぬ、魔王違いだね。
「月を止め続ける、その横暴見逃せません!!」
魔女は、聖剣を鞘から抜く。その輝きはまるで昼間を呼び込むかのように眩くて。
だからきっと。
反射的だったんだと、思う。
「"2番目の悪魔"」
ウゥウウウォヲォオオォオォォオオ
桃花ちゃんは、右手の中指に嵌めていた魔道具を発動。
桃花を起点とした、影という影が呪いを形にして魔女を襲う。襲う。襲う。
「"エクス・クライン"はそれぐらいの呪いでは怯みません!!」
呪いを掻き消す、一閃。
「…結構、やれるかも。」
「やれるかもじゃなくて、なんで私が危ないのよ!!」
睦月の頬に一筋の赤。
桃花は、僕を抱きかかえたまま跳躍して回避していました。
「…後は、任せる。」
そのまま背を向けて、走り出す。
「本気!?」
僕は、言うしか無かった。
「ドナドナードーナードナー」
「英二、私を見捨てるの!?」
キュンッ
光の一線。桃花の胴体を真っ二つにする。
が、しかしすぐに闇がじわっと広がり、接合する。無かったかのように。
「殺すわよ。あんた」
睦月が、魔女に殺意を飛ばす。
「身体を再生するなんて、化け物ですか貴方は・・・」
「ふんっ・・・これぐらいで化け物になれるなら、苦労しないわよ。」
「ならば、これならどうですか!!」
聖剣が、虹色の光を持つ。
「へぇ・・・人間風情がよくやるじゃない。」
睦月の周りに、闇が拡がる。周りの光を喰らうように。
置いて行かれてる事にも気づかず、睦月は迎撃態勢を取る。
「行きます!!」
魔女の跳躍。
「届かないわよっ!!」
睦月の迎撃。
虹の剣が、闇を切り裂こうとする。
闇は、質量を持っているかのように、光を進ませない。
「って、私、置いていかれてるじゃない!・・・アンタに構ってる暇は無いわ。」
闇が拡がる。
拡がる。
一瞬の出来事に、対応出来ない魔女。
「えっ!?なんですかこーーー」
声も掻き消えて、闇に呑まれる。
「そこから出られたら、また相手してあげる。私は、家に帰って文句の一つでも言わないといけないから。」
もごもごむがー!
何か、闇の中から声が聞こえるが、睦月は、気にせず身体を闇に千切らせ、闇に紛れていった。
今宵も、夜が過ぎ行く。
真っ黄色な月が街を照らし続ける。
おはようございます。ワンダーフォレストです。
どこまで厨二病になれるか挑む今作を楽しんで頂ければなによりです。