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自慢炸裂!母なる大地と酒の国

個人的に一番好きな国はアイルランドですねw

「それでは、HRを終了します」




レイヴンが教室のドアを閉めると同時、おそらく来るであろう質問攻めに備えて

玲華もその場から離れるために、見知らぬ人物に囲まれるのは慣れていないために

、瞬時に駈け出そうとした……が、




「待て、どこへ行くつもりだ」



「ナンテコッタイ」



ミーシャに腕をつかまれ、脱出は失敗となった。




さて、結局席を囲まれて逃げ場を失い、ものの見事に四面楚歌で質問攻めを受ける玲華だが、そんな中で、一人の少年が列を割って玲華の元に登場した。




「おいおい、いっぺんに聞かれても聖徳太子じゃないんだから答えれるわけないだろ? という訳で、大まかな質問は俺が訪ねていくぜ。まず最初に……趣味とかはあるのか?」



黒に近い茶髪をした、笑顔満面の男ーー阿佐木祐二あさきゆうじーーが、上手くこの場を制してテンプレートな質問でジャブをかける。




「バードウォッチングとか、なにか生物を眺めること……かな」



「へぇ……じゃあ水族館とか動物園とか好きそうだな!」



「うん、動物園も結構好きだけど、陸上生物よりは海洋生物が好みというか……ロマンというか」



「おお! やっぱり海は惹かれるよな! 他にはあるか?」



程よく玲華の緊張をほぐしつつ、周囲が質問ばかりを投げかけないように、うまく気配ってペースを保つ。



それによってあせることなく、適度に対応出来ることにさりげなく玲華は感謝しつつ、話を続けた。



「風景を眺めたりするのも好きだな、緊張してたせいで学校前の桜並木はしっかり見てなかったけど、他にも西洋の街並みとか……後はロシアの雪景色」




「うむ!! ロシアは実に素晴らしいぞ!! 寒冷のなかで力強く育つ人! 名のある音楽家も多数、世界に名を轟かせ、そして何よりも歴史のある国家だからな! 無論街並みも美しい」



「………………」




ロシアという単語に反応して机を思いっきり叩いて立ち上がり、力強い意志と、眼光を爛々と輝かせて雄弁に語り始めるミーシャ。周囲も押され気味で、止める術もなく熱が上がる。



「た、確かに。それに、料理とかも結構美味しいよね」



ロシアを褒める内容に、ミーシャの目は更に見開き、興奮のボルテージがグングンと上昇していく。




「玲華よ、貴公は話せる者とみたぞ!!! 広大且つ厳しい土地環境で育った野菜や肉は格別の一品、その素材で作るボルシチは世界の主食となるべきだと私は思う。無論、我が国の味よりは落ちるだろうがな! フハハハハハハハハハ!!!!」




「あ~あ、油を注いじまったな。こうなったらもう暫く止まんないから、どうしようもないよ」




祐二が手のひらを上に向けて、やれやれといった態度でため息を吐いた。



しかし、なんとか抑えるべく『ケースの中身を見なくていいのか?』と、むりくり流れを変えようとする……しかし、玲華はなんとなく嫌な予感がした。



「お、おお。そうだったな、すまない。まだまだ語り尽くす事も多いが、先ほど公言したからな、ケースの中身を拝見させてもらおう」



なぜか危機感を感じつつも、ケースのジッパーを開く。



その中身に周囲のクラスメートは思わず息を漏らし、肝心のミーシャは……。




「これは……カラシニコフ!? それにこちらはドラグノフじゃないか!! ……貴公、気に入った、とことん気に入ったぞ!!」



顔を真っ赤に染め上げ、興奮の最高峰へと達してしまった。



肩をつかまれ、前後に激しく揺さぶられる。




因みにカラシニコフというのは、ロシア製造の世界的に有名な自動小銃(一般的にはアサルトライフルと呼ばれる)の一つでAK47という名前で知られており、口径が7.62mm

と、弾丸のサイズも大きいので自動小銃の中でも殺傷能力はかなり高い。



ベトナム戦争時にはベトナム兵が愛用し、田んぼの泥水に隠しても問題なく作動したり、砂まみれになっても玉づまりしないなど、かなりの頑丈さを持ち、それに加えて一丁、平均で4000円弱で買えたりと安価で、テロリストすら御用達の銃である。



因みに玲華が持っているのはその後継タイプのAK74で、口径が5.45mmと威力は落ちるものの、その分撃った際の反動が少なく命中精度が格段に上がり、射程距離も上がっている。



そしてドラグノフ、こちらは正式名称ドラグノフ狙撃銃(Snajperskaja Vintovka Dragunovaを略したSVDとも呼ばれる)といい、前述のAK47のように、長期で使え、尚且つ丈夫さを求めた為にAK47を参考に開発され、特徴は銃床(銃の尻部分、肩にあてて反動を抑えるパーツ)がぽっかりと穴が開いたかの様に肉抜きされている。有効射程は600メートルとスナイパーライフルでは平均的。




「Родина Калашникова имеет много солдат самое лучшее блюдо

Конечно, я буду использовать(祖国の兵士が多用したカラシニコフはまさに最高の一品だ、私ももちろん使っているぞ)」



「待て待て待て!! 何言ってるかさっぱり訳がわからん!!!」



「Ах, какой чудесный большой день сегодня, и могут встретиться друг с другом является New! !(ああ、今日はなんと良い日だ、素晴らしい同士に出会えるなんて)」




最早周囲からすればなんとしゃべっているのかわからない状態、取りつく暇もない。



その時、興奮気味で鼻息荒いミーシャの視線がある一つの銃に向けられた。



その銃の名前はPSG-1、ドイツ製の優秀なスナイパーライフルだ。



名前の由来はドイツ語でPräzisionsschützengewehr1(1号精密狙撃銃)の頭文字から取られ、スナイパーライフルにはセミオートマチック式とボルトアクション式があり、PSG1とドラグノフはセミオート式の近代型スナイパーライフルである。



セミオート式のスナイパーライフルはボルトアクション式とちがって内部構造が複雑な為に命中精度が下がる……と、言われていたが、これのモデルであるG3という銃の中でも一番命中精度が高いものを参考に、熟練の銃器職人がなんと手作りで生成したため、セミオート式でも高い命中精度を実現した。



ちなみにお値段は7000ドル、職人お手製の為に一種のブランド品となってしまっているが、その分性能は申し分なし、有効射程距離は700メートル。



セミオートの利点は、ボルトを引いて一発づつ装填……という手間がなく、マガジン一つを使い切るまで撃ち続けられるので複数狙いの場合は素早く対応出来る……が、マガジンを替える際の時間が長く、スコープから目を長く離すので目標を見失う可能性が高い。



逆にボルトアクション式は装填が手間掛かるが、内部構造がシンプルなので整備性や耐久性や価格、命中精度や射程距離に秀でた物が多く、ワンショット・ワンキルの信頼度はかなり高く、ボルトアクション式かセミオート式か、メリットとデメリットが対極的なために使用は状況や好みによるのだ。



とにかく、両方ともに優秀な事には変わりないが、ミーシャの視線はまるで粗悪品を見るかの如く、興奮が一気に鎮静していった。




「同士よ、悪いことは言わん。あまり西の銃を使用するのはお勧めできんぞ、頑丈さは勿論、玉づまりの頻度と言ったら頭が痛くなるからなぁ。」




「でも、俺は結構向こうの銃も好きだよ? 見た目のフォルムも惹かれるし、頑丈さは確かに劣るだろうけど性能や使い回しの範囲は広いと思う……けど」




「まぁ言いたいことはわかるが、性能面でも母なるロシアの銃には及ばんさ。短絡志向で裁量を弁えず、戦争を仕掛けて負けていったドイツなんかは特にな! フハハハハハ」




バン!! ……と、高らかな笑い声を遮るように、玲華の左側から机を強烈に叩く音が聞こえた。



恐る恐るそちらに顔を向けると、拳をわなわなと握りしめたアリシアが、怒りの形相でミーシャを睨み付けていた。




「さっきから鷹片さんを困らせまいと黙っていたが、もう我慢ならん。見た目の流麗さもなく、ただ単純発想が取り柄のロシアなんぞにそこまで言われたくはないな! そもそも、お前が言うカラシニコフだって我が国の技術者を招いて作った、いわばパクリではないか。料理に至っては世間一般ではボルシチなんぞよりソーセージのほうに意見が傾くに決まっている!」




(えぇぇぇぇぇぇぇ!!? なぜお国自慢対決になってんの!?)



「なんだと!? それを言えば貴様の国こそ……」



「まだ言うか! 結局お前の国こそ……」



目の前で第一次独露口論が開催される最中、制服の裾をクイッと引っ張られ、そのまま席を離れる玲華。



「ああなったら離れたほうがいいよ、前に無視して本読んでたら飛び火したから……ほら」




指差されて二人の方を見ると、祐二が物の見事に巻き添えを食らっていた。



「やはりロシアが一番だ! 阿佐木もそう思うだろう!?」



「いや、ドイツの方がどう考えても素晴らしいだろう!! さぁ、遠慮せずに本心を言え!」




「俺かよ!? ……日本が一ば……グフォァ!!」



強烈な張り手とパンチを食らい、床に倒れていく……。



(祐二さん、あんたの心遣いと優しさ、忘れないよ)



「夏草や、兵どもが、夢の跡……By志摩」




「いや、芭蕉さんのでしょ?」




さりげなく自分の物にしている発言に、思わず突っ込む玲華。それに対し、なぜか志摩――三門志摩みかどしま――は驚愕の声をあげ、ゆっくりと少し間合いを取った。




「む、鋭い…………それはとにかく、僕は三門 志摩。奇妙な縁になることを祈ってあえて名乗っておくよ」



制服に近い、目にかかる紺色の髪をかき分けて、手を差し出す。




「う、うん。よろしく?」



苦笑しつつも手を握り返し、何とも果敢に、玲華はケースを取りに行くべく再び喧騒の中に足を運ぶ。



「ぐっとらっく」



親指を立てて拳を握り、無表情で人の輪に消える玲華を見送った志摩……その直後、本日二度目の悲鳴が教室に響いた……祐二のだが。


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