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転入生は、男の娘!?

時々出てくる専門用語は、独学と、偉大なるウィキ先生から拝借しております。

四月……それは出会いと別れの季節。


桜は満開に咲き誇り、散りゆく花びらが舞い踊る中、目を細めて空を見上げ、風情を楽しみつつも億劫そうに歩く少年が一人。



彼の名前は鷹片玲華たかひられいか、坂道の上に建つ⦅国立 史山学園⦆の二年生。



白いワイシャツの首部分を緩め、ネクタイも力なく、だらりと適当にまかれており、パッと見はあまり素行の良くない生徒に見える。


黒い髪をガシガシと掻き毟り、深い紺色のブレザーに枝毛が落ちるが、そんなことに気付かずに坂を上った。



国立史山学園、その名の通り国が建てた高校。



⦅なぜ国が⦆という理由は……現在の世界情勢が乱れ、どこの国も戦争まで一触即発という恐ろしい事態にあり、どこの国も戦力の拡大化を方針に掲げていた、そんな中でも⦅必要以上の戦力を保有しない⦆という路線の日本からすれば、土地面積でも人数でも圧倒的に不利。



そこで考えたのが、優秀な兵士を育てるべく世界各地から原石を招いて養成するシステム⦅兵士育成思想論⦆だ。


これは⦅我が学校に預けた者は分け隔てなく育てますけど、その代わりに不可侵条約を結んで日本には攻めてくるな⦆というぶっちゃけた盾作戦であり、一見するとなんの旨みもない条件だが、高名な家系にあって優秀に育てたい人物ほど逆に暗殺の危機があるため、世界各国は快く承諾。



これを破った場合は条約に同意した国全てで制裁を加える……というフルボッコを公言しているので、警戒はしつつも未来の宝石を懸念なく磨くことが出来るのだ。



では、逆に教育する教師の心配はどうだろうか? となるが、さすがその辺は抜かりない日本。



基本的な勉強は勿論、世界各地から様々な分野の達人を招き入れ、⦅近接⦆、⦅銃撃⦆、⦅情報・オペレート技術⦆、⦅メンテナンス⦆、⦅操縦士⦆、⦅医療⦆、と、多種多様な分野を専攻することが出来るのだ。



こうして、世界に認められるだけの学業水準をクリアーすることによって入学志望も多く、それに比例する成績が必要となる。



数学や国語、外国語などの教養のほかに、前述した分野のどれかを好成績で抑える必要もあるので、必然的に生徒のレベルもそれなりに高い。



施設については寮は勿論のこと、他にも室内プールや演習場等を兼ね揃えているため学園規模では世界最高クラス、なにからなにまで備え付けられたパーフェクトな⦅養成施設⦆である。



……しかし、優秀な中にも問題のある生徒は存在し、それで学校側は優劣を明確に分けるために、特に優秀な者が集う特進クラスを筆頭に、特進(S)→A→B→C→D→E→Fとクラス選別され、成績が良ければ要望に応じて一つ上、逆に期末考査でクラスに設けられた順位を下回るとクラス落ちするハメとなる。


しかし、カリキュラムを受ける時や学校行事にて必要な経費が払えないという生徒も存在するため、奨学金制度も実行されるが、根本的に学校の施設などを鑑みても莫大な資金が掛かるためか特進クラスやAクラスには高名な家系や血筋の生徒が多く、社会的な優劣の差も意図せずして生まれてしまう。



そうなれば下位のクラスは鬱憤も溜まる、それを発散して後の事故に繋がらない様に様々なクラス対抗イベントの他にも、得意分野で競い合うシステムが満載なのだ。



因みに、クラス選考は条件を満たしていれば入れるため、個人意志で⦅好きなクラス⦆を選べて、一クラスに50人、前述の分野を選んだ生徒が、どれかが多く偏らない様に均衡的に配置される。



しかし、中には事情によってわざとクラスを下げている場合もある為、Sクラスの様に勉学も身体的にも特に優秀な兵士ばかりが固まってるとは限らず(優秀なのには変わりないが)、ダークホースが紛れることもあるのだ。



因みに卒業後の進路だが、成績と本人の意思によって軍事関連の職務に就いたり、直接軍隊に志願することも可能だ。



志願した場合は、本物の軍人が直接視察にきて、見込みのある物を引き取っていく。



さて、話は長くなったが、学校と侮れない本格的な鍛錬メニューや施設状況で、一つの⦅国家⦆とすら比喩出来る史山学園。



自前の武器を持ち込む生徒も多々おり、玲華も背中にギターケースの様な細長い鞄を背負っているのだ、中身はまだ秘密である。



因みに彼は転入生で、とある事情にて入学することとなった。



事情というのもそこまで大層な物ではなく、とある専攻に光る物を見入られたので学園側からスカウトされた……というのが理由だ。



勿論、彼だけ特別ではなくいろいろとスカウトしているらしいが、三年間卒業するまでに強制退学となった物が6割、自主退学が3割、残りが才能を開花させて無事にどこかへ志願していく。




スカウトであるから、入学する側にもメリットは必要であり、その際に提示した条件を学園側が了承することによって、入学試験と面接試験を受け、晴れて合格すれば編入、落ちた場合は……それまで、入学は取りやめとなる。




「今は始業式の最中かぁ、終わるまでは職員室に待機しろって言われてたな」




微かに聞こえる校歌を尻目に、学園案内のパンフレットに従って職員室の前で佇む。


その時、引き戸式のドアががらりと開き、そこから現れたのは体長が二メートルほどの、様々な傷跡が勲章として顔に残っている、一般的な新緑迷彩の制服をまとった巨漢だった。



髪は返り血の如き赤黒のショートで、瞳は獅子すらたじろぐ眼光を放つ茶色。



……玲華は固まった。



それは無理もない、こんな怪物と遭遇したら幼児なら気絶、社会人でも黙って財布を差し出すほどの迫力だ。



そんな男がゆっくりと口を開く……噛み殺される様な錯覚を、玲華は思わず感じた。



「君が今日からこの学園に編入する玲華……君? だね。私の名はレイヴン・アルカート、名前の綴りから察しただろうけど外国人さ、素早くクラスに馴染めないだろうけど頑張ってね、いじめや問題があれば気軽に相談するといいよ」



「は、はい。よろしくお願いします」




思わずずっこけそうになるのを抑えて、返事を返す。



(万国もびっくりだわこりゃ)



さりげなく失礼だが、イメージとかけ離れているためにまぁ仕方ないだろう。



ぼんやりしていると⦅付いておいで⦆と、いつの間にか距離を話しているレイヴンに招かれて、慌ててその背後をついて行く。



「この学園は世界各国から生徒が集まっていてね、変わった者たちも多い。友達に関しては特に心配は必要ないと思うよ。とりあえず、校舎の構成は大丈夫かい?」



「はい。念のための脱出経路の最短ルートも割り出しました」



「ははは、随分と用心深いねぇ。まあ、それくらい慎重なのが良いかもね、大胆すぎるのも問題だろうしね」



リラックスさせる為に他愛ない会話を続けていると、ガラス窓の向こう側からちらほらと教室に戻る生徒達の姿が見えた、ーー始業式が終わったようだ……玲華はそう判断する。



「あれは三年生の人たちですよね?」



「ほう……そうだよ、よく見えたね」



見えた生徒と玲華との距離差は約50メートル、ネクタイに三本の白いラインが引かれていたので判断したが、しかし、光の反射でうっすらと霞むガラス窓では瞬時に判断するのは難しい。



レイヴンはその点をひっそりと判断しつつ、肯定の意味を持って頷き、再び歩く。



二年生の教室は三階にある日差しの良い位置で、水道の蛇口が光の反射でプリズムを壁に映すほどだ。



廊下を歩いていると通り過ぎる教室から明るい喧騒が響き、ドアのガラス越しに、立ち歩く生徒も確認できる。



「さぁ、ここだ。転入生はちょっとした人気者になるだろうからね、あまりHRの最初から騒がれない様に呼ばれるまで待機しててね……それと、ネクタイはしっかり締めること」



「すいません、了解です」



首が窮屈になるのを感じつつも返答し、確認したレイヴンは教室へと入る。



「静かに! 朝のホームルームを始めますよ」



注意と同時、ゆっくりと喧騒は静まった。


廊下にも会話の内容が聞こえてくる、玲華はそれに耳を傾けた。



「起立、礼! ……着席!」



凛々しい女性の声が聞こえてくる。


(何の指示もなく始めた辺り、日直よりもクラス委員長とかかな?)


玲華が前に通っていた学校では朝の号令等は少なくともそうだった。再び、教室の動向に耳を傾ける。



「今年から君たちの担任になったレイヴン・アルカートです。まぁ、私のことを知ってる生徒も多いと思うけど念の為に。主に近接戦闘の指南の者としてこれから君たちとさらに授業で出会うでしょうが、君たちのためにもしっかりと指南していくので、気を抜いていると大怪我をするので気を引き締める様に」




「センセー、今日の報告とかはあるんですか?」




キリの良いところで、明るく活発そうなイメージを思わせる女の子の声が響く。




「そうですね……日程表で把握済みだとは思いますが、今日はHR終了から20分後に専攻教科担任説明があるだけで授業がありません。その他は今回報告する事は特にないですね。まぁ、君達にちょっとしたお知らせはありますがね」




その瞬間、教室がざわめき始め、一気に喧騒へと変化した。



「静かに静かに!!」




「先生、お知らせってなんすかー?」



今度は男の声が聞こえる、それに続いてレイヴンが質問攻めとなってしまった。



「百聞は一見に如かず。時間を押してしまうので……入ってもよろしいですよ!」




(うう、いざとなるとやっぱり緊張する……)




お腹がキュッと引き締まる感覚を味わいつつ、カチコチと緊張の足取りで教室へと入った。扉を開けると同時、50人の視線が一斉に玲華へと向けられる。




ボソボソと呟きが漏れる最中、教団の上へと立ち、黒板を叩くチョークの音を背後に教室を見渡した。




「う……」




一人ひとりと視線が合い、なんとなく気まずくなって思わず逸らして床へと視線を落とす。



「今日から2-Fに配属されることになった鷹片 玲華さんです。皆さん快く迎え入れて下さいね」



「よろしくお願いします」



まごつきながらも軽く一礼。




その直後、⦅何か玲華さんにこの場で質問がある人はいるかい?⦆という、なんともありがた迷惑な気遣いと共に、全員の腕が一斉に挙がった。



「それじゃあ、アリシアさん」




アリシア……という、ブラウンっぽい茶色い長髪の、ボディラインの出るところはしっかりと出ている少女が、ピシッとした綺麗な姿勢で立ち上がる。




「はい。初めまして、私はアリシア・フランシスカといいます。失礼な質問だが、貴殿は……その……男だろうか?」



……その質問に、レイヴンは苦笑し、玲華は顔をひきつらせた。



制服で一目瞭然だが、見た目はどちらかといえば女性に近く、声も同年齢の者と比べれば確かに高い、さながら女の子の様に。



しかし、身長が高く、制服のサイズが合わない為に仕方なく男子用の制服を着用しているのではないだろうか? という、無用の疑いをかけられたのだ。



「お・と・こ! です」




「そ、そうであろうな……失礼した」



しっかりと声高らかに返され、実は内心驚いているアリシアだが、これ以上は更なる侮辱となる為に声には出さなかった。



「次は……アリシアさんが委員長なので、補佐のミーシャさん」




次に、肩にかかる輝く銀髪が思わず目を引く、力強い蒼の瞳も特徴のスレンダーな体型の少女が立ち上がる。




「了解した。私はミーシャ・レカノフ、母なるロシアの誇り高き兵だ。貴公は背中にケースを背負って居るが、それの中身を拝見してもよろしいだろうか?」




「あぁ、これは入学当初に学園側に注文した銃ですね、まだ弾は詰めていませんが見たけりゃ後でどうぞ」



背負っていたケースを、生徒帳簿を下にしない様に配りながら教卓の上へと置く。最前列の女生徒が思わず後ろのめりになった。




因みに弾丸といっても実弾ではなく、この学園で使われるのは殆どが暴徒鎮圧用の特殊ゴム弾で、学年の主任に申請することによって学園側から無償で支給される……が、ひと月に支給される数は決まっているので使いすぎると前借状態の悪循環となり、減点対象にもなり兼ねない。なので、大概の生徒は細かく申請するが、いっぺんにひと月分を申請する者も中には存在する。



ひと月分の弾丸を使い切らずに手元に余した場合は返却及び、持ち越した場合は、数に応じて年度末まで、ひと月に申請出来る数に上乗せされるのだ。



そしてこの学園は、学園という名目だが兵士を育てるのを方針としており、この学園の学生ならば、学園内なら国から所持を許可されるのだ。勿論、銃は本物、重みのそれはおもちゃとは訳が違う。



「是非とも拝見させてもらおう、質問は以上だ」




それをもって、皆の腕が下がっていく。



今のうちに聞きたかったのはその大まかな二つの質問だったのだろう……一つ目はさすがにアレだが。




やや間を置いたとき、HR終了のチャイムが校内放送にて学校全体に鳴り響いた。




「玲華さんの席はちょうど真ん中の所ですね、左右にはクラス委員長と補佐委員を配置したので何かあったら遠慮なく聞いて下さい」




それを聞いて一息つき、短く返事をしながら、ケースを背負って着席。


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