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木槿咲く頃  作者: 幸輝
2/2

出会い

*長らくお待たせしました。著作権は放棄していませんのでよろしくお願いします。

(レン)…またその夢見たって言うの?」

 


「そうなの。今日で三回目。」



 白いカッターブラウスに胸元に赤のリボン。深緑と紺色のチェックのスカートを着ている女子高生の2人は、呆れているように会話を進める。


 (レン)と呼ばれた女子は、規定の制服を着こなしていて、黒髪セミロングであり、前髪を左横に流している。目が緑色と変わっているが美人に分類される彼女には、気品な感じで似合っていた。


 恋の隣を歩く生徒は、恋とは違い赤色の規定のリボンはつけておらず、オレンジに近い明るい茶色の髪は、横髪は耳が隠れる程度の長さ、後ろ髪が肩にかかるかの程度のショートヘアーである。

髪と同じ色の大きな瞳が活発的な印象をあたえている。


「にしても、なんで三回も見るんだろうね?しかも前見たのは二日前と間隔が短くなっていない?」


「確かに…。」


 二人は、恋が見たという夢について悩むが答えなど毎回出ない。


 なんせ夢なのだから。推測は出来ても答えなどないのだ。


 しかし、そう何度も同じ夢なんて見る物なのだろうか?それに、夢なんて朝起きたら忘れてしまうのが一般的なものである。そう、今まではそうだった。だが、今朝見た夢だけは、情景が詳しく説明できるほど、覚えているのだ。


 まるで


―――夢というより記憶


そう思えてしまうほど恋にとってこの夢はただの夢ではなかった。

 初めて見たときは意味がわからず、身体中に汗をかいていた。冷や汗なのか、夢の緊迫した雰囲気にやられたのか、わからなかったが何故か辛くて泣きそうになっていた。なるべく夢について考えないようにしたし、中間テストの前であったためテストに意識がいき夢どころではなかった。 

 しかし、

『忘れた頃にやってくる』とは、このことをさすのだろう。ホントにうまく出来た言葉である。


 テストが終わった日の夢はまた同じものだった。それが二日前…


 最初見たときから二回目の間は一週間もあった。


 しかし今回は二日。


 何故だろう。焦りを感じ今日もまた同じ夢を見そうな気がしてきた。

 季節は6月に入ったばかり。朝夕はまだ半袖だと涼しいくらいだが、晩春の爽やかでひんやりした空気が心地よく感じる、「今日は1日快晴ですよ」と朝にテレビで見たお天気キャスターのお姉さんは言っていたが、恋の心は晴れない模様。夢のことを考えるのも、欝陶しく思い、この心地よい天気を満喫しようとした時だった。


「あ」


と、思い立ったように声を出すオレンジ髪少女―――松本みさきは、苦虫をつぶしたような顔で恋を見つめる。 その目で訴えてくることは大抵よくないことと長年の、小学生からの知り合いなために知っている。

「〜〜恋、お願いがあるんだけど」


「聞きたくないけどどーぞ。」 やれやれと答える恋だがみさきの答える言葉に目を見開いた。


「今日提出の数学のプリント写させて」



 *****



 わからない。全くもって答えが導きだせない。


 数学のプリントは、残念ながら恋も存在を忘れていた。なので問題を解いていっているのだが、どの公式を利用していいかさえ、わからなく四苦八苦してしまう。


 結局、みさきに問題解いとくね。と約束し、校門に着いた時点で一度別れた。みさきは朝練があるという陸上部に走っていき、恋はというと、自分の教室で問題と格闘中である。


 みさきと違い部活動に所属していない恋だが、朝練のある彼女と登校をするのだから、もちろん学校に着くのはだいぶ早い。時計の短針が7をさしたくらいの早さには2Aの教室を開けてプリントを解いていた。プリントがないなら、本日ある授業の復習と予習をしている。宿題などは前日中には終わらしとくのだ。


 つまり、恋は真面目なのだ。いや、真面目に成績をあげないといけない立場なのだ。


(提出点も数学は大きく見るしな…)


 答えを解く問題ならまだわかる。しかし長々と説明文があり、答えを解く応用問題は得意ではなかった。(まだ、数学じゃなくて歴史とか科学ならな…)


 記憶力はどちらかというとよいほうだ。 だから、暗記科目は成績がよい。

英語もなんとか単語と公式を覚えておけば解けるし、国語も文学本をよく読む恋には大きな問題はない。



 そう、一番苦手科目の提出プリントを見事に忘れてしまったのである。


 最後の応用問題以外は自力で解いたものの、最後が空白になっている。さて、どうしようかと思う。まだ教室には恋以外は登校していない。


 ふと、校庭から賑やかな声が聞こえてきた。


 運動部の朝練の声が、今まで教室にも届いていたが、この時間帯に応援の声援が聞こえるのはみさきの属する陸上部。


 恋は窓際の席であったが、立ち上がって広い校庭を見る。目当てのオレンジ髪のみさきを見つけるのは簡単で手を振ると帰ってくる。

いつもの光景だ。 陸上部は朝練の最後のシメとして、朝練に参加したものたちが、二つにわかれてリレーをするのが練習メニューに入っているらしく、いまちょうど第一走者がスタートしたところだった。


 このリレーが始まると、他の部活に勤しむ生徒も応援にまわる。バトンの色から 赤頑張れ!や、白、抜かれるぞ!など、 中にはこの対決を賭けにしている生徒もいるから、応援は大変熱い。


 ただいま、白のバトンをもつチームが多少負けていた。だが、次の走者に変わった瞬間、声援が一際大きくなる。


「松本!抜け!!」

「みさき〜、頑張れ!!」「先輩!!!」そう、みさきが走者になった。


 先輩や、同学年、後輩、男女関係なく、みさきに声をかける生徒が多い。赤のバトンを持つ生徒が可哀想なくらいにだ。


 みさきも声援に答えるように、差を縮めていく。しかも相手は、走り高飛びを専攻しているものの、男子生徒だ。その男子生徒に並んだ瞬間の声は、歓喜にかわり抜いた瞬間にはみんなが拍手を送る。

 恋とて、教室からではさすがに叫びはしないが、拍手を送り、走りっぷりに高揚とした気持ちになった。


 リレーの結果は、そのまま白チームが勝ち抜き、みさきの周りには、人が集まり、掌どおしを叩いて喜びを分かち合っている。

 陸上部をはじめ、他の部活の朝練が終わりだし、あと10分もすれば、朝練をしていた生徒も、そうではない生徒もちらほら教室に登校してくるだろう。


 なら、問題がわかる人がいるかもしれない。でも自力で解きたいしもう少し頑張ろう…みさきをはじめとする朝練メンバーも、頑張っていることだし。


(特待生は結果が命だしね。)


 自分の席に座ろうとした。



だが



…いつのまにだろうか 


 一人の生徒が登校していた。しかし、何故だろう。

 恋の前の席に座り、身体は恋の席に向けて、机に置いてあったプリントを解いている。


 恋は驚きとも呆然ともどちらとも、とれる表情をするが、視線だけは、前に座る男子生徒に釘付けだった。 男子生徒は、視線に気づいたのだろう。


 顔をあげて恋の視線に捉えると、にこりと顔を朗らかせて、「おはよう」と挨拶をしてきた。 恋も、つられて挨拶を返すが戸惑いを隠せないでいる。


 何故なら、この目の前にいる生徒を恋は知らなかったからだ。前の席ではもちろん違うし、クラスメイトでもない。…というより

全体的に色素が薄い。


 髪の毛は、脱色しているのか、金に近い黄土色のフサフサした髪であり、肌の色は、日の光をしらないかのような白さ。 それであるのに、右目は怪我をしているのか、眼帯をしていて、していない左目の色は青である。だが、恋のように整えられた顔立ちから、フランス人形を連想させる。


 こんな特徴的な顔なら学校で目立っいるはずなのに、そんな姿はおろか、噂さえ聞いたことはなかった。

(ここの生徒出なかったら、他校生?)


 よくみれば、恋の通う海南高校の男子制服とは違うものを着用している。男子は白シャツに深緑色とチェックのズボンを履くが、この生徒の着ている制服は、薄い水色のカッターシャツにベージュ色のカーディガン。紺色と青のチェック柄のズボンを履いている。


「あなた誰?どうして海南にいるの?」

 そう恋は尋ねてみたが、男は笑みを深めて質問に答える。


「あんたに会いに来たんだよ。暁恋」

 恋は自分の名を呼ばれたため、改めてこの男子は知り合いなのか、見つめるかやはり、会ったことはなさそうで、恋の気持ちに気づいたらしい男は「はじめまして」と言った。


「はじめまして…って、私に何の用ですか?」

「用っていうか、知りたかったから来た。今の状態を」

 男は、困惑する恋とは対象的に、淡々と答えていく。質問もプリントもだ。


「状態って…な」

「夢見るんでしょ?女の人が殺される夢」

「!!」


 言葉を遮られ発言され、今まで以上に驚きを隠せない。何故、知っている?

みさきにしか話していないはずなのに。


 男は、手に持っていたシャーペンを置き、席から立ち上がり恋と視線を近くにする。

 今まで座っていたため、恋は男を見下ろしていたが、今では男を見上げる形になっている。

 大きめなカーディガンを着ているため、細身の印象を与えるが実際のところよくわからない。身長は、160センチの恋より一回り高いようであるから、170センチから175センチの間ぐらいだろう。


 男は、言葉をつむぐ

「夢、みるようになって何か変わったことない?……そう例えば」

 目線が斜め左上にいく。 つられて見るが、何もそこにはない。

「やはり、視えないの?」

 男の言葉で空気が変わった。冷たくなり二の腕に鳥肌がたつ。


 恋は男に恐怖を覚えた。

「みえないって何が… 何もないじゃない。」


 恐怖に負けたくなく、発した言葉だったがひどく小さく声が震えている。

 そんな恋に気付いて、声をかけようとした男だったが、視線が移動する。


 視線先は廊下からであり、耳を傾ければクラスメイトたちが話ながら近づいているようで… 登校してきたのだろう。

 二人きりの状況から解放されると思い、鳥肌が落ちついた恋だったが、やはり目の前にいる得体の知らない男に良い印象を受けない。 男は、そんな恋の態度に悲しみを含んだ顔をしたかと思えば、急に真摯な顔になり、

恋の視線を逸らさせないようにする。


「恋。俺の名前はセンだ。…また会いに来るからその時までには思い出しといてくれよな?―――レイ様」

「え?」



 いつの間にか、男、センは音もなく消えていて恋は今ではのは、幻ではなかったのかと考えたが、


 登校してきた生徒がプリントを貸してくれと言うので貸してあげる。ちゃんと全問解かれた問題、ご丁寧に間違えたらしいところも、隣に答えを書かれていて…… 


どうやら、幻で片付けられないようだ。



 *****


夢をみた。

しかしいつもとは違う光景、シチュエーションである。

 月が輝いている。

 どこかの武家屋敷を連想させる創りの家の縁側に、私は何故だか座っている。

 着物を着ているらしくて動きやすさを追及しているのか丈は膝ぐらいであり、ズボンみたいな袴を履いていて、帯もきつくなく簡単に結ばれていた。


 何故こんな変わった格好をしているのか?

とか

 夢なのに何故意識がはっきりあるのだろう?

とか…

思うことはたくさんあるが、せっかくなのでこの世界を見てみようと、身体を立たそうとしたが………


身体が動かない。


どうやら意識はあっても身体までは動かせないようで


「――レイ様」

 左の方から若い男の声と、足音がきこえる。名を呼ばれたためにか、身体は勝手に振り向いた。

 そこに立っていたのは、黒の着物を着ていて袈裟を首から、下げている人。左手首にしているのは、透明な水晶で出来ている数珠らしきもの。髪はあるがどうやら僧らしかった。


―――恋は気付いた。


 その男の顔に、どことなく見覚えを感じてしまうのは気のせいだろうか。いや

 センだ…


 髪はセンみたいに、金に近い黄土色ではなく、黒に近い紫色であり、目は透き通る赤色である。


歳も20歳は過ぎているだろうか?整っているが、目が怖い印象を与えている。

柔らかな雰囲気を醸し出すセンとは似ていないが、何故だろう。

やはりどことなく似ているのだ。

 男は言葉を続ける。


「レイ様。何を悩んでいるんです?………また常夜(トコヨ)ですか?」


 何故か、自然と眉を潜めた。常夜という単語は初めて聞くのだが、身体がその言葉に反応した。

 その態度を見てか、センは唇を噛みしめ苦しい表情をする。そして


「レイ様!いい加減にしてください。常夜は妖でしょう?倒すべき相手なのです。」


 センは大きな声で言い、恋の肩に手をかけ、表情を見つめながら語る。

 センの必死さに恋は訳が分からなく驚いたが、

不謹慎ながらも笑みが勝手に顔に浮かんでいた。


(私はこんなに愛されているのか…)


―え!?


急に声がした。しかし、外部からの声ではなく、脳内から直接流れてくる。不思議な感じだ。


(だけど、これだけは譲れないや…)


(センが私を愛するように…私にも愛したい彼がいるから)


「セン、後をお願いね。」

 恋の口から勝手に声は出ていた。

 驚くセンをよそに恋の身体は立ち上がる。先程まで動けなかったのにその行動はスムーズに行われる。

 訳がわからないでいると急に力強く手首を捕まれ、身体が後ろに傾く。


 気付けば…


身体は抱き締められていて…


背中から体温を感じる。頬にあたるのはセンの髪でくすぐったい。


力強さがセンの気持ちに比例しているのか、必死さが伝わる。


「やめなさい」

 恋の口からまた言葉が零れる。先程とは違い、凛としていて力強い。が、センはその言葉に離すどころか、また力強く固定する。


「離さねぇ…」


 恋の口から、ため息が零れる。


 そして


「ごめんね…………把捉」「!!」


 恋の口から、小さく呟かれた謝罪の言葉と、はっきりと紡がれる術の発令。  センは、術の名を聞き、顔を上げ恋の身体から素早く離れようとしたが術の発動の方が僅かに速かった。

 センの身体は動けなくなり、身体に力が入らないため、その場に倒れしまう。 だが意地でも動かそうと悶々している。その表情は悔しいと語っていた。


 その姿に胸が締め付けられるが、足はセンに背を向け歩きだす。

(ありがとう)


 脳に聞こえる慈愛に満ちた声。

 そして背後から聞こえるのは……


「レイ様――――!」


 センの悲痛な叫び声だった。



 ふと、場面がかわる。


 背景が暗闇の空から、すべてを隠すような真っ暗な世界へ。どこかわからず歩いていたら、前方から物音が僅かに聞こえる。


 そちらに向けて歩いていると、その物音は鳴き声だと悟る。声帯からして少女らしい。

 そう思っていたら、今まで真っ暗な世界が一光り少女の姿を映し出す。今までのいた世界ではなく現代の子らしい。赤いシンプルなワンピースを着ていて、泣き顔を隠しながら泣いている。

 恋も、今までの着物ではなく、寝間着としている、七分丈の上着と、中学生の体育で使っていた小豆色のジャージのズボン姿だ。


 そして今度は自分の意思で身体が動かせた。

 少女に向かい歩を進める。泣いている少女にどうしたのか?と訊ねようとして気付くのだ。


 この少女の着ている服は白いワンピースだ。


 それが赤に染められている。


―――血によって。 



 恋は足を止めた。知っている。この少女…


 大怪我により痛みで泣いているのではなく、悲しみ、辛さで泣いているこの少女は


「お父さん、お母さん…」

紛れもなく、過去の自分なのだから



 両親を交通事故で亡くなってしまい、悲しみで毎日泣いている小さいころの自分がそこにはいて…


 痛む胸に手を押さえて恋は、少女――過去の自分に近づこうとした。


抱き締めてあげようと

少しでも安心感を与えてあげようと…


 しかし、それは叶わなかった。


 何故なら、自分より先に少女を抱き締めている第三者が登場していたからだ。


 風変わりな、日本人には珍しい色素の薄い金に近い髪の色。


 泣き止むようにあやしている声には聞き覚えがある。


「セン…」


 学校で話したほうのセンがそこにはいて、


 声に気付いた彼はこちらに振り向き目をあわせる。

 真剣な目。綺麗な青い目と戸惑いの緑色の目がかち合う。


「今日の、朝8時20分に海南高校屋上に来てくれよ。」


 そう言った彼に声をかけようとしたら、



ピピピピピピ…… 



頭上から聞こえる音により意識が覚醒した。


 *****


 時刻、8時19分。

 場所、海南高校の生徒練の屋上。



 夢なのに、夢なはずなのにここで約束を待っている自分が、とても滑稽に思える。だが、あの夢を夢で片付けるにはどうも納得がいかない。


 目線はひたすら、屋上の扉に注がれて


 後方からは、例の陸上部のリレーが始まったのか、騒がしくなっていた。

 携帯のサイドボタンを押したら、時間が表示され、[08:20]と示されている。


―――屋上の扉は開かなかった。



 やはり、夢だ。なにしてんだろう…


 小さなため息をつき、始まってはいるが、リレーを見ようと、よかっていたフェンスから体を離して、振り向いた瞬間……


「おはよう」


 フェンスに腰掛けていてこちらを見つめるのは…


「セン……」


 待ち人がそこにいたのだ。



「どうやって…」

「ん?」

「どうやって、ここに来たのよ!セン」


 恋はいままで唯一の屋上への通路である扉を見ていたのだ。 


 開けられた形式はなかったし、2メートルはあるだろうフェンスに自分の隣へ腰かけている時点で、気付いているはずだ。


 恋のもっともな質問に、センは顔を渋りながら口を開く。


 的外れな言葉を…


「センって呼ぶのやめてくれない?」

「?何を言って…」

「そーいや、ちゃんとした自己紹介まだだったね。」

 フェンスから軽々と飛び降り、恋の隣にたった彼は、照れ臭そうに言葉を言う。

「俺の名前はゼン。橘ゼン。以後お見知りおきを」

「昨日はセンって名乗ったじゃない?」


 センと名乗り、思い出せと確かに目の前の少年は言ったのだ。

 

 なんなのだろうか?この矛盾は…


「恋。センは、こいつの名前。」

 昨日みたいに左上を眺める彼につられて目線をあげると 

 昨日と同じくなにも視えない。だが…


「あ…」


 ふと、背の高い男性が視線を霞めた。黒い着物、お坊さんが着るような服を着た人が…

 瞬きすれば、また何もない空が見える。

 だが、昨日とは違う。

 なにも視えないけど、何かがいる。


 存在を認識してしまったのだ。


 恋の表情が昨日のとは違うことにゼンは気づいた。視線は、先ほどから左斜め上を捕らえている。


「わかる?」


 主語のない稚拙な言葉だが、恋にはゼンの言いたいことがわかった。首を頷くと満足気に微笑む。

 整った顔の彼が笑うと一段と美しくて、不覚にも恋はときめいた。だが、その思いを誤魔化すように恋は口を開く。


「…状況が理解できないんだけど。」


 恋の意見はもっともである。


 急に現れた少年、橘ゼン。そして、たぶんゼンの隣にいるんだろう。


――――視えないけど存在する何かが…



「え?」

 考え事をしていた恋だが急に首の周りが冷たい空気に覆われて驚きの声を出す。ゼンも同じく驚きの声を出した。


「セン。それはダメだよ。ストップ…………あ、止まれってこと!」


 まとわりつく風が遠退く。恋はすぐに自分の手を首もとに持っていく。先程のはなんだったのか…


「恋。首に何かつけてる?そう、石とか」

「つけてるけど… 水晶玉のネックレス」

 物心ついたときから肌身離さず持ち歩いている石である。今は亡き母が、この石だけはつけときなさいと耳にたこができるほど聞かされていた。


 理由を聞いても、「まだ教えるのは早いわ。」と誤魔化されていた。結局、事故のせいで一生話してもらえなくなったのだが……


 この石は、なにか特別な意味があるのだろうか?


 外すのに戸惑いを隠せない。母の言い付けを守り、今まで外さずに付けてきたのだ。


 それに、外したらなにか変わる気がする。



――――今までの生活ががらりと変わりそうな予感がして


 それに……やはり昨日会ったばかりの彼を信じてよいのかと疑ってしまう。

 だが、存在が確認できるのに視えないこと苛つきを感じていることも事実であった。


 ゼンに目を向けると彼は静かにこちらを伺っていて…


 何故だろう。夢で見たセンの目と重なる。

 センの悲痛な叫び声が脳に谺する。

 

(あんな叫び声もうさせたくないな…) 


 恋は意を決して手を首の後ろに回してネックレスを取り外す。


 そして…



「レイ様」


 そう名を呼ぶ彼の姿が今度ははっきりと視えたのだ。


 ***** 


「あれ?珍しい!」

 みさきは朝練を終え、自動販売機に来ていた。朝練が終わったあとに飲むミルクティーが大好物である。今日もリレーにて勝利を収めた自分へのご褒美に買いに来たのだが、いつもこの場所では出会わないクラスメイトに遭遇したのである。


「珍しいか?」

「珍しいよ。征一がいるなんて。しかもまだ袴姿なんて」

 征一は、朝練から着替えていないらしく弓道部の服を着ていた。


 珍しいもなにも、弓道部が使用する弓道場は、海南高校のなかでも端のほうにあり、自動販売機のある校舎側からだいぶ離れている。飲み物を買うなら、学校から出て、コンビニによるほうが近いのだ。

 そのため、今まで朝練後で遭遇することはなかったのだが…


「何かあった?」


 みさきは問うが、答えは帰ってこなくて、ミルクティーを買おうとしたら、先に自販機に立っていた征一が飲み物を買った。そして、すと差し出された。

「え?」

「どうせ、これだろう?」

 渡されたのはいつも飲んでるミルクティーの紙パック。そう確かにこれを飲もうと買いに来たのだが、何故わかったのだろう。


 みさきはお礼をいい、パックを受け取ったが、表情で何が言いたいのかわかった征一は話しだす。


「お前、いつも朝は置いてるじゃん。机に」

 ほぼ毎日置いてあるから好きなんだろう?

そういう彼も隣の自販機でアクエリアスを買って、蓋を開けて飲みはじめる。

 征一こと、鼓征一はみさき、恋と同じクラスメイトである。弓道部に所属し去年は一年生なのにインハイに出場し優勝までした強者である。

 黒髪短髪で、眉は短めだが目元がすっきりしていて整った日本男児という顔立ちである。体格も細身だろうがしっかり筋肉は着いていて…かっこよいのだ。

 性格はよく言えばクール悪く言えば無頓着。あまり深く人と接しないが、ときに見せる優しさに、――そう好みのジュースをおごってくれるとこなど 惹かれる女性は多い。


 2人無言で設置されているベンチに腰掛け、飲み物を飲んでいた。みさきは、普段なら買った品物を教室で飲むのだが、なんとなく先に腰掛けた征一を横切って行くのは嫌であり、会話でもしたかったのたが、征一がそれを許してくれない雰囲気を醸し出す。

先程から眉間に皺をよせ、屋上を眺めているからだ。

黙っていようと思ったが好奇心のほうが勝ってしまった。


「屋上になにかあるの?」

 みさきの言葉で視線を屋上から彼女に移す。みさきは、言葉を続ける。


「征一がわざわざこちらの自販機に来たのってさ、屋上に用事があったんでしょ?さっきからずっと見てるし…」

 征一はまた視線を屋上に戻して質問に答える。


「招いていないのに来訪者がきやがったんだよ。」


 あまり、感情を表に出さない彼が忌々しく答えている様子から、本当に嫌なのだろう。

 さて、質問に答えてはくれたがはっきり言って返された言葉の意味がわからないみさきである。

しかしここでまた深く質問したら余計に機嫌を損ねそうだし、はっきり言ってそこまで興味もなかった。

 依然として屋上を眺めている征一を横目に、ミルクティーを飲み終えて座っていたベンチからゴミを捨てるため立ち上がる。


「可哀想。騙されているのに…」


「?何か言った??」


 征一の小さくつぶやかれた言葉にみさきは聞き取れなかった。征一は首を横にふり「何でもない。」と答え同じく立ち上がり歩きだす。

「また後で」

「うん。ごちそうさま!」

 そう会話をすませお互い更衣室に向かう。



 征一は、足を止めもう一度、この世を彷徨う魂がいる屋上を見上げ…

「レイの遺志を無視すんなよ。」

と悪態をつくのだった。

*まずは… 読んでくださりありがとうございます(・∀・)ノ


*駄文ですが、とりあえず『出会い』が書けました。今回は人物紹介を主に書いています。木槿〜の主人公たちの容姿や性格がわかっていただければ嬉しいです。

*次は、大まかな話の流れとあと2人重要キャラをだしていないので出していきたいと思います。


*今回で1ヶ月… すいません亀更新ですがまた続きを読んでいただければ嬉しいです。ありがとうございました☆

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