#2
「それで…結局貴方はこちらの言語を理解しているの?」
天使に安全であろう場所まで連れてこられ、今一度私はその質問を受けた。
もう、勝手に一人で絶望している場合じゃない。
それはよくわかっている。彼女には助けられた恩義があることも、答える義理も申し分ないことも。
全部全部理解してる。わかってる。だけれど、感情はそんな理屈を聞いてはくれない。
「あ〜〜〜うるっさい!!!黙って放っておいてくださいよ!!私は死んだって良かったのに!勝手に動いて…ウザいんですよ!」
当たり散らすのが悪い。そんなこと百も承知している。
ただ、今までの人生で一番感情が抑制できない。
あるのは怒りと、やるせない後悔と、どうしようもない喪失感だけ。
「放っておくことは残念だけど、できない。貴方は今まで確認されなかった生命体だから。
少しでも私の役に立ちそうな場合、置いておくほうが都合がいいの。だから死なせることも同様に不可能だよ。」
その機械的でどこか見下したような物言いが、また私の癇に障った。
歯を食いしばり、手から血が出るほどグッと力を込める。
どれだけ腹を立てようが現状相手に罪はない。お門違いなことをするなと自分に言い聞かせて深く、深く深呼吸を繰り返す。
「…少し、感情的になりました。すみません。」
流石に笑顔を貼り付けることまではできないが、一応とはいえ自分を落ち着かせることができたのだから上出来だろう。
目の前の女性は顔色一つ変えずにそっけなく「そう。」と返事をするだけ。
「確認作業に戻るけど、貴方は核を持たない生命体。違う?」
本当に機械のようにそう問われて、私は爪を腕に食い込ませ自分を抑制する。
「わかりませんが、核と言われ思いつくものはありませんし、そんなもの持っていません。見えているこの服と…この、バレッタ以外何も無いです。」
淡々と述べながら、自分の小さなポケットに押し込めていた黒リボンのバレッタを取り出す。
女性はジロジロとそれらを見るだけで、なんの反応も返ってこない。
「それで、貴方は一体なんなんですか。」
深く被っていた帽子を外し、髪をハーフアップに纏め上げてバレッタを付けながら私は女性に問う。
まともに喋っていては精神が持たない。何かしながらでなければ一時の気を紛らわすことにすらならないのだ。
「地面のあの子に聞かなかったの?私もあの子も、元は一つの存在。
さっき言った核っていうのは元の私達の断片。保有する核が大きければ大きいほど完璧に…元の私達に近づくんだよ。」
そんな事が聞きたかったわけではない。
どこか話の噛み合わない会話にモヤモヤしながら小さくため息を吐く。
「そういうことじゃないんですよ。私が聞きたかったのは貴方の名前と、何故私を助けたのかということ。」
女性はチラと横を向き、少し考えるような様子で髪の先端をクルクルと弄ぶ。
「考えたことが無かった。けど、強いて言うならフィーア…とかじゃない?
助けた理由はさっき言った。貴方が今まで確認されていない生命体で、核がないなら私にとって都合がいいと踏んだの。協力して。」
細かく言うと途端に会話がトントン拍子に進んでいく。
それは、私が反応しないことを前提に進められているから。だから、こんなにも強引に進めれているだけである。
「内容によりますよ。」
細かく説明してくれた恩に報いる程度の簡単な協力内容ならやらなければならないだろう。
本人から提案してくれるのは変に恩返しするよりもずっといい方法だ。
「ただ私と共にできることをやってくれさえすればいい。私はしばらく貴方を手元に置いておきたいだけ。都合がいいなら面倒を見るし、役立たずなら切り捨てる。」
「そうですか。それぐらいなら、いいですよ。」
最悪、この世界の情報を知っているだけ吐き出させてから逃げればいい。
それが出来る手段が私にはある。…少なくとも現段階では。
だからこそ、私は気軽に返事をしてフィーアについていく覚悟を決めた。
”あの人”が同じ立場ならきっと私のように深く取り乱したりせず、会う為にどんな事だってやると思い出したから。




