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神様屋さん  作者: 朔夢礁
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落し物

朝日が薄っらと照らす室内。

障子を通して落ちる光が雅の目を覚まさせる。

「眩しっ」

両手で顔を覆い、二度寝をしようとする雅。

「客が来るから、早く起きろよ雅」

ハナの言葉にうん。と頷くも、起きる気配がない。

ハナは、苛立ち雅の頭の方へ移動し、雅の髪を噛みながら毟る。

ぶちりと音がして、毛が抜ける。

雅は、ハナを退けようと手を伸ばす。

更に毛が、抜け、雅は大きな声で叫ぶ。

「ハナさん、もう起きるから!髪はやめて」

「さっさと着替えろよ」

そう言いハナは、障子を開けたまま出て行く。

「なにも、髪を毟る事ないのに。。。」

枕元の抜けた髪を淋しそうに見つめて呟く雅。





「お前が着物なんてめずらしいな」

雅は、紺色の着流し、白と黒の帯をしていた。

「たまにはいいでしょ?」

そう言って、雅は笑いながら懐から取り出したタバコに火をつける。

「肺が汚れる」

ハナの言葉に雅は聞こえないふりをする。

室内に漂う紫煙。

「大酒飲みに、タバコ。お前、早死するぞ」

「死ぬ時は、1人だし大丈夫。迷惑はかけないよ」

ハナは、諦めた様に溜息を吐く。

「生きる事は、死ぬ事。死ぬ事は、生きる事だからね」

ハナは、ふうふうと息を吐きながら煙を吸わない様に窓辺へ上がり、窓を開ける。

「お前の婆様も言ってたな」

そう言うと、ハナは窓辺で大きくあくびをする。

「さくらちゃんもうすぐ来るかな?」

雅は呟きながら、タバコを消す。

茶葉を急須に入れ、ポットからお湯を注ぐ。

急須を優しく回しながら、お茶が2つの湯のみへと入っていく。

「ハナさん、お茶どうぞ」

窓辺で伸びをして、気怠げにゆっくりと雅の元へやって来るハナ。

湯のみに手を添え、ハナはごくりと飲む。

「朝茶はいいな」

ほっこりとした顔でハナは言う。

それを見て、雅は悪戯っぽく笑う。

「猫舌って、なんで猫なんだろうね」

「知らん。私は、猫舌じゃない」

「こんにちわー!雅さん、ハナさーん」

さくらの、元気な声が玄関からする。

入っておいでー。という間に、バタバタと近付く足音がする。

息を切らしながら、客間まで入ってくるさくら。

雅とハナに向け、両方の掌を差し出す。

12cm程の灰色の髪で、白い浄衣を着た分霊が頭を下げる。

「この度は、誠にありがとうございました」

雅は、正座をし、頭を深々と、下げて言う。

「全て、月読命様のおかげです。頭をお上げください」

「さくらから、話は聞きました。貴方のおかげでもあります」

そう言うと、さくらの掌からぴょんと降りる。

「不思議な雰囲気の家だね。拝み屋もやってるのかい?」

「拝み屋は廃業しました」

少し、淋し気な顔で話す雅。

ふーんと、言って室内をしげしげと見回す分霊。

「猫神もいて、神様の事なら何でもござれか。聞いていた通りだ」

ほう言われ、雅は自分達がどう話されているのかが、気になる。

「愛宕様、僕達の事は、どんな話しになっているので

すか?」

少しワクワクする、雅。

愛宕様の分霊は、んーと悩みながら言う。

「本当に聞きたいの?」

机にあぐらをかいて、愛宕様の分霊は、んーと悩みな

がら言う。

「独特な黒髪の優男。猫神の尻にしかれている。けど、仕事はきちんとする」

それを聞き、さくらはくすりと笑う。

ハナは、語られた言葉にうんうん、と頷く。

「それから、人間にはペテン師扱い。とかもあったな

雅は、不満げ気に、唇を尖らせて言う。

「独特な髪の優男で、ハナさんの尻に敷かれてるって、ひどい言われ様なんですけど。。。」

ハナは、それを聞いて笑いながら言う。

「全部本当の事じゃないか。優男のペテン師」

「犯罪者みたいな言い方やめてよ」

頭を項垂れながら、雅は落ち込む。

さくらは、それを見て分霊に言う。

「雅さんが可哀想だよ」

「仕事は、きちんとこなす。って、有名だよ大丈夫」

そう言ってにっこりと笑う。

「神様から頼まれた事は、きちんとこなすよ」

ぼそぼそと、話す雅。

雅の元へてこてこと歩いて行く分霊。

「だから、依頼したい事があるんだ。砂原雅」

少し悲しげな様子で顔を、上げる雅。

「神様屋さんは、何でも、きちんとこなすんだろう?」

雅ににっこりと、笑いかける分霊。

「神様屋さんは、仕事をしっかりとこなします」

よかった。と言い、分霊は話し始める。

「私の友人の雷様が太鼓のバチをどこかに落としてしまってね。探してほしいんだ」

「雷様でも、手が滑る事もあるんですね」

さくらは、少し笑いながら言う。

「目星はついてますか?」

急に外からドンドンと階段を降りる様な音がする。

外からの音は、近付いて来て、呼び鈴を鳴らす。

「依頼をお願いしたんだげんど」

叫ぶ様な大きな声。

来た。と分霊は言い、入って来いと返す。

どしどしと音がして、依頼者が入って来た。

「遅れて悪がった」

と、言いながら、新しく出された座布団にあぐらをかく。

白い肌。

緑の短パンを着用している。

ザンバラ髪から、チラリと覗く角。

ギョロリと大きな目。

口の端からも、チラリと見える牙。

背中には、勾玉の太鼓をいくつも背負う大男。

「粗茶ですがどうぞ」

「粗茶って言って、人間は粗茶だの出さねがらな」

そう言って、大男はゲラゲラと笑ってお茶を飲む。

「俺は、鳴神だ」

大男は、自己紹介をする。

「鳴神様、バチを探されているんですよね?」

「んだんだ。ちょっと前に大雨が降った日に雷も沢山大きく鳴ったべ?多分、その時だと思うんだけどよぉ」

大きく、訛った声。

「叩きすぎて、手汗で滑って落ちでったんだず」

照れくさそうに笑う鳴神。

「落とした目星は、ついてるんですか?」

んー。と悩みながら鳴神は言う。

「最近のでっけぇ建物にはよ、避雷針ってのがあってよ、それを折ってやるつもりでやってたのは、やってたんだけどよ」

「避雷針は、折れませんよ」

分霊は、冷たく言う。

鳴神は、うんうんと頷く。

「んだがら、やりたくなるんだべした」

そう言うと、ガハガハと笑う。

「その後、森の方へ行って大きな木さ落としたか、おとさなかったのかは、覚えてない」

「どんな木でした?」

雅は、地図を広げながら、鳴神に聞く。

「ほれ、広けた所にある動物に似た大きな木があるべ?」

鳴神に言われ、思い出す雅。

大きなうさぎに似た人気スポットの木。

3本の木が耳をのばし、立ち上がった様に見えるうさぎの木。

「うさぎの木ですね」

さくらは、言う。

雅は、地図を見ながら言う。

「車で1時間か」

雅は、タバコに火をつける。

「俺さもけろ」

そう言って、鳴神はタバコに手を伸ばす。

雅は、鳴神にタバコとライターを手渡す。

さすがのハナも、何も言う事はなかった。

「野椎に感謝だな、人間」

ガハガハと大きな声で笑いながら言う鳴神。

人間より、大きな手にはタバコがすごく小さく見えた。

「目星がついたなら、私は戻るよ」

そう言うと、分霊の姿が薄くなり、消える。

またね。と言う様に手を振りながら。





なるとか、鳴神を車に乗せて、うさぎの木までやって来た雅達。

「本当にウサギみたいだ」

立派にそびえ立つ大きな木々。

神聖さも感じられる。

木々以外に目立った建物や木もない原っぱ。

なんとか、車から降りた鳴神。

「人間は、不便だな。空も飛べねで」

そう言って、鳴神は笑う。

「他の人もいるので、抑えてください」

「とりあえず、探しましょう」

各々、散り散りに地面を見ながら歩く。

背丈の小さな草花を見ながら歩く姿は、変に見える。

「この前、雨の日に重い象牙みたいなのが落ちてきたらしいぜ」

「なんだよそれ。嘘くさ」

笑いながら歩く2人の男の会話を聞き、さくらは頭を上げる。

「それ、本当ですか?」

急に話しかけられ、驚く2人組みの男達。

「噂だけど、すごく重い象牙が落ちてきて、木の根元の祠に男3人で運んだらしいよ」

と、言いながら顎で木を指す男。

「そうなんですね!ありがとうございました!」

ぺこりと、頭を下げどこかへ駆けて行く少女。

「今の子可愛かったな」

そう言いながら、2人組の男達は、うさぎの木をスマホで写真を撮る。

「雅さーん、気の根元の祠にあるみたいですよー」

そう言って、雅へ駆け寄るさくら。

「鳴神さん、木の根元の祠です。行きましょう」

隣りで一緒に探していた鳴神に言い、気の根元へ急ぐ。

各々が、気の根元へ集まると、老婆が居た。

手を合わせ、一生懸命に拝むその横顔には、少し見覚えがあった。

白髪を短くボブにした髪型。

おでこのホクロ。

「清子さん」

名前を呼ばれ、ふと顔を見て雅を見る老婆。

「砂原さん所の雅君か。懐かしいね」

清子の拝む先には、象牙があった。

「拝み屋はやめたって聞いたけど」

「まぁ、別の仕事でそれをさがしてて」

少し気まずそうに話す雅。

清子は、雅の周りをしげしげと見ると言う。

「だいぶ、色々と連れて歩いてるみたいだね」

清子は、雅の祖母の拝み屋仲間だ。

「あの象牙は、雷様の物だから、悪戯に触ってはダメな物だ」

清子は、そう言うと、鳴神の元へと歩く。

「まさか生きてる内に雷様に会えるとは、思わなんだ」

そう言うと、鳴神の手を握る。

「お前も、難儀な事やってんだな」

笑いながら清子と、握手をする鳴神は言う。

「あれは、俺の物だから、返してもらってもいいべ?

そう言うと、清子の手を離し象牙の前に立つ鳴神。

「雷様の物は、雷様の物。どうぞ、お取り下さい」

鳴神に頭を下げる清子。

「んだらば返してもらうべ」

しっかりと、手に馴染むバチ。

「いがっだ。いがった。」

そう言って笑う鳴神。

急に暗くなる空。

背中の勾玉の太鼓をドンドンと、叩きながら嬉しそうに笑う。

ゴロゴロと、音を鳴らし近付く雷雲。

鳴神は、身体を伸ばしたり、屈んだり、屈伸をしたりと、動く。

ぐっと、足を広げ、両足に力を込める。

ダン、おとがして空高く飛び上がる鳴神。

「感謝。感謝」

そう言いながら、雷雲を突き抜けて鳴神の姿が見えなくなった。

それを見届けてから、清子は雅に言う。

「拝み屋の真似事やってんのかい?」

雅の足元に居る猫と少女を少しいぶかし気に見る清子。

少し緊張した様な表情で雅は、懐から名刺を取り出す。

清子に手渡された名刺。

「神様屋さん?」

「神様をお助けする仕事をしてまして」

ふーんと、清子は名刺を見ながら言う。

「ずいぶんと、おこがましい仕事だね」

神様は、万能。

人が手を出していい存在ではない。

「身の程を、知った方がいいよ」

そう言って、清子は雅達に背を向けて歩き出す。

「あの婆、色々と見えるみたいだったな」

ハナは、そう言って雅を見上げる。

「まぁ、清子さんは昔からあんな感じだから、大丈夫だよ」

さくらは、雅の手を握って言う。

「雅さんに私は、助けてもらえて嬉しかったよ」

「鳴神も感謝してたしな。気にするな」

みやびは、少し複雑そうに笑った。








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