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神様屋さん  作者: 朔夢礁
2/5

卒塔婆の群れの中に居る祖母。

俯くその顔の表情はわからない。

うっそうと茂草や木々にあまり良い雰囲気はしない。 拝み屋をしていた祖母の最後は、とても良いとはいえない。それは、祓われた同胞の仇討ちをしに集まって来るからだ。

「一種のの呪いなんだよ」

死に際の布団で祖母が小さく呟いた。

「なら、辞めちゃえばいいのに...」

赤黒く変色した祖母の身体全体の皮膚。

落窪んだ目。

冷ややかな手。

「私は、もう戻れない。雅、お前は神様をお助けするんだよ」

そう何度も、雅に言い聞かせる様に紡がれた言葉。

わかったよ。と言いながら、タバコに火をつけて灰皿に置く。

すっと、握られる手。

小指と小指との約束。

「約束だよ」

そう言って、末期の水も飲まずに祖母は逝った。

「最後くらい、口紅塗ってよ」 乾いた唇をミスを含ませたガーゼで濡らし、拭く。 高校の時にプレゼントをした、口紅を祖母の部屋のたんすから取り出す。

封の切られていない化粧品が入っていた。 ボディークリーム、ハンドクリーム、口紅、ファンデーション。 全て雅が祖母の為に渡した品物だった。

「こんなにいい物を、ありがとう。私には勿体ないのに」

そう言いたんすに毎回入れて、使うこともなかった。

何故、使ってくれないのかと聞いても、ここぞという時に使うよ。と、返される言葉。

「ここぞって、最後じゃん...」

と、涙を流しながら足にボディークリーム、かさかさの両手にはハンドクリーム、唇には口紅を乗せた。

「ばぁちゃん、化粧品にも使用期限ってあるんだよ」

それからは、通夜、葬儀、火葬と、忙殺された。

忙しい中でも、地区の人達に助けられながら、なんとか日程にこなした。

そんな中でも、拝み屋の仕事は来る。

「僕は、祖母が何をしていたかは、しらないので申し訳ありません」

そう言って返事をするしかない。

祖母との約束の為。







「淋しい、淋しい、淋しい、さくら...」

どんよりと暗い雰囲気の神社。

荒れた神社の境内の階段に座る女。

「淋しいよね。大丈夫だよ」

爛爛と輝る双眸。

どんどん廃れていけばいい。







「おい、雅、メシ出せ」

そう言われた途端に布団にダイブするハナ。

ガハッと、情けない声を上げる雅。

「毎日、毎日、荒く起こさないでよハナさん」

「お前の情けない声が、私の生きがいだからな」

ハナは、そう言うと片手で顔を洗う。

「ハナさん、重いから退いてよ」

ハナはそれに聞き、雅の手をがぶりと噛んだ。

鼻息荒くうーっと、唸る。

「淑女として扱え!バカ」

「噛まないでよ。ごめんね」

そう言いなから、ハナを抱き上げ布団から下ろす。

欠伸をしながら、布団を押し入れに片付ける。

雅は、テーブルの上に置いてあった、タバコに火をつける。

障子から降る陽の光。

部屋中に広がる紫煙と、臭い。

それを見てハナは、険しい表情になる。

「おい。また肺が汚れた」

「なら、出ていきなよ。今吸い始めたばっかりなんだから」

雅は、不満そうにハナに言う。

「早く吸って、メシだせよ」

そう言って、ハナは諦めた様に障子を開けて出て行く。

てこてこと、キッチンまで行き、俊敏な動きで冷蔵庫の上に乗り、扉を開ける。

そこから、いつも飲んでいる小さいパックの牛乳を咥えて床に着地する。

器用に爪を使って、切られ開けられる牛乳。 それを飲もうとした所で急にさくらと目が合った。

「さくら、起きてたのか」

そう言うと、キラキラした目で急に近付いて来るさくら。

「ハナさん、すごい!カッコイイです!」

「別に普通の事だ」

少し照れた様にハナは答えると、グビグビと一気に牛乳を飲み干す。

「さくらも飲むかい?」

「人様の冷蔵庫を開けるのは、ちょっと抵抗が...」

「私が取れば問題ないだろう?とっておきもあるぞ?」

「とっておき?」

まぁまぁ、待ってろ。と言う様にさくらに片手を上げ、さっきと同様に冷蔵庫へ登り、さくらを呼ぶ。

「あいつ特製の、ローストビーフだよ」

ほら。とさくらの手に牛乳パックと、真空パックに入った12cm程の肉をさくらに渡す。

「そこの棚の下にまな板と包丁があるから切って食べるぞ」

「私、ローストビーフって初めてです」

と、目を輝かせながら包丁を握るさくら。

嬉嬉と、ローストビーフを切り始めるさくら。

「薄くだぞ、でも少し厚く切るのも一興かもしれん」

盛り上がり、どんどん大きくなる声に家主も気が付く事になる。

廊下を走る音が近付いて来る。

「ローストビーフはだめー!」

僕のなのにーと大きな声で雅は、叫ぶ。

「大好物だって知ってて、わざとだよねハナさん!」

ハナは、にやりと笑いながら言う。

「特製のローストビーフは、みんなで食べた方がより美味だろう」

「でも、朝からなんて重くない?」

涙を浮かべながら雅はさくらに問う。

「私、食べたことないので、重いとか、軽いとかわからないです」

幼気な少女にそこまで言われると、何も言えない。

雅は、片手で顔を覆うと、とてもとても小さな声で言った。

「わかった...みんなで食べましょう」

昨夜セットした炊飯器のアラームが鳴った。







「いただきます」

そう言って、みんなでローストビーフ丼を食べる。

一口食べて、さくらは嬉しそうに笑う。

「みんなで食べると、美味だな」

器用に箸を使って食べるハナ。

「ハナさんわお箸上手ですね」

まぁな。と、得意げに笑うハナ。

対して、少し元気のない雅。

「雅さん、大丈夫ですか?」

「君達が美味しそうに食べてくれれば、それでいいんだよ」

と、変わらず元気のない雅。

「そういえば、私の依頼ってどうするんですか?」

箸を止めて、さくらの質問に答える雅。

「まずは、さくらちゃんのお友達の神様に話を聞きに行こうと思ってるんだ」

春には、神社に植えられたさくらを一緒に見た。

夏には、暑い。暑い。と言いながら、境内で寝そべって昼寝をした。

秋には、赤や黄色と燃えるような葉で遊んだ。

冬には、冷たいと言いながら、雪玉をぶつけて遊んだ。

たまに、母が恋しいと涙すれば、抱きしめてくれた。

とても、暖かい日々。

「早く会いたい」

そう呟いたかと思うと、さくらは急に顔半分を覆う包帯を外し始めた。

「私の瞳を見て。映っているでしょ?必然が」

そう言い、机の上に乗り雅の頬を包む。

雅の瞼の裏に広がる光景。

草の生い茂る神社。

境内の階段に座る黒い長い髪の女。

ふと、目が合った様な気になる。

赤い双眸。

ヤバイ。

そう思ったと同時に女に手を伸ばされた。

思い切りさくらから顔を、背ける。

冷や汗が止まらず、背中が、粟立つ。

「雅さん、大丈夫ですか?」

不安気に再度、雅の顔を覗き込もうとするさくら。

「ダメだ!」

強い語気でさくらを止める雅。

大丈夫か?そう言いながら、さくらと雅を交互に見るハナ。

「ごめん、さくらちゃん瞳、とじてもらえないかな」

心臓が痛い程鼓動を打つ。

落ち着け。

何度も身体に言い聞かせる。

ぺしり!と背中を叩かれ現実に戻される。

「大丈夫か!雅、何が見えた?」

机に片肘をつき、顔を手で覆う。

あいつは、ヤバイ。

「黒い長い髪。血の様に赤い目。黒い着物」

ぽつりぽつりと、呟かれた言葉。

ハナは、それを聞き2又の尻尾を太くさせながら言う。

「死神」

机から降り、顔左半分を包帯で巻きながらさくらは、疑問に思う。

「なんで死神?」

「さくらちゃんは、なんで急に僕に見せてきたの?」

「わからない。見せないといけないと、おもったからかも...」

さくらは、幼いからまだ力をコントロール出来ない。

「なんで、死神が居たの?」

「多分、さくらちゃんのお友達の神社に居るみたい」

言葉を選びながら、桜に話す。

「荒れた神社には、良くない物が集まる」

そう言うと、ハナは2又の尻尾を毛繕いし始める。

動揺を隠す様に。

「死神が来る程、廃れちゃったって事?」

悲しげな声音でいて、動揺を隠せないさくら。

「たまたま、通りすがりだったのかもしれない」

そう思いたい。

だが、さくらの必然に気が付き手を伸ばすあの様子は、異常だった。

血を思わせる双眸。 関わるなと、本能が拒絶する。

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