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第7話 未来のアトラクション、空を駆ける夢

 夕方が近づき、空にはオレンジ色の光が差し込む。

 万博会場はまだまだにぎやかで、どこからともなく音楽が流れてきた。


「ねぇミャクミャク、あれなに?」


 リリィが指さしたのは、会場の一角にそびえる、巨大な透明ドーム。

 中では小型の浮遊ポッドが宙に浮き、くるくると舞っていた。


「おお、にゃふふん! あれは“スカイ・ライド”にゃ! 空を浮かぶ未来の乗り物で、会場全体を見渡せるアトラクションにゃ!」

「空を飛ぶの!? それって、ほとんど魔法じゃん!」


 リリィの瞳がきらきらと輝いた。

 チケットをスキャンして中に入ると、二人は小さなガラス張りのポッドに案内された。

 シートに座ると、ゆっくりと宙に浮かびあがる。外の景色が一気に広がった。


「わああっ……高い……!」


 会場を一望できるその景色は、大阪の海と未来的な建築が織りなす、まるでSF映画のような光景。

 太陽の残光が展示ホールのガラスに反射し、幻想的な光に包まれていた。


「見てリリィ、あれが“未来の森”にゃ。こっちは“グリーン・パビリオン”。エコロジーの技術を集めた展示にゃ」

「ほんとだ……あそこ、木が屋根になってる! あっちは、お花の形の建物だよ!」


 風を感じながら、ポッドはゆっくりと旋回する。

 ミャクミャクが嬉しそうに足をぷらぷらさせながら言った。


「この乗り物、実は風と太陽の力で動いてるにゃ。未来のエネルギーの力で、空を飛ぶんだにゃ!」

「風と太陽……それって、わたしの森にあるものと同じ……。すごいね、自然の力でこんなことができるなんて!」


 ポッドの中には、AIの案内音声が流れていて、リリィは真剣な表情で聞き入っていた。


「このアトラクションは、2050年の都市構想を体験していただく未来型ライドです。

ご覧の通り、空中を移動するモビリティが、渋滞を解消し、環境に優しい都市を実現します」


「……ねぇ、ミャクミャク。未来って、本当にすごいんだね。でも、ちょっとだけ、不思議な気持ちになるの」

「不思議?」

「うん。人間たちは、魔法がなくてもこんなことができる。でも、森の中にいたら、こういう世界があること、ずっと知らなかったんだ」


 ミャクミャクは、リリィの手をそっと握った。


「にゃふふ。大丈夫にゃ。リリィは、魔法の世界と未来の世界、両方を知る“架け橋”になれるにゃ」

「……うんっ!」


 ポッドは再び地上へと降下していく。

 ふたりの心は、空を旅した余韻で、まだふわりと浮かんだままだった。





 太陽が西の空へと沈み、辺りがほのかに藍色に染まり始めるころ——

 万博会場には、ひとつ、またひとつと光が灯り始めた。


「わぁ……!」


 思わず息をのむリリィ。

 目の前に広がっていたのは、昼間とはまるで違う、光と色彩の万華鏡のような風景だった。


 パビリオンの壁は虹色に染まり、空にはドローンによる光のショーが舞い上がる。

 道端のLEDタイルが足元で優しく光り、歩くたびに色が変わっていく。


「これ……ぜんぶ、人間の技術なの? こんなに綺麗で、あたたかくて、まるで魔法みたい……!」

「にゃふふん。夜の会場は“未来の夢”が詰まってるにゃ。昼とはまたちがった顔を見せてくれるにゃ〜」


 ミャクミャクの顔も、ライトアップの光を受けて、カラフルに染まっていた。


 歩いていくと、大きな池のほとりに出た。

 そこには水面に映るプロジェクションマッピングが映し出され、光と音と霧が織りなす幻想的なショーが始まっていた。


「人と自然の共生——未来への願いを、この光に込めて」


 花が咲き、蝶が舞い、夜空にはオーロラが広がる。

 リリィは立ち止まったまま、目を輝かせた。


「こんなにたくさんの人が集まって、こんなに大きな夢を見てるんだね……。

なんだか、世界が少し近くなった気がする」

「そうにゃ。未来は遠いところじゃなくて、こうして“手をのばせば届く”ところにあるにゃ」


 静かに揺れる池の水面に、リリィの姿が映る。

 その横で、ミャクミャクがぽつりと言った。


「でも……そろそろ帰る時間も、考えないといけないにゃ」

「……うん」


 万博という夢の中を歩いてきた一日が、静かに終わろうとしていた。

 けれどリリィの中には、たしかな“何か”が芽生えていた。


 それは未来への希望か、別世界とのつながりか、それとも——


「もう少しだけ、この世界を見ていたいな。あと一歩だけでいいから」

「じゃあ、あと一歩だけにゃ〜。未来の灯りは、まだまだ消えないにゃ!」


 ふたりはもう一度、光の道を歩き出した。

 星が瞬く日本の空の下、エルフの少女と、不思議な公式マスコットが並んで歩く姿は、ちょっぴりファンタジーで、そして、とてもリアルだった。

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