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第6話 未来のごちそうと、知らない通貨

 バスが停まり、リリィとミャクミャクはフードコートエリアへと足を踏み入れた。

 そこには色とりどりの看板、漂う香り、世界各国の料理が所狭しと並んでいる。

 ラーメン、スパイスの香るカレー、華やかなサンドイッチ、透明なドリンク、光るスイーツ──そのどれもが見たことのない、未来の食の祭典だった。


「すごい……これが人間たちの“ごはん”……!」


 リリィの目はキラキラと輝き、お腹がグゥ〜と鳴る。


「にゃはは、お腹が未来を呼んでるにゃ!」


 ふと、リリィの視線が止まったのは、動物性食材を一切使わない“未来カレー”のお店。

 看板にはこう書かれていた。


「植物由来100%! 地球にも身体にも優しい、ヴィーガン・カレー!」

「これは……お肉も卵も使ってないの? でも、こんなにいい匂い……!」

「にゃ、最近は環境のために、植物だけでつくる料理が注目されてるにゃ。まさに未来にふさわしい食にゃ!」


 リリィは感動しながら店の前に並んだ。

 が――注文の番になったとたん、困った顔になる。


「えっと……わたし、“お金”って、持ってないの……」


 レジのスタッフが戸惑っていると、ミャクミャクが慌てて説明に入った。


「にゃふふ、安心するにゃ。リリィは特別なゲストだからにゃ! 今日は“万博エクスプレス・パス”を使うにゃ!」


 ミャクミャクがぴょこんと取り出したのは、小さなカード。

 それをレジの端末にタッチすると、音が鳴って支払いが完了した。


「わっ、魔法みたい……!」

「これは“キャッシュレス決済”っていうのにゃ。人間たちは最近、お金を出さずにカードやスマホで支払うにゃ」

「うーん……魔法じゃなくて“技術”かぁ。でも便利だね!」


 リリィは無事、植物由来のカレーを手に取り、ミャクミャクと一緒に席へ。

 スパイスの効いた香り、豆と野菜がとろりと煮込まれたルー、ふわふわのご飯――

 ひとくち口に運ぶと、ふわっと広がる優しさと力強さに、思わず目を閉じた。


「おいしい……これが、未来のごはん……!」


 隣の席では、他の国から来た観光客たちが、リリィの姿に興味津々。

 食事をきっかけに、またしても小さな交流が生まれていく。





「ごちそうさまでした……!」


 両手を合わせて笑うリリィ。お腹は満たされ、心はほっこり。

 その顔には「まだまだ知りたい」という探究心があふれていた。


「ミャクミャク、次はどこに行こうか?」

「にゃふふ、まだまだ面白いところがいっぱいにゃ! ほら、あっちの建物、“未来社会のシアター”って書いてあるにゃ」


 案内されたのは、巨大なドーム型の展示ホール。中に入ると、ホログラムや映像、香りや振動までも使った体験型の展示が次々に広がっていた。

 リリィが足を止めたのは、空中に浮かび上がる映像がくるくると回っているブース。


「2050年の都市生活をのぞいてみよう! 家具が自動で変形するリビング、太陽光だけで動く家、AIによる暮らしのアシスタント!」


 リリィの目がまんまるに。


「すごい……! 家が……喋ってる!? 椅子が勝手にお茶をいれてる!?」

「これが未来の“スマートライフ”にゃ。魔法じゃないのに、モノが勝手に動くにゃ」

「人間って、魔法がなくても、ここまで来れるんだね……」


 さらに進むと、木材でできた高層ビルの模型が展示されたブースにたどり着いた。


「木と共に生きる未来:自然と共存する都市設計」

「えっ、これ……木でできてるの? おっきいのに……!」

「最近は木を上手に加工して、鉄やコンクリートに負けない建物も作ってるにゃ。環境にも優しいのにゃ~」


 リリィは、森の中で育った自分と未来の建築のつながりを感じて、胸がじんと温かくなった。


「……なんだか、少しだけ懐かしい気持ち。森を守るために、人間たちも頑張ってるんだね」


 そのあとも、空飛ぶドローンタクシーのデモンストレーション、AIロボットによる案内体験、世界中の水をきれいにする技術など、展示のすべてが目新しくて刺激的だった。


 まるで、未来の世界と魔法の世界の境目が、ほんのすこし溶け合ったような、そんな一日。


「リリィ、どうにゃ? 未来の展示、気に入ったかにゃ?」

「うんっ、どれもこれも、すごく素敵だった! ……こんな世界があるなんて、知らなかった!」


 リリィはぎゅっと胸元に手を当てた。


「この世界と、わたしの世界が、もっと近づけたらいいな……」


 そんな想いが、ほんのりと芽生えていた。

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