第5話 万博のバスに乗って、フードコートへ
ミャクミャクに連れられて、リリィは次の目的地――フードコートへ向かうことになった。
「にゃんにゃ~、ここからは会場のバスに乗って移動するにゃ! とっても未来的でかっこいいんだにゃ~!」
「バス? 馬車じゃなくて?」
リリィは首を傾げたが、すぐにその目を見開いた。
目の前に止まっていたのは、まるで近未来の乗り物のような電気自動車のバスだった。
車体には青と緑を基調にした鮮やかなデザインが施されており、ドアの部分はまるでどこか未知の世界に繋がる扉のよう。
「これが……バス? すごくきれいで、ちょっと……魔法みたい」
「にゃふふ、それは“レベル4”の自動運転バスだにゃ! 運転手はいないけど、自分で走れるにゃ!」
バスのドアが静かに開くと、内部から柔らかなLEDの光がこぼれ出てきた。
天井にはチューブ状の光が走り、床には格子模様が施されており、どこか宇宙船の中のような雰囲気。
「わあああ……中も未来って感じ!」
リリィはきょろきょろと周囲を見回しながらバスに乗り込んだ。
車内のモニターには、外の道路や歩行者を識別する自動運転の仕組みが映し出されている。
「これが、魔法じゃなくて“技術”ってやつなんだよね……すごい……!」
「にゃー、バスに乗ったら世界が変わった気分になるって、大阪メトロの人も言ってたにゃ。だからこのデザインになったんだにゃ~!」
バスは静かに、しかしスムーズに走り始めた。
窓の外には、万博の華やかな展示や建物が流れていく。
「まるで、夢の中を走ってるみたい……」
バスが静かに発進してから少し経ったころ。
リリィは、窓の外を眺めていた視線をふと戻し、車内を見回した。
近くの席には、家族連れの日本人らしき親子、海外から来たと思われる観光客、学生服を着た少年少女、車椅子に乗った年配の方など、多様な人々が未来のバスに揺られていた。
そんな中、小さな男の子がリリィの存在に気づいて、ぽかんと見つめていた。
「ママ、あのお姉ちゃん、お耳がすごく長いよ……!」
「えっ……!」
リリィは、しまったという顔をして耳を手で隠そうとした。けれど――
「本当だね。きれいな衣装も着てるし、どこの国から来たのかな?」
その子の母親は、驚くでも怖がるでもなく、優しく微笑んだ。
「え、えっと……えっと、わたしは……遠い森の国から来たの」
「森の国? へぇ、素敵な国ね。万博のバスに乗るの、初めて?」
リリィはこくりとうなずいた。
「うん。魔法じゃないのに、こんなに静かに動いて、景色もきれいで……まるで、浮いてるみたい」
「わかるよ。私も初めて乗ったとき、ちょっとドキドキしたもん。ねえ、はるくんも、さっきお姉ちゃんと同じこと言ってたよね?」
「うんっ! ぼくも、魔法みたいって思った!」
男の子は満面の笑みでリリィに手を振った。
その後、隣に座っていた外国人の青年が、英語でリリィに話しかけてきた。
「You look amazing! Your costume— is it cosplay for the Expo?」
(「君の姿、すごく素敵だね! 万博のコスプレなの?」)
リリィはきょとんとした後、ミャクミャクに視線を送ると、ミャクミャクがぱっと通訳してくれた。
「にゃふふ、衣装を褒めてくれてるにゃ。リリィは本当に“本物”のエルフだからにゃ~!」
「ホ、ホンモノって言わないで~!」
車内はくすっとした笑いに包まれた。
「She’s really good at acting. So in-character!」
「ねえ、写真撮ってもいい?」
あっという間に、バスの中はちょっとした撮影会に。リリィは戸惑いながらも、恥ずかしそうに笑ってポーズをとった。
「みんな、優しい……未来の世界って、あったかい……」
そう思ったリリィの胸には、見知らぬ人々と心が繋がったような、小さな灯がともっていた。
ミャクミャクが、にゃふんと満足そうに笑う。
「にゃ~、これも万博の楽しさにゃ。人と人がつながって、未来がひらけるにゃ!」
バスは再び静かに進み、フードコートが見えてきた。
「さあ、次はおいしい未来のごちそうにゃ!」
「うん! 未来のごはんも、すっごく楽しみ!」
光のバスは、音もなく未来の道を走り抜け、やがてフードコートエリアへと到着する。
そこには世界中、いや、リリィにとっては世界を越えた味の冒険が待っていた。