O型
僕の血液型はO型だ。それが分かったのは数日前。妻になる人が読んでいた雑誌に目を止めて聞いてきた。大きな病気になることもなく関心がなかったけれど、言われると気にならないことはない。
献血に行くことにした。手っ取り早くと言ってしまうと、ボランティア精神に則ってない気もするが、病気でもないのに医療機関に行って血液検査を申し出るというのも、迷惑な話だろうと思ったまでで。そこで知ったのだ。採血中、自分の判明した型をそらんじて、次に親のことが浮かんだ。もう二十数年という時間の生活だ。親の性格と自分の性格、すれ違うこともあれば、口論をすることもあった。どこの家庭にでもあることだ。血液型別の性格などそれほど知らなかったが、そういえば、両親はどちらかといえばおおざっぱでもない。だから何型なんだろうか。
帰宅して夕食時、ダイニングテーブルに並んでいる親に聞いた。すると二人ともAB型だと言う。僕は献血の結果を話した。高校時代に生物の授業を受けていた。だからAB型からはO型は生まれないと知っていた。だからといっても、両親の血液型を聞いて、拾われてきた子だとか、義理の両親だとかそんなことを思わなかったし、想像さえしなかった。むしろ、慌てふためいたのは両親の方だ。「そんなはずはない」と、蜂のような様子で母子手帳を探すが見つからなかった。しまいには、子の前で、互いの結婚までの交際関係、しかも性交の様子を熱く話し始めた。不貞のないことを弁明しようとしていたのだ。嘘は言わない両親、というよりそんな話を聞かずとも僕が何か疑う心情になっていなかったのに、両親の方が潔白を主張し、結果なぜか精密検査をしようということになった。
食後、部屋でベッドに寝転んで音楽を聞いていた。ヴィヴァルディからバッハへCDを変えに立った。本棚を見た。「騎士団長殺し」を手に取った。無意識にではない。確か、元妻の妊娠は、主人公が霊的に行為に及んだ結果ではないか、そんな描写があった気がしたからだ。
妻になる人へ連絡をした。メールもラインもせず、電話をした。あっけらかんとして、精密検査の日が分かったら教えてね、と言い出した。そういえば、彼女はO型だと言っていた。
後日、血液検査をした結果が出た。僕はO型だった。両親はともにA型だった。どうして間違えていたのか、両親は気にも留めていないようで、ただただ「そうだったのか」と笑っているばかりだった。