【魔改造の5】だるまさんの後日談
わしは、だるま弁当のカラ。
この物語は、蜜柑山家の一人息子ひろしが、わしをいろいろと魔改造して面白がるという話じゃ。つまり、冒険するのは、いやさせられるのはわしじゃ。ひろしではないぞ。
ラジコンバギー、ホバークラフト、横軸縦回転翼飛行機。
うん、こうしてみるとなんだ。
わし、陸・海(ていうか池)・空と、全部これ制覇しておるではないか。
まあ、それがどうかしたのか、と言われればそれまでじゃが。
◇
で、いまわしがどこにおるかというと、ここ。ル〇バの上じゃ。
わしが上に乗っておると、蜜柑山家の飼い猫の「ゆべし」が警戒して上に乗ってこないらしい。どうやって乗っておるかというと、なに、吸盤ではりつけておるだけじゃ。
ひろしもわしを魔改造するのにようやく飽きたらしく、最近はほったらかされておる。
ようやく、わしにも弁当箱としての穏やかな余生が戻って来たかの。
ちなみにル〇バが動いていないときは、机の上で置物になっておる。
ただ、目の所の赤いLEDはいまだについたままじゃ。ひろしに言わせれば、取ると目の所の穴が、なんだか怖い感じになるのだそうじゃが。
いやあ、わしは赤いLEDの方がブキミだと思うがな。
◇
ひろしはその後、東京の大学の工学部へ進学して、卒業後は建設会社で働いておる。
とうちゃんによると、なかなか優秀な技術者になったらしいぞ。
年に一度、盆か正月のどっちかには家に帰ってくる。帰ってくると、同じ技術者同士、とうちゃんと良く仕事の話をしているようだが、わしにはもう難しくて話の中身は理解できん。
◇
さて、今年もひろしが帰って来た。あ、今年は正月のほうじゃったな。
ひろし、今年はやけに機嫌がいい。帰って来てからずっとにっこにこじゃ。東京で何かいいことでもあったんじゃろうか。
夕飯のあと、とうちゃんと飲むために買って来たらしい、なんだか高そうな酒をテーブルに置く。とうちゃん、いそいそとグラスを2つ持ってくる。つまみはするめと〇の種じゃ。とうちゃんも報告を聞くのが楽しみなようだ。だいたいの話は先に電話で聞いているようだが、こういうのはやはり、本人の口からじかに
聞かんとな。
「お父さん、僕、火星に行くことになったよ。」
なに???
ちなみにわしは今初めて聞いた。いやびっくりしたのなんのって。なんじゃそれ?
「いろんな国のいろんな技術者を集めて、火星に人が住める所をつくるんだ。僕は会社の推薦で行けることになったんだ。」
えええすごいじゃないかひろし。
「火星は遠いから、行ったら5年くらい帰ってこれなくなるけど、メールは送れるみたいだから、向こうからまめに連絡するよ。」
「そうか、すごいな。蜜柑山家からついに宇宙飛行士がでるとはなあ……。いやあ、めでたいな。がんばって来いよ。」
とうちゃん、感極まってちょっと泣きそうじゃ。
わしも、思わす赤いLEDが点滅してしまいそうじゃ。
ひろし、がんばってこいよ。
◇
それから一年くらい、ひろしはアメリカで訓練をうけた。
その訓練も終わって帰国したひろしは、実家に帰って来た。
二週間後に、いよいよ火星に行くらしい。
がんばれよ。
と、ひろしが突然机の隅からわしをとりだして、フタを開けた。
中に何か機械を取り付けておる。
どうやら、わしを目覚まし時計に改造して、火星に持ってゆくつもりらしい。そういえばひろし、朝は弱いんじゃった。
わしもつれて行ってくれるのか!やった!
うれしいぞひろし。
向こうについたら、毎朝ねちっこく起こしてやるからな。
ではとうちゃん、行ってきます。
(終)
はい、唐突ですよね。自分でもそう思います。ごめんなさい。反省してます。
でも、こうするしかなかったんです。「Indigo sunset~」に登場させちゃったんで。