【魔改造の4】だるまさんが飛んだ(2)
わしは、だるま弁当のカラ。
この物語は、蜜柑山家の一人息子ひろしが、わしをいろいろと魔改造して面白がるという話じゃ。つまり、冒険するのは、いやさせられるのはわしじゃ。ひろしではないぞ。
さて、いよいよ「横軸縦回転翼飛行機」を作る。
まず決めなければならないのは、動力をどうするか。
翼を回転させるには動力が必要じゃ。それとは別に飛行機を前に進め、翼に風を当てるためのプロペラもいる。
モーターを2つつけると、当然重くなる。電池も必要じゃ。小さな飛行機じゃから重いのはダメじゃ。ゴム動力もあるが、翼を回すのに使うと、ゴムがほどけきったとたんに回転が止まるという問題がある。できればそのまま長く回ってほしい。
なので、翼は動力なし。その代わり両はしにベアリングをつけて長く回るようにする。だったらもうプロペラもなし。翼だけ回して、紙飛行機のように手で投げればいい。
ということで、どういう飛行機にするかが決まった。
まずはサイズを決定する。ひろしが手で持って投げられる大きさということで、とりあえず翼の長さを30cmとした。横幅は6cmとした。とりあえずな。で、このサイズで回転させられる、なるたけ軽い材料をさがす。ひろしと父ちゃんでいろいろ考えたが、やはりバルサ材がいいだろうということになった。
回転する翼をささえるフレームを考える。父ちゃん、ネットで調べて「プラ棒」なるものを見つけた。切り口がH型のものまであるぞ。いろいろ取り付ける都合を考えると、平面があるこれはなかなか良い。よし。これでいく。翼の両はしのまん中にそれぞれ金具をとりつけて、それにベアリングをとりつける。ネットで調べてみるとベアリングはよりどりみどりりじゃ。意外と安い。尾翼をつける胴体もプラ棒でいく。尾翼は竹ひごに和紙を貼る昔ながらのやつで作る。
以上のアイデアをもとに、ひろしに飛行機の絵をかかせて、それを父ちゃんが図面にしてゆく。ものを作るための「設計図」というやつじゃ。夏休みの自由研究にすると決めたのじゃから、父ちゃんはあくまでも手伝いじゃ。ひろしがメインで作らなければならん。
設計図が出来たら、必要な材料とか工具をリストにしてそろえる。最近はアマ〇ンでなんでも買えてべんりじゃのう。
さて、材料がそろったら作る。ひろし、お前が作るんじゃぞ。父ちゃんは見とるだけじゃからな。
ひろし、設計図を見ながら器用に作っていく。工作はとくいじゃったなそういえば。使いなれない材料は、父ちゃんのアドバイスにしたがって加工して組み立てる。
そして、ついにできた。
では、飛ばすか。
でも、場所が問題じゃ。近くの公園は確か模型飛行機は禁止じゃった。では河原にでも…と思うたが、広い河原のある大きな川は、ちょっと近くにはないな。
そこで父ちゃん、ある場所で飛ばすことを提案する。
「所沢航空記念公園に行こう。」
この公園には、なんと飛行機を飛ばせる場所があって、100グラム以下のゴム動力飛行機ならば自由に飛ばせる。100グラムを超えると許可をとる必要がある。「横軸縦回転翼飛行機」は動力はないから問題ない。重さはどうじゃ。キッチンスケールで量ってみる。おお、わりとギリじゃが100グラム以下に収まっておる。では、いけるな。
日曜日、父ちゃんは車に「横軸縦回転翼飛行機」を載せて、朝から所沢航空記念公園へと向かった。この公園の真ん中あたりに、紙飛行機を飛ばせる広場みたいなものがあって、自転車のカゴに自作の紙飛行機やゴム動力の飛行機をたくさんのせて飛ばしにくる人が集まる。みんな堀越二郎気取りじゃ。まあだいたいじいちゃんが多いの。
ひろし、「横軸縦回転翼飛行機」を持って広場に立つ。変わった形の飛行機じゃから、まわりの人がみんなこっちを見ておる。
ひろし、回転翼のはしにつけたプーリーにタコ糸を巻き付ける。巻く方向をまちがえるなよひろし。まちがうと「揚力」が逆向きにかかるからな。巻き終わったら引いて回転翼を回す。おおそこが回るのか、みたいな顔をしてみんな見ておる。
さあ、翼を回したらすぐに飛ばさねばな。ひろし、飛行機をまっすぐに投げる。
飛んだ。
まわりの紙飛行機じいちゃんたちから、おお、と声が上がる。テスト飛行は成功じゃ。
だいぶ遠くへ飛んだぞ。ああしまった巻き尺を持ってきて測れば良かったな。
ひろしが機体を回収して戻ると、じいちゃんたちが集まってきてひろしを質問ぜめにした。
家に帰ったらレポートを書く。これがないと自由研究にならんからな。父ちゃん、ひろしがバルサ板を回転させて投げると飛ぶことを発見したところから書かせる。うん、ここ大事じゃからな。
夏休み明け、ひろしが提出した飛行機と製作レポートは、校内で賞をとったそうじゃ。よかったなひろし。
さて、この話にはもうちょっと続きがある。
父ちゃん、この試作機にはひとつ不満があった。翼が回るのでフラップがつけられないから、旋回ができないという、飛行機としてはちょっと気になる欠点がある。
そこで父ちゃん、試作2号機を設計して作り始めた。
今度は大人の本気じゃから、手かげんなしにやる。ラジコン飛行機のキットを買って、プロポとかモーターなんかを流用する。機体はゼロから設計して作る。旋回が出来ないという欠点は、回転翼を左右に分けて、プラネタリーギアを使って左右の回転の速さを変えられるようにした。そうすると、左右の揚力の大きさが変わるから、これで左右に旋回させられるというわけじゃ。
今度は動力付きで、大きさも倍くらい大きい。回転翼も胴体もアルミになった。
で、電池とモーターを入れる箱が必要になった。
「あれ使ってよ。」
ひろしがわしを指さす。
「いいのか?」
「いいよ。僕もだるまさんが飛ぶところ見たい。」
これか。これだったのかタイトルの意味は。
それからしばらくして、わしらはまた「所沢航空記念公園」にやってきた。
今度は動力付きで大きいから、飛ばすには許可が必要じゃ。父ちゃん、書類を作って公園に出して許可をもらい、ようやく飛ばせることになった。
さて、今度は父ちゃんが「横軸縦回転翼飛行機2号」を飛ばす。
紙飛行機じいちゃんたちが集まってきて、遠巻きに見ておる。
父ちゃん、電源を入れて、主翼を回す。その状態で地面に置いて、今度は推進用プロペラを回す。
飛行機は短い滑走のあと、無事に浮き上がった。周りからおお、と声が上がる。
広場の上を旋回させる。うん、旋回もうまくいくな。わしはまた赤いLEDをつけられたまま、機体の前のところにくくりつけられておる。しかしひろしの作るものとちがって安心感があるな。左右に3回ずつくらい上空を旋回して、上昇と降下も何回かためしてから降りてくる。
無事に着陸。ああ、よかったのう。こんな魔改造じゃったらわしはいくらでも付き合うてやる。
と思っていたら、車輪が小さな石につまずいてしまった。
前のめりになって、機体にとりつけられたわしの顔が地面にぶつかる。
どすん。
結局こうなるのか。
まさか父ちゃんにしてやられるとは思わなかった。
まあ、いいよ今回は。
今回だけは許してやる。
地面に顔がめりこんだままじゃが、それでもわしはわりといい気分じゃった。