【魔改造の3】だるまさんが飛んだ(1)
わしは、だるま弁当のカラ。
この物語は、蜜柑山家の一人息子ひろしが、わしをいろいろと魔改造して面白がるという話じゃ。つまり、冒険するのは、いやさせられるのはわしじゃ。ひろしではないぞ。
ひろし、細長いバルサ材の板を手に持って、父ちゃんとなにやら話している。
「見てて。」
ひろしが、バルサ材の板を横にして、板のまん中あたりを持って、腕を縦に振って回転させながら投げる。すると、板は長いほうを軸にして縦に回転しながら飛び、ゆっくりと長く飛んでゆるやかに着地した。
「おお。」
「これ面白いでしょ?」
「なるほど。回転させると、上の方は後ろに空気を送るから流速が上がって、下の方は前に空気を送るから流速が下がる。その差で揚力が生まれるのか。」
「流速」とは、まあ、風の速さのことだとおもってくれい。
「これで飛行機つくれないかな?」
ひろしの小さな発見に対して、父ちゃん、興味が出てきたようだ。
「ただ、その場で回転するだけでは揚力が出せないな。投げて、前から風が当たることではじめて揚力が生まれるから、飛行機にするには推進用のプロペラが別に必要だな。でも面白いぞこれ。」
「ほんと?」
「いっしょにに作ってみるか。」
というわけで、今回はひろしの父ちゃんも参加して、ナゾの「横軸縦回転翼飛行機」を作る。
ちなみに、ヘリコプターを同じ言い方で表現すると、「縦軸横回転翼飛行機」じゃな。
わしは飛ばずにすみそうじゃ。やった。
ただ、ちょっと不安なところがある。今回のタイトルじゃ。
「だるまさんが飛んだ」
……やっぱり、飛ばんといかんのか?もうかんべんしてくれひろし。
まずは、ひろしに原理の説明から。
「ひろし、『なんでも回転マシン』を持ってきて。あと、『大谷○平ボール』と竹ひご、ガムテープもな。」
説明しよう。
「なんでも回転マシン」というのは、ひろしが以前作ったおもちゃで、台から出ている棒に丸い板が固定してあり、板にはまたせんたくばさみが固定してあって、それにいろんなものを挟んで回せるようになっている。ひろしはこれにボールペンとかせんべいとか父ちゃんの穴の開いた古い免許証とか、いろんなものをはさんでは回して、一人でゲラゲラ笑っておった。全く、小学四年生の笑いのツボはわしにはさっぱりわからん。ちなみにこれ、速さが2段階に変えられるようになっておる。3日であきたが。
あと、「大谷〇平ボール」な。これは何のことはない。発泡スチロールでできたソフトボールくらいの球じゃ。これに回転をかけて投げると、カーブとかシュートとか面白いように曲がる。ふつうに投げてもフヨフヨとゆれる。むしろふつうのストレートが無理。ひろしはこれを作る時、大きな発泡スチロールのかたまりを家のへいにこすりつけてけずって作ろうとしたので、父ちゃんがあわててやめさせた。仕方なく自分の部屋でカッターナイフを使って作っておったが、静電気でけずりりカスが服に大量についてしまい、後片付けが大変じゃった。まあそれはどうでもいい。これは4日であきた。
父ちゃん、「なんでも回転マシン」に竹ひごを固定して、竹ひごの先に「大谷〇平ボール」をつきさす。そしてスイッチを入れて回す。特に何も起こらない。
ところが、前から扇風機の風を当てると、ボールをさした竹ひごが回転する方向にかたむく。
「大谷〇平ボールを投げると曲がるのは、回転するボールに風が当たると、回転する方向の風の速さが速くなる。するとそっち側の「『圧力』が小さくなって、そっちに引っぱられる。これが『揚力』という力だよ。」
うーん。むつかしいな。
次に、一度竹ひごをはずして、父ちゃんが持っておった小さな長四角のプラ板をとりつける。父ちゃんなんでプラ板なんか持っておる?で、板のはばの丁度真ん中になるように注意しながら、竹ひごをガムテープで貼り付ける。
そして、これも回す。特に何も起こらない。
ところが、前から扇風機の風を当てると、ボールと同じようにやっぱり回転する方向にかたむく。
「プラ板でもおんなじことだ。ひろしが投げたバルサ板が遠くまで飛ぶのは、この『揚力』で上に引っ張られるからだよ。」
「へーすごい。」
「だから、板を回すだけでは飛ばない。前から風がふいていないといけない。ということは、前に進めるためのプロペラが別に必要だ。」
「なるほど。わかった!」
……本当にわかったのか?
父ちゃん、どうもこれをひろしの夏休みの自由研究にさせるつもりのようだ。だから作るのはひろしじゃ。そのひろしが原理をわかっておらねば、これは父ちゃんの工作になってしまうからな。
ちょっと長くなってきたので、次回に続く。
次回、「横軸縦回転翼飛行機」づくり開始。