【魔改造の2】だるまさんが浮かんだ。
わしは、だるま弁当のカラ。
この物語は、蜜柑山家の一人息子ひろしが、わしをいろいろと魔改造して面白がるという話じゃ。つまり、冒険するのは、いやさせられるのはわしじゃ。ひろしではないぞ。
「あなたが落としたのは、この金のタイヤですか、それともこの銀のタイヤですか?」
秋晴れの空をながめながら公園の池にうかんでいるわしに、こんなたわけたことを言うのはだれだ。
「どっちでもないわい。わしが落としたのは黒いゴムタイヤじゃ。」
「あなたは正直なだるまですね。では、あなたにはこの金と銀とゴムの全てのタイヤを差し上げましょう。」
「いらんいらん。金のタイヤなんか取り付けられたら、ガタガタゆれてわしはこわれてしまうわい。」
……………
はっ。
ゆめを見ておった。
だが、秋晴れの空だけはゆめではないようじゃ。わしは今例の公園の池の水面にうかんでおる。ひろしがラジコンバギーを池のふちの石にぶつけて、わしはそのまま池にダイブさせられたのだ。おかげでシャシーはバラバラになり、プラ板のゲタははずれて飛んだ。重いシャシーはしずんで、わしはプラ板のゲタといっしょに、こうして池の水面にういて、秋の空をながめておる。
あーあ、どうするんじゃ父ちゃんのラジコンバギー。けっこう高かったと思うぞあれ。
そのうちに、虫取りアミがわしの方へのびてきた。これでわしをすくうつもりか。気をつけろよひろし。池に落ちると大変なことになるからな。
池からなんとすくわれたわしは、リュックに入れられて、ひろしといっしょに家に帰るする。ひろし、観念して父ちゃんにおこられて来い。
だが、これくらいでおとなしくなるひろしではない。
「ホバークラフトを作る。」
今、なんと言った?
ひろしは、手に発泡スチロールの小さな箱をもっておる。これに船をうかすプロペラと前に進めるプロペラを2つずつつけて、ホバークラフトにしてしまうつもりらしい。今回はわしの出番はなさそうじゃな。良かった。
発泡スチロールの箱をひっくり返して、底のところにに2つ丸い穴を開ける。そして、その穴に、船をうかすためのプロペラをつけたモーター下向きに取り付ける。モーターは穴のまん中に取り付けることになるから、取り付け方にちと工夫がいるぞ。ひろしはペットボトルの底の部分を使ってうまくとりつけた。なかなかやるではないか。
で、船を前に進めるプロペラはどうするか。ひろしは箱の後ろのはしに、プラ板でコの字のステーを作ってとりつけた。前の方を少しななめにカットすると、飛行機の垂直尾翼みたいでかっこいいではないか。で、電池は箱のまん中の左右に置いた。今回はラジコンではないので、走らせたあと回収できるように、細くて長いひもをとりつけた。
さて、わかる人にはもうわかるじゃろうが、このホバークラフトには、大きな欠点が2つある。
ひとつは発泡スチロールの船体じゃ。このままだと、わずかな波でも水面との間にすきまができてしまい、せっかくプロペラで船体のなかに送り込んだ空気がもれてしまう。
もうひとつは、後ろのはしとりつけた、船を前に進めるためのプロペラ。モーターと合わせるとけっこう重いので、船体が後ろにかしいでしまう。で、前の方がういて、やっぱり下から空気がもれることになる。
父ちゃんに相談しろひろし。父ちゃんはああ見えてエンジニアじゃ。
「お父さん、ホバークラフトがうまく進まないんだけど。」
父ちゃん、もちろんひと目でこの船の欠点を見ぬいた。
「いいかひろし。ホバークラフトは船体の中に送りこんだ空気の圧力で浮くんだ。だから、水面と船体の間から、できるだけ空気がもれないようにしないといけない。ひろしのホバークラフトには、スカートがついてないだろ?」
「スカートって、女がはくあれか?」
「ひろし言い方。いやちがうけど、形がにてるからそうよぶんだよ。ビニール袋を10センチくらいの幅に切って、発泡スチロールの箱のふちに、ぐるっと一周、すきまなくはりつけてごらん。そうすると波が来ても空気がもれにくくなる。」
「うん、さっそく作る!」ひろしはさっそく自分の部屋にもどろうとする。
「まてまて。もう一つやることがあるぞ。」
「ひろしの船は、船を前に進めるプロペラが後ろのはしについてるだろう?それだと水にうかべた時、後がしずんで前がういてしまう。そうすると前の方からまた空気がもれてしまうぞ。」
「どうしたらいいの?」
「プロペラを船のまん中にとりつけてごらん。」
「えーかっこ悪いよ。どっちが前かわかんなくなるじゃん。」
「じゃあ、前の方には運転席をつけてみたらどうだ?ただし重たいのはだめだぞ。つけても真ん中が一番重くなるように、何か軽いものを考えてごらん。」
「うんわかった。ありがとうお父さん。」
何か思いついたようじゃな。
部屋にもどったひろし、いきなりわしをつかんで、船の前の方においた。
おい?
「軽いもの!」
わしかーい!
だが、まっすぐに立てると何ともかっこ悪いし、それなりの重さにもなる。そこでひろしは、フタだけをつけることにした。それも、推進用プロペラの取り付けステーにななめに立てかけるようにしてとりつけた。もちろん目の赤いLEDは光らせるが。
うん、たしかに前後の区別はつくようになった。かっこうは、まあなんとか様にはなった。
でも、わしはまた走らされるのか。今度は大丈夫じゃろうな?
さて次の日、試作2号の進水式じゃ。
プロペラのスイッチを入れ、わしの目のLEDもスイッチを入れて、公園の池にうかべる。
今度はちゃんとうき上がった。そして、前に進む。
大成功じゃ。
赤い目をチカチカさせながら、何やら恐ろしげでこっけいなホバークラフトが走る。
走る。
走る……
そろそろ池のはしに着くんじゃが……
「回収用のヒモ、つけ忘れてたー。」
なんじゃとおおー………。
どーん。
……………
「あなたが落としたのは、この金のプロペラですか、それともこの銀のプロペラですか?」
秋晴れの空をながめながら公園の池にうかんでいるわしに、こんなたわけたことを言うのはだれだ。




