【魔改造の1】だるまさんが走った。
わしは、だるま弁当のカラ。
この物語は、蜜柑山家の一人息子ひろしが、わしをいろいろと魔改造して面白がるという話じゃ。つまり、冒険するのは、いやさせられるのはわしじゃ。ひろしではないぞ。
「お父さん、これいらなかったらちょうだい。」
「どれだ?」
「あの赤いだるま弁当のカラ。」
「いいぞ。」
「ありがと。」
蜜柑山家の一人息子、ひろしが、わしを持って行こうとする。何をする気じゃ。
「待てひろし。中身は置いていけ。」
「ばれたか。」
ひろしのお父さんは、わしを貯金箱がわりにしてこっそり500円玉貯金をしておった。これを持っていかれてはたまらんだろう。多分じゃが、2万円はこえていると思うな。
「何に使うの?」
「ひみつ。」
ひろしが中身ぬきのわしを持って自分の部屋へ籠る。何をする気じゃ。ベッドの下の段ボール箱を取り出して開ける。中にはこの間ひろしがこわした父ちゃんのラジコンバギーが入っている。こわしたと言っても、ペナペナのボディがわれただけで中身は無事。あーあ、この時点で、わしはひろしになにをされるわかってしまった。
わしをボディ代わりにするつもりだ。
まあ、今さらいらん気もするが、いちおうわしの自己紹介をしておこう。
わしは高崎名物のだるま弁当の弁当箱。中身はとっくに食べてしまったカラじゃ。
赤くてだるまの形をしておる。プラスチックでできておる。口のところには細長い穴が開けてあって、食べおわったら貯金箱とし使えるようになっておるのだが、本当にこういう使い方をしておるのは、蜜柑山家のこの父ちゃんくらいではないか。
さて、ひろしがラジコンバギーから、われてしまったボディをはずす。そしてボディをはずしたシャシーにわしをあてがって、まずは、そのままかぶせられるかどうか、たしかめてしておるようじゃが。
うん、だめか。色々と当たってしまうようじゃな。さてどうする。
ひろし、つくえの引き出しからおもむろにプラ板を取り出した。シャシーに定規を当てて長さを測り、それをもとにプラ板にえんぴつで線をかく。線をかいたら大きなカッターナイフで切って、折り目に軽くカッターで切れ目を入れてから折り曲げる。折り曲げた角には細い角材をうらから貼る。コの字の形の何かができた。そうか、これをゲタにしてボディの代わりにとりつけて、そのうえにわしを固定する気じゃな。
ひろしはわしの本体の方の(フタじゃないほうの)下に穴を開ける。
え?縦でいくのか?だいじょうぶか?
プラ板のゲタにも穴を開けて、ネジで留める。
ラジコンバギーの上に、赤いだるまが立っておる(いや、すわっておるのか)。
自分で言うのも何だが、不気味じゃ。
ひろし、またネジをはずすと、今度はわしのフタの方(顔があるほうな)を持って、キリを取り出し、目のところに当てる。
いやいやいや目はやめろやめてやめてこわいこわい。
わしの目のところに穴を開け、細いヤスリでひろげた。両目のとこに小さな穴が開いた。
ひろし、今度はLEDの豆ランプを取り出す。穴のサイズをたしかめると、うらからボンドでとりつけた。
電池につないでみる。赤く光った。
こんどはこれにバイメタルスイッチをつなぐ。するとついたり消えたりするようになった。
「ははは、キモいキモい。何これ。」
いやお前がやったんだろうが。
さて、配線をして電池につなぎ、わしの本体のほうに両面テープではりつけると、ふたをとじて、またネジでプラ板のゲタにとりつける。LEDのスイッチは外側に出してゲタにとりつけた。
「シェイクダウンだあ。」
何じゃと?さっそく遊ぶ気か。
どこで?
「公園行ってくる。」
「おう、気をつけてな。」
公園か。公園ならまあいいか。
でも砂場だけはやめとけ。小さい子が遊んでるかも知れんしな。
リュックにわしを入れて自転車で公園へと急ぐ。
公園に着いた。わしを取り出して、地面の上に置いた。
LEDのスイッチを入れる。自分で言うのも何だが、ブキミじゃ。
さて走り出す。
地面の上は平らなように見えて、けっこう小さなでこぼこがある。だがバギーじゃからタイヤは大きい。何とかうまく走る。赤い目をチカチカさせながら走るわしを指さして、ひろしが大笑いしておる。
じゃが、ひとつ心配なことがある。わしをプラ板のゲタにとりつけておるのは1本のネジだけ。しかもタテにとりつけておるから重心が高い。果たしてカーブを無事に曲がり切れるか?
ひろし、スピードを落とさずにいきなりハンドルを切った。
曲がった。
シャシーだけな。わしとゲタをつないでおるネジがとれて、わしは地面に落ちて転がった。
「やっぱだめかー。」
やっぱ、ってどういうことだひろし。お前もやっぱりこうなると思っておったのか。だったらそうならんようにしてから走らせてくれ。たのむ。
「よし。取り付け方を変えよう。」
ひろし、今度はわしをねかせてとりつけることにしたらしい。工具一式を持ってきていたひろしは、わしの本体のほうに小さな穴を4か所あけた。そして、結束バンドをその穴に2本通して、わしをねかせたかっこうでシャシーにくくりつけた。うむ、これなら大丈夫じゃろう。
「シェイクダウンだあ。」
ひろしがまたわしを走らせる。安定感がさっきとは全然ちがう。急ハンドルを切られてもこれなら平気じゃ。だが…。
こわい。進行方向が見えない。見えるのは空だけじゃ。
そもそもコントローラーをにぎっているのはひろしじゃから、わしは行く先を決められん。どこへ行くかもわからんし、しかも前が見えんから、空だけを見ながら走る、いや走らされる。
これはこわいぞ。
やめてやめてもういいじゃろもう帰ろうひろしこわいこわい。
それからひろしは、わしを指さしてゲラゲラ笑いながら、しっかり夕方までわしを走らせて遊んだのじゃった。