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国光のお調子者

癒奈達がソメリカへ向かって家を出た日の午後8時頃、竹取家の玄関扉がゆっくりと音を立てずに開く。

扉の奥の暗闇からゆっくりと顔だけが出てくると、玄関先の共用部を右、左と見回しながら、そっと外へ出た。


(結局帰って来なかったな。本当に行ったのか?信じらんねぇ、あんだけ言っても向かうなんて。)


危険な目に合わせないために、あきらめさせる為に全力で正論をぶつけたつもりだったが、癒奈達は一切引かず、それどころか自分以外のメンバーで本当にソメリカに向かってしまうという結果となってしまう。

しかし、幸はその結果に不思議と悔しさや後悔はない。

心のどこかで、こうなることは理解していたからだ。


「ハハ、でも俺も人の事言えないか。」


すこし笑みを浮かべると、大きなリュックに生活道具一式と木製のバットを差して、幸は国光山脈へと向かう。

国光山脈は、和光国の百名山と呼ばれるほど美しい山脈であり、その光景を良く眺められる国光神宮というものも近くに存在する場所。

ちなみに、国光神宮は世界遺産にも登録されてるほどに美しく整備された立派なものだった。


幸の自宅から国光山脈辺りまで、電車と新幹線を乗り継ぎしなければならない。およそ3時間ほどかけて向かう、まるでプチ旅行だ。

新幹線の指定席に座った幸は、駅弁を口に頬張りながら地図を開く。


「国光山脈遠いな。待ち合わせは国光神宮だったか?このルートで向かった方が早そうだ。」


出発前、幸の電話に倉持神子から再度連絡が来ていた。

内容は、国光山脈に直接向かうのではなく、国光神宮で待ち合わせをしようというものだった。

理由については詳しく聞いていなかったが、なにやら儀式?かなにかを入山前にしなければならないらしい。

こんなときに儀式?と疑問を抱いた幸だったが、とりあえず指示に従うことにした。


出発から2時間が経過した頃、窓を覗くと一面には大自然が広がっており、遠くの方に美しく壮大な建物が立っている。


「とうとう見えたな。あれが国光神宮とーー」


美しい建物の背後には、物凄い大きく、雲を優に貫くほどの美しい山々がある。

そして、その山脈全体からは、非現実的な現象、発光現象が点滅する形で行われていた。


「国光…山脈」


謎の発光を続ける美しい国光山脈を見続けながら、幸は神宮へと向かった。

国光神宮は、山脈前の小さな山を開発して建てられており、神宮までは1000段の階段を上っていかなければならない。

神宮前駅で降りた幸は、その階段を見て絶句する。


「今からこれ、上るのか…!?」


先の見えない階段を前に立ち尽くしていると、通りがかったおじいさんが話しかけてきた。


「あんちゃん、ここらの人じゃないな?こんな時間からここを登っていくんかい?」


「え…?あ、はい。ちょっと用事があって…。」


おじいさんは国光山脈付近の村に住んでいる地元の方のようだ。

フラットな格好で犬を散歩している。


「あんちゃん、悪いことは言わん。今日はやめといた方がええよ。この山は灯りひとつない、こんな夜中に行くような場所じゃないよ。それになーー」


「…?」


「ここは……夜中になると"出る"っちゅう話だ…。地元じゃ有名な話でな…。」


国光神宮へと登る階段には、夜中に幼い子供の泣き声や火の玉が現れるという噂がある。

地元ではかなり有名な話らしく、おじいさん達地元民は夜中には近づかないようにしているらしい。

幸は聞いた話にすこし鳥肌を立てつつも、それでも登るという意思をおじいさんに伝える。

すると、「そうかい、せいぜい気を付けな。」とおじいさんはその場を後にしたのだった。


幸はそのまま息を深く吸い込み、一歩一歩階段を進み始める。

階段辺りは街頭ひとつなく、どこを見渡しても漆黒の世界。

感じるのは、虫の鳴き声と風に揺られて鳴る木々と葉っぱの擦れる音のみだ。

しばらく歩き続けると、すこし妙な事に気付く。

自分の歩幅に合わせて、何者かが歩いている音が聞こえてくるのだ。


ガサ…ガサ…ガサ


その音は自分が止まると必ず止まる。そして、良く耳を澄ましてみると女性の笑い声のようなクスクス声が近くからすごく小さく聞こえてきた。

何かに付けられている?不審者?まさか幽霊?

想像すればするほどに、全身に鳥肌が止まらない。

こんな暗闇の山中に、明かりも付けない女性がいるのか?

そんなもの絶対にいないし、居たとしたら普通なやつじゃない。異常者だ。

幸はゆっくりと肩に差したバットを持ち、構える。

そして、念のために両ポケットに忍ばせておいてた暴水もいつでも使えるようにした。


「おい!!さっきからおちょくってんのか!?居るのわかってるんだからな!出てこい!!」


幸はその場で立ち尽くしながら、辺りを見回す。


クスクス…

クスクス…クスクス


笑い声は、森全体から聞こえてくるような感覚だ。

次第にその声は近づいてくると、幸の周囲を取り囲むように聞こえはじめる。

なにも姿形も見えないのにもかかわらず、声だけが聞こえてくる事が気色が悪く、バットを四方八方に振りかざした。


「こんのやろう!!くらえ!!おら!!悪霊退散!!」


しばらくそのようなことをやっていると、クスクス声から突然笑いながら話す声に変わる。


「ガガガ…あの人間なにしてるガ?」


「クスクス♪…頭悪そうだキュ!おにいとアッチを怖がってるキュ~!」


幸はまるで耳元で囁かれているのかと思うくらいの近さから聞こえる変な声に、煩わしさを感じる。

さらに激しくバットを振り回すと、突然に声もなにも聞こえなくなった。


「はぁ…はぁ…なんなんだよ…気色悪い…。祓ったか?」


安堵していたのもつかの間、目の前の草むらからガサガサと何かが出てくる音が聞こえてきた。

油断していた幸だったが、音が聞こえた瞬間に思いっきりバットを頭の上に振り上げると、草むらからビキニを着た謎の女性が現れた。


「……ッ!……アァ!?」


「ウフフン♪あなた可愛いキュゥ~♡アッチと一緒に遊ぶキュゥ~♡」


その女性は美しく、幸を誘うようなポーズを取りながら幸に近づいてくる。

突然の意味のわからない光景に口がポカンと開いて動かない。

その瞬間に背後からバットを盗み取られてしまった。


「…なっ!?誰だ!?」


「ガガガ…化かされてやーんの!これは貰うガ!人間は愚かガー!」


幸の持っていたバットを後ろで持っていたのは、小太りなタヌキだった。

両足で立って人間の言葉を話しているタヌキに、バットを取られた危機感から思わず1つ暴水を手に取る。

シャカシャカと思いっきり上下に降って今にも爆発しそうな暴水をタヌキに構えると、即座に発射した。


「喰らえやあああ!!」


「なんだ?!なにを…!?ウボッ…!ガガ…ゴボゴボゴボッッ!なん…ッ!ガ…!!いぎが…ッ!!」


物凄い勢いで発射される暴水に、タヌキはなす術がなく、勢いで背後の木に叩きつけられながら、真正面から暴水をからだ全体に喰らい続けた。


「………にん…げん…ごあ…い…」


暴水の中身が全て炸裂すると、その場にタヌキは倒れた。

その姿をみて、先ほどまでグラマラスな女性の姿をしていた何かは、煙と共におかっぱ頭に三つ編みのお下げを両耳から下げた和服の女の子へと変貌する。

その少女の頭とおしりには動物らしき耳と尻尾が生えており、まるでキツネのような姿だった。


「おにい!!おにいいぃい!!」


「目が…あがねぇガ…動けねぇ…おなかも何だか膨れちまって……もう、ダメ…ガ…」


タヌキの方も、煙と共に坊主で小太りな少年へと変わる。

2人を見つめる幸は、ゆっくりとバットを取ると静かに2人から後退する。

変なやつらに絡んでしまっては、時間の無駄だとわかっているからだ。

そのままその場を離れようとすると、キツネ少女は幸を制止する。


「待つキュ!!人間!!おにいを助けるキュ!!」


「はぁ!?なんで俺が!お前らの自業自得だろうが!?」


助けるつもりはなかった幸は、そのまま行こうとすると、キツネの少女はまた変化を始め、とてつもなく大きな鎧の魔物のような姿へと変貌する。


「い…!?ちょっ!?嘘だろ!?」


「助けるキュウ!!助けないと痛い目みるキュウ!!!」


キツネ少女(?)は、幸の身体の10倍はあろう拳を幸に振りかざそうとする。

幸もバットを構えるが、もし拳がまともに被弾してしまえば一溜りもないだろう。

覚悟を決め、迎え撃とうとすると、倒れていたタヌキがキツネ少女を止める。


「や、やめるガ…。おいら達の負けガ…。人間、助けて…くれたら…お前の行きたい場所へと…案内するガ…。」


おなかがさらに膨らみ始めていたタヌキは、息苦しそうに呟く。


「………」


「神宮は、おいら達がいないと入れねぇガ…。カギが必要ガ…どうするガ…」


「………………」


「……くそっ!分かったよ。ただ、嘘だけはつくなよ?」


幸はタヌキの今にも破裂しそうなお腹を思い切り何度も押して、空気を押し出してあげるのだった。


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