新たな旅立ち
幸と決裂した後、癒菜たちは石作に連絡を取り、幸の家に来てもらっていた。
石作も傷は完治していないようで、至るところに包帯が巻かれている状態だ。
足を引きずりながらリビングまで歩いて行き、座ると、申し訳なさそうに癒菜はメモ帳を見せた。
【石作君…。無事でよかった。でも、酷い傷ね…わざわざ呼び出してごめんね…。】
先ほどからずっと無理して喋っていた癒菜は、現在、猛烈な喉の痛みに襲われており、ガラガラの声すら出せない状態になってしまっていた。
そのため、仕方なくメモに書いて石作に見せた。
「構わない。というか喋れないのか?夢坂の方も酷い状態じゃねーか。人の事言えないぞ。」
石作は自身を心配する癒菜の喋れないという状態と顔色が悪いことを、逆に心配していた。
【あはは…。確かにね。あなたの言う通りかも。】
癒菜は苦笑いを浮かべるしかなかった。
それから、石作は癒菜に自分を呼び出した理由を訪ねた。
喋れない癒菜の代わりに紫が、ノノカを助けるために協力してほしいと伝えると、石作は険しい顔で腕を組み考え込んだ。
これまでの石作なら、ノノカのために命を懸けて協力してくれただろう。
しかし、今回の石作の態度はこれまでとは明らかに違ったのだ。
「…………。」
「えっと…石作さん…?」
「紫様、すいません。今回は…その…諦めて欲しいです。」
石作は、考えた後に頭を下げて諦めるように懇願する。
その目は、決して諦めた人間の目ではなかったが、何かをこらえるように悔しさをにじませながらも深くお願いをしたのだ。
幸に続いて石作までもが、このような姿勢を取ることに、癒菜は現実が信じられなかった。
「どう…じで…。」
「…竹取も言っただろ。夢坂、お前の気持ちもよくわかる。しかし、現実…現時点では、どう足掻いても救出は不可能だろう。ノノカ様のあの"猫"の強さは相当だった。あれでも勝てない奴らがわんさかいる。軍も本国では更に控えてるだろう。」
「なんの策もなしに、奴らに勝てるとは到底思えない。捕えられて投獄されるのが目に見えてるんだ。第一に、ソメリカまでどうやって行くのか。向こうでどう過ごすのか。資金はどうするのか。どれも不可能に思える。あまりにも無謀だ。」
石作からも現実が突きつけられ、癒菜の心は折れかかりそうになる。現実を見れば見る程ノノカの姿が遠ざかっていくのが感じられた。
そんなとき、割って入るように紫が、ノノカとの最後の瞬間を語り始めた。
「2人とも聞いてほしい。私が、最後にお姉ちゃんと一緒に居た時に、実はお姉ちゃんが私にお姉ちゃんの立てた作戦を教えてくれて、自分から捕まったの。」
「作戦…?」
それは、紫だけが知っているノノカの最後の瞬間だった。
「お姉ちゃんと私は、最後にお姉ちゃんが乗ってきた宇宙船に向かって逃げていったの。そして、そこでお姉ちゃんは船から自分の星にいるお兄さんに連絡して、助けて貰おうとしてた。」
「だけど、結局船にも大勢の兵士達が居て、どうにもならない状況になったのね。絶体絶命を悟ったんだけど、そこでお姉ちゃんは、私に『状況を変えられる作戦がある』と伝えてくれた。」
「でも作戦の内容は教えてくれなかった。もしかしたら、重傷の皆を助ける為にわざと、私にそう言って敵に捕まったのかもしれない。だけどね、お姉ちゃん言ってたの。「必ずまた帰ってきます」って。みんなを絶対に助けるって言ってたの。」
「だからね、私は無力かもしれないけど、少しでも力になりたい。お姉ちゃんは今もきっと1人で戦ってるから。」
紫は自身の拳を強く握りしめ、二人を力強く見つめる。
紫の覚悟に、石作は唇を震わせながらうつむいた。
「ノノカ様…………。」
ふとノノカの名前を呟くと、うつむいたまま床を悔しさを込めて思い切り何度も叩く。
「クソッ!!なんで!俺はッ!!こんなに無力なんだよ!!チクッッショウ…!!ノノカ様を救うのが俺の役目なのにッ!!」
バンッ!!バンッッ!!バンッ!!
石作の拳は、徐々に血で染まっていった。
しかし、それでも尚やめようとしなかった為、癒菜と紫は石作の手を止めた。
「ハァ…ハァ…紫…様……」
「…?」
「すみません…でした。俺の命、やはりノノカ様を守る為にあります。だから…協力します。必ず救い出しましょう。」
石作の目が変わる。
先ほどまでの諦めた目は、力強さを取り戻し、なにがなんでもノノカを助けるという強い覚悟へと変わった。
「さすがね!一緒に助けよう!じゃあ、ママ。早速作戦会議する?」
それから約1時間、三人で意見を出しあい、ある程度形となったノノカ救出作戦はすぐに実行に移されることとなる。
紫以外の二人は、作戦が決まるとそれぞれ支度をして玄関へ行き、靴を履いた。
紫も仕度をすませると、2人の元へ行こうとするが出発前、幸に行くことだけ伝えにいく事にする。
幸の部屋の前に着くと、なにやら誰かと話している声が聞こえてきた。
「ーー・ーーーー。ーーーー・ー・ー。」
(パパ…?誰かと電話してる…?)
話している内容は聞こえなかったが、紫が部屋をノックすると、幸の会話はピタッと止まった。
「パパ!私…行ってくるよ。」
「………」
「待っててね、お姉ちゃんは必ず助けるから。」
「…」
幸から言葉が返されることはなかった。
それから、3人はネンネのお墓に手を合わせると、ソメリカ合衆国に向かうために、ある場所へと赴くのであった。




