任務完了
ノノカの母船周囲には、各部隊の兵士達が厳戒態勢で警備を行っていた。
現在は母船から出る特殊なバリアにて調査が難航しているものの、今作戦においての重大な成果の1つとも言えるのは、宇宙船の回収である。
この船を他者に奪われる訳にはいかない為、軍は昼夜を問わず警備を怠らなかった。
そんな中、持ち場にいた兵士二名が警備の合間に今回の作戦について語り合っていた。
「はぁ…。つまらねぇな。なぁ、クレアミン。俺らも前線に行きたいよな?」
「ははっ。アルビートは相変わらず脳筋だね。こんな警備任務じゃ物足りないんでしょ?」
母船警備を担当することになった新兵、クレアミン・フロットとアルビート・ロンドは別の戦地から急遽招集されていた。
彼らは新兵の中でも選りすぐりの実力者で、将来のNACCU加入が期待されるエリートだ。
そんな緊急招集された彼らに与えられた任務は警備だった。激戦地を生き抜いてきた2人には余りにも退屈な任務となる。
「暇だ、暇だ、暇だー!くそっ、ドランの激戦地へ行きたいぜ!!俺にとっては戦いこそが全てだ。こんな退屈な場所じゃ腕が鈍るってーの。」
「ちょ、アルビート!声でかいってば!」
「おい!そこの新兵二人!私語は慎め!まだ作戦中だぞ!任務を怠るな!」
怠惰な態度を取りながら大声をあげるアルビートとその隣で警備を続けていたクレアミンは隊長に注意されてしまう。
「アルビートのせいで僕まで怒られちゃったじゃん!ほら!ちゃんと姿勢を正して!」
クレアミンによって、渋々姿勢を正されたアルビートは自分達の背後にある宇宙船を見ながらつぶやく。
「それにしても、なんなんだよこれ。すげぇ技術だよな。軍はこの船の持ち主を襲ってるんだろ?ヤベーんじゃねぇのかね。」
背後の宇宙船は、ものすごく巨大な宇宙船であり、とても人間の現代文明の技術力では作れないものだ。
見た目はまるで月がそのまま落ちてきたような円形で、直径12キロメートルほどの巨大さ。なぜこれまでこの国で公に発見されなかったのかと疑問に思うほど、遠目にも目立っていた。
「確かに。僕もそれは思うよ、この宇宙船を覆っているシールドもそうだけど、こんなの作れる地球外生命体を襲うリスクは計り知れない。」
「だよな。しかし、今回のターゲットは敵性の宇宙人らしいじゃねーか。そいつが何したのか知らないけれど、こうするしかなかったのかね。」
二人は思う。これ程の技術力を持つ敵性宇宙人
と戦争になれば、人間など取るに足らない存在だろうと。
ただし、実際に敵性宇宙人が存在するのであれば、それは人間にとっての脅威だ。だからこそ、今回の作戦が実行されたのだろうと二人は考えた。
「せっかくの機会だ、俺もその宇宙人とやらに会いたかったわ。こんな事してないでよ。」
「確かにね。僕も同じ気持ちだよ。人と同じ姿をしているって情報は降りてきてたけど、気になるよね。」
二人が話している時、前方の草むらがガサガサと揺れだした。
その音は、風に揺れる音ではなく、確かに"何か"がいる音だった。
「なんだ?…小動物か?俺が見てくる、ここは頼むぞ。」
「了解。…だといいけど。」
アルビートは銃を構えつつ、厳戒態勢のまま1歩1歩近づいていく。
後方からその様子を眺めていたクレアミンも何が起こっても良いように草むらに銃口を向けた。
徐々に先程の草むらに距離が近づくと、女性の話し声が微かに聞こえてきた。
(この声…女…?)
アルビートが更に近づくと、突然、2人の持っていた銃の銃口が折り曲がり始めた。
「な!?銃口が!なんだこれは…!」
「…!!アルビート!前方!!」
「!?」
アルビートが視線を銃口から戻すと、目の前に明らかに人間とは異質な雰囲気を纏った女性が目の前に立っていることに気づく。
アルビートは咄嗟にサバイバルナイフを手に取り、構えた。
「なんだお前…?」
警戒を強める2人を無表情で見つめる目の前の女性は、ゆっくりと話し始めた。
「私は、ノノカ・リリアル・ファレ・クロノアです。あなた方とお話をしたく、ここに来ました。」
目の前の異質な存在である女性は、非常に美しく、見た目は人間と変わらなかった。
彼女は「ノノカ・リリアル・ファレ・クロノア」と名乗り、聞き慣れない名前を告げた。そして自分には実害がないと語る。
「私は…あなた達に何かをするつもりは全くありません。ここには、お願いがあって来ました。」
ノノカは続けた。これまでの経緯を端的に説明した。
そして、説明の最後に取引を持ちかけてきたのだ。
「…というわけです。そこで、私はあなた方にお願いがあります。私は抵抗しませんので、このまま連れて行ってもらって大丈夫なのですが、その代わりに二つの条件を受け入れて頂けませんか?」
「条件?」
「はい。条件は二つ。まず私の大切な人達の命を助けてください。彼らは巻き込まれただけの人達で、重症を負っています。次に、私をあなた方のトップの人間に会わせて下さい。この2つです。」
(トップ…マック・カーター長官の事か?)
ノノカは危険な存在と認知されている。そんな彼女をトップに会わせるなんて事は、新兵である二人には出来ない。
しかしクレアミンは、この好機を逃すわけにはいかないと考え、条件を表向きには承諾した。
「…わかりました。その条件を受け入れます。アルビート、武器を収めて。ノノカさんを連行する準備を。」
「…おい!クレアミン!?何言って…!」
「いいから!僕を信じて。」
クレアミンがその取引を承諾すると、アルビートは戸惑った。しかし戦友への信頼から、クレアミンになにか考えがあるのだと察し、信じることにした。
アルビートがナイフを収めると、二人はノノカに近づき、拘束具でノノカの両手を縛る。その後すぐに無線で隊長へと報告を入れた。
「報告、ノノカ・リリアル・ファレ・クロノアという者を拘束。繰り返す、ノノカ・リリアル・ファレ・クロノアという者を拘束。」
数秒後、報を聞いた隊長や部隊の兵士たちが驚きの表情で現場に駆けつけてきた。




