これ以上傷つけないで。
特殊軍事作戦の臨時拠点では、作戦を終えた軍が続々と帰還していた。
拠点には最新鋭の兵器や医療設備が並び、まるで一つの小都市のような規模を誇っている。
軍の拠点は住宅街の一部にまで広がり、現地の住民は突然の強制退去を余儀なくされた。そのため外では住民のデモ隊とソメリカ軍の衝突が発生していた。
「総隊長、報告します。現地民と我が軍との間で衝突が発生し、負傷者も複数出ています。事態が大きくなる前に帰国した方が良いかと。」
癒奈がソメリカ軍の医療テントにて目を覚ます数時間前、現地の軍の幹部達は、拠点内部にある広場に集結していた。
「報告ご苦労。それで、この子供が本作戦のターゲットか?ただの子供にしか見えないのだが。」
拠点の指揮を執るソメリカ軍総隊長、ロビン・ブラックネスは、力なく地面に横たわる少女を見下ろし、低く呟いた。
少女は酷く傷つき、呼吸さえままならない様子だった。
「機密情報によると、コイツは敵勢侵略宇宙人のようですよ。全く怖いものですな、人間と寸分違わぬ姿だ。」
ほかの隊長達も、弱っているノノカを見つめる。
そんな中、別の場所から何者かが広場に連行されてきた。
連行されてくる者は、抵抗を続けているようで、大声で何かを叫んでいるようだった。
「お前らァァァ!!離せ!!このクソが!!ノノカ様に何かあったら、タダじゃおかないからな!!ゴラァァ!!」
連れてきていたのは、ソメリカ軍特殊部隊NACCUの面々で、武装した4名の特殊部隊員は、一般兵士達に、拘束具で縛り付けた石作と傷だらけのネンネを運ばせていた。
「これはこれは、NACCUの皆様。この度は、我が軍との連携、感謝いたします。そちらも無事に作戦完了できたようですね。」
総隊長のロビンは笑顔でNACCUのメンバーを握手して迎え入れる。
NACCUと軍が同じ目的で動く事はあまりない。NACCUの存在は軍の中でも一部の人間しか知らない程、特殊な部隊なのだ。
馴れ合うことをせず、ただ確実にミッションをクリアするために動く彼らを異質に思う隊員も少なくない。
そんな彼らに笑顔で接触することが出来るロビンは大した男だと言えた。
「もちろんだ。本作戦において、我々の活躍が無ければ無事に完遂することは難しかったであろう。コイツは目的であった雪豹だ。既に討伐は完了している。お前たちで確認後報告と護送をしてくれ。我々は先に司令本部へ向かう。」
「久々に腕のなる相手だったなぁ。最高だったぜ。」
「無駄話はよせ。我々は早くマック・カーター様の元へ向かわねばならぬ。急ぐぞ。」
「はいはい。」
伝えることだけ伝えたNACCUの人間達は、そのままネンネと石作をその場に置いたまま立ち去っていった。
「流石ですね、この雪豹の危険度は猛獣の中でも秀でていた。しかし彼らは大した傷も負わずに討伐した、やはり人間とはレベルが違う。」
息をせず身体中から血を流し、白目を剥いたネンネを軍の隊長は少し持ち上げて観察する。
そして、それを見て怒りの声を上げていた石作は、ノノカが横たわっていることに気づく。
「お前ら、そのヒョウに触れるんじゃねーぞ!!殺されてぇの…か………ッ!?ノノカ様!!?」
ずっと怒りで兵士にしか目を向けていなかった石作の視界に、力無く横たわるノノカが写った。
信じられない光景に、思わず一瞬言葉を失う。
(おい…おいおいおい…嘘だろ…!おい!!あれはノノカ様じゃ…。あんなボロボロで、地面に適当に置かれて…ッ!!)
無造作に地面に捨てられているノノカを見て、石作の怒りは頂点に達する。
自らに付けられていた拘束具を血が滲むほどの力で解こうとしながら、兵士を振り切ってノノカに向かって行こうとする。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!ノノカ様ァァ!!オラァァァァ!離せ!離しやがれ!!許さねぇぞ!テメェら!!ぜっってえ許さねぇ!!殺してやる!!」
石作は兵士に噛み付き、足をばたつかせて必死に抵抗したが、数の暴力に押さえ込まれた。
隊長の一人は石作の頭を踏みつけ、鼻血を流させながら嘲笑う。
「ア゛ア゛ア゛ッッ!!ぐ…アァ!!!クソッ!クソおおお!!」
「喚くな。ガキ。今この場でお前を先に殺しても良いんだぞ?大人しくしとけ。」
「やってみろよ…ッ!!ゴミクズ共。やれるもんならな!!」
兵士達によって抑えつけられていた石作だが、隊長の命令により、拘束具を付けた状態で一時解放される。すると、一人で抵抗を続ける石作の顔面に、隊長の鋭い蹴りが入る。
「あっがッ………!!!」
石作は衝撃の強さに、一瞬ふらつくも、そのままノノカの元へ行こうとする。
しかし、蹴りの後も隊長は容赦なく石作を痛ぶることをやめない。
殴り、蹴り、ボロボロになってもそれは続いた。
「あぁ……。ぐぞ……!」
あらゆる所から出血し、もはや動けなくなった石作は、仰向けに倒れてしまう。
隊長は、そんな石作の腹部を足で踏みつけながら石作の事を哀れむような発言をした。
「愚かなガキだ。この宇宙人に誑かされて、愚かにも我がソメリカ軍に抵抗をするなんてな。地下にいたガキ共と同じく、お前もあの世に送ってやろうか?」
(地下にいたガキ…。まさか…竹取達か…?!だから、ノノカ様がここに…。)
この場にいない幸達が、この目の前の隊長と呼ばれる人間にやられてしまった。そう悟る石作だが、もはや抵抗の力は残されていない。
「はぁ…はぁ……ノノカざま……ッ!」
石作はボロボロになりながらも、なおノノカに手を伸ばそうとする。
その瞬間、隊長は一歩下がり、銃口を石作に向けた。
(ここまでか……!ノノカ様、申し訳ございません……!)
だがその時――。
ノノカの指先が、かすかに震えた。
「……っ、ぁ……」
か細い声が漏れ、彼女の身体から淡い光がにじみ出す。
兵士たちは一瞬、息を呑み後退した。
(………ッ!?ノノカ様…!目が覚めて…!?)
「…!…おぉっと…。なんでコイツ動けるんだ?」
ノノカは石作の目の前で、何も言わずに立ちあがる。
その時、石作はノノカの身体が光を帯びていることに気づいた。
(これは…。一体何が…。)
「厳戒態勢!!侵略宇宙人が目を覚ましたぞ!!射撃準備!!」
隊長達や軍内部には一気に緊張が走る。
今目の前で起こっている事が、通常とは異なる異常事態だったからだ。
目の前のノノカは、幼い姿から光に包まれて成長を始める。
髪は腰まで伸び、背丈は130cmほどに。
石作は間近でその変化を見ていたため、誰よりも早く細部の変化に気づいた。
瞳の色は紫色だったものから、澄んだ青色に変わっており、髪の色も黒髪から綺麗な桃色へと染まっていった。
変化を終えたノノカからは、ただならぬオーラが放たれている。
(ノノカ様…?一体何が…。)
それから数秒も経たないうちに、中学生ほどの姿へと変貌を遂げたノノカは、先ほどまでとは別人のような声色で叫んだ
「幸さんを……」
(………!)
「ーー幸さんを、殺したのですか…!!!」
その瞬間、ノノカの周囲から目に見えるほどの衝撃波が迸り、兵士たちは思わず身をすくませた。




