崩壊の鐘が聴こえうる。
最終調整2025-05-08 更新
「さちぃぃ〜!!!どこおおぉ〜!!!うあぁぁぁあん!!」
幸にとって、聞き覚えのある声が学校中に響き渡る。
泣きじゃくりながら、放つその声の威力は凄まじく、誰もがその場を見つめた。
幸のクラスの全員および、隣のクラスや別の階の上級生、下級生含めた全校生徒が、その赤ん坊に注目している。
幸の考えうる中で、もっとも最悪で絶望的なシチュエーションを作り上げられた状態なのだ。
泣き声の先にいるノノカを見ては、女子生徒は可愛い〜!っと皆でキャッキャしており、男子生徒は、誰の子供だよ笑、おまえだろー!。とみんなでいじり合いを始めたりと、授業どころではなくなり、興奮している状況だ。
幸は、これまでの人生でかいたことの無い汗が全身から溢れ出て、顔は青ざめていた。
(あいつ…!!なんでこんな所に!!?ここ数日保健室で大人しくしてたから安心していたのに、先生は何してるんだよ!?ヤバイヤバイヤバイ!!クラスどころか全校生徒が注目しちゃってるぞ!?嘘だろ…こんなことってあんのかよ!!)
幸は焦りすぎて、冷静さを失う。
とにかく、先生がノノカをどこかに連れていくまでは、ノノカにバレる訳にはいかなかった。
身体中の筋肉を顎に集中させて、顎をシャクレさせる。
もう、もはや顔が別人のように感じるほど、三日月を彷彿とさせるほど、シャクレて静かに待機した。
学校中が騒ぎになっている中、幸は静かに気配を消していたが、後ろから声をかけられる。
「竹取さん。あなた下の名前、幸って言うわよね?あの子さっきから、さちって呼びかけているようだけど、まさかあなたの事じゃ?」
学級委員長だ。
この女は、とかく直感や洞察力が凄い。
最近は、幸の事を何故か嗅ぎ回っており、幸にとって厄介そのものの存在となっていた。
「学級委員長さん、何を言っているのですか?私の名前は、竹取幸ではなく、竹取幸と言います。あと、あんな赤ん坊の事は知りません。以後お見知り置きを。」
幸は、なんとも言えない顔で答えた。
学級委員長の癒菜は、何を言ってるんだこいつは。という気持ちを抱えつつ、更に幸に対して追撃をしようとした時に、担任が動いた。
「あらあら。こんな小さな赤ちゃんがどうしてここにいるのかしら?よしよし、どうしたのかな?」
担任の小林先生は、とても優しい30代くらいの女性の先生だ。
セミロングくらいの髪型で、いつもジャージを着ている。
親しみやすい性格からも、生徒から人気の先生だ。
そんな、小林先生だったからかノノカは、先生に抱き抱えられると少し泣き止んだ。
「うぅ…。あのね。ノノカがおっきしたらね、さちが…いないの。さちはね、ノノカのパパなの。さちがいないからさびしぃの…。」
ノノカは、小林先生に抱き抱えられてとんでもない爆弾発言をした。
なんと急に幸の事を、パパだと言いはじめたのだ。
幸は、静かに様子を伺っていたが、その発言を聞いた瞬間目が飛び出そうになった。
(何言ってんだあいつはぁぁあ!!?
パパ?!パパだって!?誰がパパだ!そんな言葉いつ覚えたんだ!?)
幸は思いっきり心の中で叫んだ。
もしこんな状況で、自分がノノカの言う幸だとわかれば、とんでもない事になる。
幸はそんな事を思いながら、静かにバレないことを祈り続けた。
その頃、癒菜も驚きの表情をしていた。
ノノカの衝撃的な発言に、驚きを隠せなかった。
(パパ…?パパですって…!?まさか竹取幸は、不純異性交友を…!?ま、まさか、このクラスの誰かとあんな事やこんな事を!?ゆ、許せません!!なんてふしだらな!!)
癒菜の中で、竹取幸は確定的問題児だと確信してしまう。
その中で、小林先生は、ノノカに遂に問いかけた。
「君が、言うさちっていうのは、誰だろうね?ここにもね、さちって名前の子は確かにいるけど、他のクラスの子だと思うんだよね。あそこにいる男の子分かる?あの子じゃないよね?」
小林先生は、真っ直ぐに幸の方に指を指した。
みんなの視線が幸の方へ向く。
しゃくれた幸は動悸が止まらない。
ドクンドクンドクンドクン
(な、なんでこんな事に…!!あぁぁ。。みんなの視線が俺に集まる。あぁぁぁあぁ)
目がクルクルと回る。
視界の中にうつる世界は、もはや別世界。
もう幸の理性は、緊張やらなにやらで、めちゃくちゃになっていた。
そしてノノカは、先生の指差す先の幸を見て、すこしの静寂の後に答えた。
「さちだぁぁああ!!!!いたああ!!」
ノノカは、そのまま先生の抱かれた腕を解いて、幸の所にヨチヨチと歩いて、幸の足をぎゅっとした。
その瞬間、その場の誰もが一斉に叫んだ。
「ええぇえぇぇえええええ!!!?」
幸は、もうどうにでもなれというような投げ出しの状態で、とりあえずノノカを抱き寄せると、キラキラした顔でノノカに話しかける。
「もう〜ダメじゃないか〜。ノノカは寝んねの時間でしょ?保健室の先生の所から、なんで来たんだい?」
もう幸はキャラ崩壊をしている。満面の笑みで、ノノカを見つめながら話していた。
ノノカはそんな幸を見ながら言う。
「ごめんなちゃい。おっきしてね、いつもほけんちつで、おべんきょうちてたの。でもね、もうぜんぶおべんきょうおわっちゃってね、さちがいないから、さみちくて、あいたくて、きたの。」
幸は、ノノカに対して少し可愛いなと感じる。
すると、少し様子を見ていた小林先生が幸に話しかけた。
「竹取さん。これはどういう事か説明してくれるかな?その子はあなたの子供?誰との子供なの?」
そう聞かれると幸は、理性が崩壊していていた為か、
混濁の意識の中で、考えてもないことを言ってしまう。
「はい。ごめんなさい。僕の子供です。この人との子供になります。」
指をさして答えた。指を指した先に居たのは、学級委員長である癒菜だった。
また、クラス中で大きな驚きとなった。
「えええぇぇええええ!!??」
癒菜もすかさずに「はぁあぁあぁああ!!!?」と声が出てしまった。
癒菜は、意味がわからない状況に焦って言葉が詰まる。
「あ、、あ、、あなた!!な、何言って…!!!」
先生は、驚いた表情をしつつも、毅然とした態度で問いかけを続けた。
「夢坂さん。それは、本当ですか?」
癒菜が答えようとすると、幸は癒菜を遮ってはっきりと答えた。
「はい。間違いありません。僕と学級委員長は以前より交際をしていました。そしてある時に子供が出来ました。みんなも知っているかと思いますが、学級委員長が体調不良を理由に休んでたのを覚えていますか?その時に妊娠した子供です。」
そう、癒菜は以前に学校を持病で1年間休んでいた期間があった。
その時の子供だと幸は、高らかに宣言したのだ。
癒菜は、あまりにもハッキリと嘘を言い切る幸を見て言葉がいつものように出なくなった。
そうして、先生は幸と癒菜の2人に冷静に伝えた。
「今日の放課後、2人は生徒指導室に来なさい。詳しくお話聞かせてもらいます。」
目がクルクルした幸を癒菜は、おもいっきり睨むのだった。