迫る思惑
知恵美市市役所市長室
「海市長、本当にこれでよかったんですか?なんであんな素性もしれない集団を助ける判断を?あなたは、脅しなどには屈しない人だと思っていました。」
市長室にて仕事を黙々とする市長に秘書は問う。
これまでの市長を見てきた秘書からすれば、今回の対応には違和感を覚えるものがあった。
確かに今回の件で脅された情報は、全て世に流れては危険な、過去の闇ばかりだった。しかし、例えそれを引き合いに脅されたとしても、不審者集団に屈するなど、秘書から見てこれまでの市長がやるはずもない判断だ。
「私の知っている貴方とは違う気がします。教えていただけませんか?理由を。」
秘書の問いかけに、海市長は仕事をこなしながらゆっくりと答えた。
「彼らは…いや彼は、どうやら私の恩人だったようだ。私は…知らなかったんだよ。何も。仕事に没頭するあまり、身近でいちばん大切なものを見失いかけてた。」
時は遡り、幸達が市長室に押し入った日
海市長は妻である千千と幸達を連れて市役所内のミーティングルームに向かう。
ミーティングルームに着くと、それぞれが着席して、話し合いが設けられた。
「さち!ここどこ?」
「ミーティングルームかな?大人達が話し合うところだよ。」
「竹取くん、なんだかすごい展開になってきたね。まさか、市長の奥さんと知り合いだなんて…あなた何者なの?」
「んー…。まぁ、過去にちょっとしたヒーローごっこで助けた時に、たまたま知り合ったって感じかな。」
幸達がコソコソと話していると、ため息混じりに海市長が妻である千千に説明を求めた。
「それで?千千、彼らが私達の恩人というのはどういう事だ?説明をしてくれ。」
問いかけられた千千は、海市長を見つめると毅然とした態度で答え始める。
「まず、私の実家の事情を覚えていますか?」
妻の実家について急に聞かれた市長は、そんなもの当然だと伝える。
千千の実家は、実は父は働かない人間で酒浸りな毎日を送っていた男で、母はそんな千千を見限り家出をした。
千千には年の離れた妹がいる。
母が大好きで母から常に離れなかった妹で、天真爛漫な性格をしていたが、母の失踪した日からどんどんと様子がおかしくなっていった。
顔はどんどんとやつれていき、頬はコケて、髪の毛は乱れていき、遂には寝たきりになり、まともに話すこともままならなくなってしまった。
彼女の症状は重度のうつ病であり、母を失った精神的なショックが原因とされる。
「私の妹、千矢は今は元気な姿であなたの前にも姿を見せたことがありますね。なぜ、あの子が元気な姿に戻れたと思いますか。私の大切で優しい妹を誰が戻してくれたと思いますか。」
「まさか…?そいつだと言うのか!?」
「はい。あなたは、病に伏した私の妹を見た時に、即座に諦めて煙たがっていましたよね。でも、あの子は元に戻れたんです。人生を取り戻したんです。あの方のおかげで。」
「それに…あなたが仕事で忙しい時、私たちの息子が不審者集団に攫われた事、覚えてますか?あなたはそれを聞いた時に、時間がどれだけたっても、どうせ遊んでるだけだろ。と冷たく返しただけだった。私達の息子の性格を知らないから、そういう無神経な発言ができるんですよね。ねぇ?覚えていますか?」
詰められる市長、自分自身に自覚のあることを淡々と告げられる事により、何も言い返せない。
確かにこれまで仕事第1で考えてきた市長は、家族の事を蔑ろにしてしまっていた。
「…………」
「あの方は、その時も捜索を手伝ってくれて、犯罪者を警察と連携して捕まえてくれたこともありました。あの方には返しても返せない程の恩があるのですよ。」
幸は、将来の夢として掲げていたものがある。
それは、刑事だ。
幼い頃に刑事のドラマを見て、それから憧れていた。
憧れからか、様々な事件の情報や資料を集めて捜査の仕方や、情報の収集方法などを学んだ幸は、個人で修行の為に刑事のような事を受け持っていた時期があるのだ。
「竹取くん、そんな事してたの!?危なすぎる!!学校が知ってたら大騒ぎになってる案件だよ!?馬鹿なの!?目立ちたくないとか言ってたくせに!」
幸のかつての行いを聞いた癒菜は、驚いて叱責をする。
学生の幸には、あまりにも危険で無謀な事をしているからだ。結果的に、救われた人間が多く居る時でも看過できない問題だ。
「ご、ごめん!昔っから憧れててさ、ちょっと休みの日とかにやっちゃってたんだ。」
「もう絶対ダメだからね!?ほんとに!!」
「は、はい…。」
幸が怒られている間に、市長は考える。
この覆面集団は、とても許しては行けない事をしている。しかし、家族を救ってもらった事実がある以上、ぞんざいには扱えない。
考えに考え抜いた末、千千への謝罪を行い、幸達に対しては提案をした。
「家族を救ってもらった恩だ。信じ難い話だが、千千の言うことは真実なんだろう。お前達の今回した事は許せるものではないが、特別にお前達の要求を飲んでやる。だが、代わりに必ずお前たちの計画を成功させることが条件だ。市の活性化に繋げてくれ。」
それを聞いた皆は、喜びで盛り上がる。
これで幸の計画は本格的に実行に移されるからだ。
喜んでいる覆面集団を見つめながら、市長は千千に尋ねた。
「これでいいんだよな、千千。」
「はい。ありがとうございます。」
「それとな…」
「…?」
「もうお前達の事を蔑ろにしないから。辛い想いもさせないから、もう一度チャンスをくれないかな…?」
千千は、少し驚いた表情をすると、少し黙った後、短く返答した。
「…期待してますね。」
そうして、幸達の計画は始動する事となり、計画は大成功を収めたのであった。
そして現在、カクリコゲームセンター屋上では、倉持と幸が遭遇する。
「疲れてんだ。今お前とやり合うつもりは無いぞー。ここ数週間でどれだけ俺が働いたか…。クッソ目立ちまくってたし。もうこんな事、ノノカ達に頼まれたって、二度とゴメンだ。」
振り返った幸の顔にはかなりの疲労を感じさせる物があった。
おそらく徹夜した日もあるであろう、ここ数週間は、彼にとってとてつもなく忙しかったようだ。
倉持は、そこまでやれる幸のことを心のどこかで尊敬し始めていた。
「…貴方と喧嘩するつもりは無いわ。私は、恩を受けた相手に対して、失礼な事はしない。常識は弁えてるのよ。」
「へぇ〜。そうかい。それなら何しにここに来た?ノノカ達とゲームしないのか?屋上には何も無いぞ。」
ゲームは無く、噴水が中央にあり、人工芝が生やされている屋上。自販機が2台とベンチも数個設置してある屋上階にはゲームで疲れた人間が休むスペースが確立されていた。
特段何も無い空間に、ゲーマー中のゲーマーの倉持がゲームをせずに来たことが、幸からしたら疑問だったのだ。
「ここに来たのは、貴方への謝罪と感謝を伝える為よ。それと…警告も含めてね。」
謝罪と感謝については理解できた。しかし、警告という不吉なワードは理解ができなかった。
(警告…?警告ってなんだ?)
幸は少し疑問を抱きつつも、倉持の話を黙って聞いた。
「まずは、初対面の時はごめんなさいね。後ね、あなたも私に悪口言ったんだから、それは謝って?」
「え?あ、あぁ。ごめん。」
「いいわ。そして次に、本当に今回はありがとう。あなたは、グッドハンサムボーイよ。このゲームセンターをこんな事にするなんて、常人じゃできない。不可能を可能にするなんて、まるでヒーローだわ。」
「ヒーローって…。褒め上手だな。」
素直に褒められることに慣れていない幸は、照れくさそうに頭をポリポリとかいた。
そんな照れくさそうにしている幸をみて、クスクスと笑うが、少し経つと表情を変えて深刻な顔つきで話し始めた。
「最後にね、私からの警告。これは、国家機密レベルの話よ。今この瞬間すら危険なんだけど、あなたは特別。だから、これを受け取りなさい。ここに記してあるものは、恐らくノノカちゃんと紫ちゃんなら理解できるから。家でしっかりと読みなさい。いいわね。」
そう言って渡されたものは、A4サイズの用紙に理解できない言語で書かれたメモだった。何枚にも折りたたんでおり、素早くしまうように言われる。
「お、おい!なんだよこれ。それにこの瞬間すら危険って何言ってんだ?説明しろよ!!」
幸は説明するように言うが、何も言う気は無いらしく、倉持は黙って幸に手を振ると、下の階に降りていってしまった。
呆然と立ち尽くす幸は、ポケットの中で固くおられたメモ書きを握りしめた。
数刻が経ち、夕方になると店は閉店しノノカ達も家へ帰る事となる。
幸1人モヤモヤしながら帰ってると、ノノカは幸の異変に気づいたようで、心配していた。
「さち…?大丈夫?なんだか元気ないの?」
「え!パパ、どうした!?風邪ひいたの?早く帰んないと!?」
2人の心配する様子に、大丈夫と伝えるも2人はそのまま幸の様子を観察しながら、帰路に着いた。
家に帰りつくと癒奈が出迎える。
「みんなおかえりー!!竹取くんすごいね!!カクリコゲームセンターがずっと話題になってるよ!」
「まぁね、この俺様さえいれば、こんなものお茶の子さいさいよお〜!!」
「ハハハッ!!竹取くん、竹山光の方が出ちゃってるよ!!」
「パパ、それかっこわるいと思う。」
「えー!ノノはかっこいいと思うな!さちは何してもかっこいいんだもん!」
みんなで談笑しながら、そのまま入浴をそれぞれ済ませて食事をする。
何気ない日常を過ごしながら、幸は倉持から受け取ったメモをポケットから出した。
「ん?なにそれ?メモ?」
食事をしながら癒奈は一番に幸の手にある用紙
に気がつく。
癒奈が気づいたと同時に紫も用紙を見つめた。
「何が書いてあるの?すごい折られてるね。」
紫はメモ書きになるようだ。厳重に折られたメモを幸はゆっくりと開く。
そこに書かれている文字は、やはり見たこともない字だった。
「なにこれ?何語?見たことないな。竹取くん知ってるの?」
中に書かれたメモを見て、変な表情をする癒奈。
様々な他国語を話せる癒奈にとって、それは本当に言語なのか?と思われるような物だからだ。
「いや、実はこれ今日渡されたんだ。俺も中身は、よく分からない。ノノカと紫なら分かるって言ってたけど…。」
「え!私?見せて?」
開かれたメモを紫が目を通してみる。
すると、なにか心当たりがあるのか「あっ!!」と反応した。
どうやら、この言語は現実に実在するものではく、格ゲーであるブレイク・ハンスルーの古代文字の設定としてあるものらしい。
「これ、確かに私とお姉ちゃんしか分からないかも。古代文字の設定はかなり細かいみたいだから。」
どうやら、ブレイク・ハンスルーをえげつない時間プレイしている倉持とノノカ達、後は本当に上位ランキング者の数名くらいしか、これは読めないようだ。
「というか、紫とノノカはどうして読めるんだ?いくらなんでも最近始めたばっかりのゲームで、こんな緻密な文字配列を覚えられないだろ。」
ノノカと紫がブレイク・ハンスルーをプレイし始めてから、そんなに時間が経過した訳では無い。
プレイする時間は大体土日だけとかで、プレイ時間もおそらくまだトータルで20時間も無いんじゃないかと思われる。
それで、この文字列を全て暗記するのは普通は不可能に近いレベルだ。
「んー。意外とすぐ覚えたよ?お姉ちゃんの方が早かったけど、私もすぐに全部覚えたかな!余裕で!!」
この2人は天才だ。超高度文明の元宇宙人である2人に人間のレベルで比較するのは変な話だった。
幸達は感心しながらも、読んでもらうように呼びかける。
「いいよ!えーとなになに、ここに記載している内容は、ソメリカ合衆国の国家機密文書に書かれた内容についてよ。一読後に即この書類を捨てるように…」




