その名は名探偵幸
知恵美市の市長室に、ある日謎の覆面集団が不法に侵入してくる事件が起こる。
その集団は、恐らく学生の集団でこれまでの市の歴史上こんな事は初めてのことだ。
おまけに猛獣指定されている豹まで居る始末だ。
動揺しながらも市長は、牽制の意味も込めて怒声を放つ。
「誰だ君達は!!!ここに来るのに許可を得たのか?ここが何処だか分かっているのか!!!」
牽制の効果があったのか、1人の覆面の人間がコソコソと最前に居る覆面の男に話しかけている。
「竹取くん!!本当に大丈夫なの?こんな強盗みたいな事して!!私作戦内容を聞いてないんだけどさ!?」
癒奈は幸達が心配で結局学校を休み、幸達に着いてきていた。
何をするのか具体的に聞いてこなかった癒奈は、突然覆面を被らされて、こんな不法侵入をする羽目になった事に動揺を隠せない。
すると同じく護衛で同行している石作とネンネも作戦を聞いていないようで、幸に問いかけた。
「竹取。俺も作戦聞いて無かったが、今後はどう動くつもりだ?」
「別に作戦はどうでもいいが、ノノカ様を悲しませる結末にはするなよ。竹取幸。」
皆の心配を他所に、特に何の心配もしていない様子で、「みんな落ち着け。とにかく今は俺に任せろ」とだけ告げた幸は持っていたカバンから何やら書類の束を取り出す。
コソコソと話している覆面集団に苛立つ海市長は、さらに怒声を放つ。
「おい!!お前ら、聞いているのか!!!お前ら、随分と若そうだが…学生だよな?私にこんな事しておいて、タダで済むと思うなよ!!おい、警察に通報して、やつらの身の上を調べろ。全く…。うちの職員は何してんだ。」
「海市長。かしこまりました。では、警察に通報させていただきます。」
海市長の隣にいる秘書は、即座に携帯を取り出すと警察の番号に電話をかけようとした。
すると、幸がネンネにコソコソと指示を出す。指示を受けたネンネは秘書の所まで凄まじい速度で移動すると携帯を奪い去り、幸達の所にまで帰ってきた。
口で携帯を加えたネンネは、驚く秘書を見てニヤリとドヤ顔をした。
「おい。竹取幸、これでいいのか?この機械はどうする?」
「おっほー!!さすがだぜ!とりあえず携帯は持っててくれ。」
(ネンネかっこいい〜!!すごいね!!)
(ハハッ!!!ノノカ様にそんな事を言われて、私は歓喜します!!)
秘書にとって。何が起きたのか理解するのに時間を要する程、ネンネの動きは一瞬の出来事だった。ようやく事を理解すると自分の携帯が奪われたことに、秘書も怒りを露わにする。
「あなた達、これは犯罪ですよ?分かってやっているの?携帯を直ぐに返しなさい。今すぐに!!」
「お前ら!!ふざけるのも大概にしろよ!!!うちの人間に手を出して、なにを……」
「知恵美市市長、坂元海!!!!」
「「!!?」」
市長と秘書の怒声を遮るように、幸はさらに大声で声を被せた。
突然名前を大声で呼ばれた市長は、何事かと驚く。
「年齢は40歳、生まれは知恵美市。妻子持ちで、悠誠高校、宋代大学と進学。3年前に知恵美市市長選への出馬と同時に当選。現在はその役職にて自身の有能さと類まれなるリーダーシップで市を導いている…」
幸は手元にある資料を元に、次々と市長のこれまでの経歴を読み上げた。
実は作戦決行前に、幸は市長の情報を身辺調査含めて調べ尽くしていた。
その資料の厚みはかなりの物で、とても素人が簡単に調べあげた量では無い。
「よく調べてますね。それで?市長の情報なんてネットで見ればすぐに誰でも分かるものですよね。なにを誇らしげに語ってるのですか?」
幸が現時点で読み上げた内容は、確かにネットで調べればすぐに出てくる情報だった。
しかし、読み上げはその後もどんどんと続く。
それはネットにも出てこないような情報で、妻の名前、子供の名前、自宅住所、実家の住所、両親の名前、さらにそれを深堀る内容も全て把握していた。
市長は話が続くにつれて、どんどんと額に汗をかきはじめる。
すごいの情報量に、幸を只者では無いと感じ始めていたからだ。
「あなた…!さっきからデタラメをペラペラと!!黙りなさい!!」
「ッ!?あぶない!!!おにいさん!!」
「ハッ!!おまかせを!!!」
秘書は我慢が出来なくなったのか、読み上げる幸の元へと行くと、手を挙げようとした。
すると、それを察したノノカが石作に幸を助けるように投げかける。
指示を受けた石作は、幸に向かって振りかざされた手をバチンと受け止めた。
「は、離しなさい!!!私に触らないで頂戴!!!」
「秘書、桑本幸枝。お前は後だ。」
「………ッッ!?」
なんと、幸は情報公開されていない秘書の情報までも握っていた。
それからも、細かい情報を話し続け、一般人が絶対に知りえない極秘の情報すらも掲示した。
「これまでのあなたの経歴は素晴らしいものだ。表向きに見れば、誰もが慕うエリート市長そのものだからな。しっかし…」
「…?」
「市のお金を着服したり、さらには、不正当選。市の経費関連書類の偽造…息子の犯罪の帳消し…」
「…!!?お、お前!!何を根拠に!!!証拠でもあるのか!!!名誉毀損で訴えてやるぞ!!」
「そ、そうよ!!そんなのデタラメよ!!市長、訴えましょう!!裁判の手配は私がします!」
「…いいぞ?訴えても。証拠ならここに全てあるし、まだまだあるだろ?世に出たらダメなやつが。そして、桑本もダメダメだなあ?不倫に汚職。娘を養子として売り飛ばして、さらには市長にしょっちゅう色目を使っているようだ?まぁ、そいつに相手にされてないらしいが(笑)」
「……ッッ!!?」
2人の表情は、青ざめていた。
どこの誰とも分からない目の前の覆面男は、2人の人生が壊れかねない情報を握ってしまっているようだ。
全ての情報が正確で確かなものだったので、2人の勢いや怒りはすぐに鎮火した。
どうにかして、この目の前にいる災厄を止めなければいけないと本能で察知しているらしい。
「お、お前…何者だ…。何が望みだ。私の失脚か?」
幸はニヤリと顔を歪ませる。
待っていました!その言葉を。と言わんばかりに、大袈裟に身体を動かすと、決めポーズをしてノリノリで市長を詰めた。
「我は天才名探偵様なり。我の望みを叶れば、アンタに危害は加えないと約束しよう。どうだ?この話、ノるか?愚かなる我が傀儡めが!!」
普段の幸とは考えられない、厨二病感満載の語りに、後ろに控えていた全員が若干引いていた。
(((めちゃくちゃノリノリだ…)))
幸の思わぬ才能がここで生かされることとなった。




