約束
(あぁ…幸…ママ…ネンネ…痛いの怖いよ…。助け…)
ノノカは歯を食いしばって目を閉じる。
目前に迫る恐ろしい刃は、ノノカを一刀両断しそうな勢いで迫った。
パンタは自身で想像した物であった為、刀を消そうとするも、このままの勢いだと刀が消え去る前にノノカに接触してしまうのは確定していた。
二人が諦めそうになった時、パンタの横から思い切り靴が刀に目掛けて飛んできた。
靴は見事に刀の部分にヒットすると、パンタの手から離れて道端に転がり、そのまま消滅した。
パンタとノノカがそれに気づいて、2人共へたりこんで座ると、横から別の2人の人物が歩いてきた。
「ふぅ…。…………ッ!!……さちぃ!!!ママぁ!!!」
そこに居たのは、急いで走ってきたであろう幸と癒菜だった。
2人とも汗だくで、幸はもう一足靴を投げようとしていたのか、片手にはもう片方の靴が握られていた。
「竹取、夢坂!!遅いぞ!!だが、助かった。すまない、危ないところだった。」
石作が声をかけると、癒菜はノノカの所に走っていき、思い切り抱きしめた。
その抱擁は強く暖かいもので、ノノカも同じように抱き締め返した。
「ノノちゃん…!!ノノちゃん!!!良かった。無事で本当に良かった。」
「ママ…。私は大丈夫だよ!来てくれて嬉しい!!」
2人の抱きしめ合う光景を1人無言で見つめる人物がいた。
パンタだ。彼女はノノカの目の前で腰を抜かしたのかそのままノノカ達のことを無言で見つめているだけだった。
「懐かしい光景か?月夜。いや、ツフィアか?」
知るはずのない人物から聞いた懐かしい名前。驚くパンタは、その名前を発した幸を凝視する。
「あ、あんた何故その名を知って…!?どこでそれを…。」
「お前の父親に聞いたんだよ。造さんに。お前も爺さんの事、感じとれるんじゃないのか?」
造という名を聞いたパンタは、はっ。と声を放つと、あの爺さんか。ととても冷たく答えた。
その様子を見て、想像と違う反応に幸は違和感を感じる。
造の事をまるで、なんとも考えていないような反応だったからだ。
暫くすると、パンタはその場で立ち上がり、幸に向かって話し始めた。
「あんたがその名を知っているのは驚いたけど、私はそのどちらでもないわ。だから、その名前は名乗れない。私は月夜でありツフィアの魂体とは別の魂体。彼女はもう居ない
聞いていた話と違う展開だ。どうやら、月夜の魂体は造を守るために、飛ばされた黄金の空間にて魂を削りながら造の魂を覆うようにして守っていたらしい。
そして、その過程で彼女の魂体のほとんどは破壊されてしまい、消滅した。
パンタ自体は月夜の人間としての体に派生した魂体であった。
月夜が人間の身体を再構築した時から同じ身体の中を月夜と共有して存在していたが、理性を持つ事も存在を自覚することも無く、身体の奥深くで眠っていたようだった。
「私に残された月夜の記憶は少ししかない。私に残された記憶は、私の元となった月夜の記憶が私に流れ込んできたから、それが少しと、光の中で眠る私に語りかけてきた月夜の最期の言葉だけよ。」
パンタが魂体として眠っていた時、まだ月夜の魂体の一部が微かに存在していたようだ。
パンタの魂体は確かに眠りについていたが、月夜の姿を確かに見ており、認識していた。
「最後に彼女はお前になんて言ったんだ?」
幸は、その月夜の魂体がパンタに消える間際、何を語りかけたのかが気になった。
「「起きたら、自由に生きて、友達を作って、家族を作りなさい。あなたは私。」と言って消えたわ。だから、私は私を見つけてくれたノノカを手放せないの!!あんた達は、私を受け入れてくれなかった!だから敵よ!!ノノカは渡さない!!私の友達として、家族として、ずっと一緒に居るの!!」
パンタがノノカに執着していた理由は、元々2人は姉妹の魂体であり、その影響で共鳴していたからである。
しかし、それだけではなかった。彼女の行動は最期の遺言を忠実に守ろうとする健気なものでもあった。
今の彼女は、ただただ友達や家族を作って自由に生きたかっただけだ。それはまるで、かつての月夜そのものだった。
「勝手な事を!!事情は知らないが、ノノカ様には手を出させないぞ!?この亡霊は、やはり話の通じる奴ではない!!除霊するべきだ!!!」
話を聞いていた石作は声を荒らげる。
自分の目的の為に、ノノカをこの空間に閉じ込めようとするパンタを彼は許せなかった。
なんとしてもノノカは救い出すと決めている石作は、ボロボロの姿でまた戦闘態勢を取る。
2人が睨み合いをすると、ノノカが幸の方を見ながら呟いた。
「幸…」
幸にはノノカの言いたいことが理解出来た。
彼女の目には、心配や不安と同時に希望があったからだ。
もはや、それは言葉に出すまでもない。
幸は心を決めると、パンタに語りかける。
「パンタ、お前……俺らの家族になれ!いつになるかは分かんないけど、お前をこの人形の中から出してやるから。一緒に色んな世界を見ようぜ。」
「「はぁ!!?」」
パンタと石作は思わぬ発言に、目が飛び出そうな勢いで驚いたのだった。




