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夜を照らす月の光

ルーファはその瞳から流れる綺麗な水について知らない。

初めて見るその光景を興味本位で眺めていた。

連れ添っている他のクロノア人達もどうようだ。

兄妹であるツフィアの涙を無表情ではあるが、興味本位で観察していた。

造は、その間に自身の腰巻に巻いていた銀色の筒にゆっくりと無事な方の手を掛ける。

ルーファがじっと眺めていると、頭に声が響き渡った。


【ルーファ、そろそろ時間です。検体達の回収とツフィアの回収を。】


声が響きわたると、村の男達は全員ネットのようなものに入れられてライランが背負い、月夜はルーファが手を差し出して連れていこうとした。


「さぁ、行くぞツフィア。」


「はい…。ルーファ兄様。お父様…ごめんなさい。私…行きます。」


月夜は、諦めたように造の後ろからルーファの方へ歩いていこうとした。

すると、造は何も言わずに月夜よりも早くルーファの元へ急に走り出した。

突然の事に驚きを隠せないルーファ達と月夜は、造の動きを止めることが出来なかった。

造は、走りながら勢いよくルーファの腹部に突進するとルーファと造は両者のその場に倒れ込んだ。


「お父様!!なにを!?もうダメです!!やめてください!!彼らからは逃れられません。」


造の事を止めようとする月夜。

しかし、造が止まることは無かった。月夜の為なら死んでも構わないと覚悟が決まっているからだ。

造は、月夜から渡された筒のボタンを勢いよく押す。

銀色の筒は、ボタンが押されると金色の輝きを放ちながらその場で破裂した。


「…!?お父様!?」


「月夜や。早く…逃げなさい。」


造はルーファを片手で押さえ込みながら笑顔で月夜にこの場を離れるように言う。

破裂した後、造たちの周囲には金箔のような金色の薄い紙のような物が空中に形成されては、地面に落ちていっている。

そして、金箔のようなものが形成されている空間に稲妻のような物が徐々に走るようになって行くと、どんどんと周囲に異空間の入口のような小さな斑点が現れ始めた。

ルーファは、この現象に気づくと造を焦って引き剥がそうとする。


「離れろ。離れるんだ。野蛮人め。こいつ!」


「うおおッッ!!離なしゃせんぞ!!ワシは月夜の父じゃ。あいつはツフィアなんて名前じゃない。月夜じゃ!!さぁ、ワシと一緒に黄泉の国へ行こうじゃないか、ルーファとやら。」


ルーファは、今起こっている現象について知っていた。

それはクロノア人の空間転移技術の応用の物であり、本来これを利用する際は大きな基盤となる装置が必要で使用の際は安定した作りになっていて指定したポイントに移動出来るのだが、今回は違った。月夜の作った物は現地で回収した物と自身が乗ってきた艦船の1部の生きた材料から作られている簡易的なものだ。よって、それらがどこに飛ばされるのか全く予想のつかないものだった。


「お父様、なんで…」


金箔のような紙が舞い散る中、やつれた月夜は涙を流しながらボロボロの造に問いかける。

造はルーファと争いながら、最後の別れを言う。


「ワシはな、お前の父になれて心から嬉しかった。手のひらに収まるような小さな命を育てられる事を日々、婆さんと一緒に神に感謝していたんじゃ。お前はとてもとても愛くるしくて可愛くてな…。この子だけは何がなんでも守るとあの時誓ったんじゃ。」


「うっ…お父…様…」


「ワシはどうせ先に死ぬ。婆さんの元に…行くだけじゃ。怖くは無い。」



「お前はまだまだこれから楽しい事、辛い事、嬉しい事色々な事を経験せねばならん。こんな所でお前の人生を終わらせはせん。ワシはもうこのザマじゃ。後はこの老人に任せて、お前は楽しく生きろ。お前の人生はこれからじゃ。」


「………。」


「さぁ、行くんじゃ!!月夜!!」


造の必死の抵抗で、ルーファを抑え込む。

最期の別れを言われた月夜は無言で走り出した。

走り去っていく月夜を見ながら、月夜の幸せを願って造は必死に戦った。


【艦船!我々を引きあげろ!!急げ!!】


ルーファは、艦船に心話で命ずる。

ルーファの命令に艦船は反応をし、ルーファ達に艦船から光が差し込んだ。

ルーファ達の身体は次第に光始めて、身体が薄くなり始めていく。

造や、村の男達も同様に光り始めて身体が徐々に薄くなり始めたのだが、間に合わなかった。


バリバリバリバリッッッ!!!!キュウウゥゥゥ!!!


聞いたこともない音と同時に、そこら中の空間にさらに激しい稲妻が広がると、数kmに物凄い風が吹き荒れ、金色の紙は無数の細切れになりながら風に吹かれ風を金色に染めていく。

そして、艦船へ無理やりルーファ達を送ろうとする転送装置の力と月夜の銀の筒の装置の力が悪い方向に絡み合っていき、クロノア人も見たことがないような現象が起き始める。

金色の風は次第に黒光りを帯び始め、更に広範囲に広がり始める。

もはや、クロノア人達も造達も身体を地上に固定するのにも限界なレベルにまで空間は荒れ狂う。


「離れろ。離れろ!こやつ、片腕でその老体を持って何故こんなにもしぶとくしがみつくのだ。信じ難い光景だ。このままでは星父様の願いを聞き届けられぬ。」


腹部にしがみつき、どうしても離れない造を肘で額を何度も打ち付けたり、膝で腹部を蹴り上げたりしたが造はビクともしなかった。

額や口からは見るに堪えない程の出血が出ており、もはや目も虚ろいでいる。

造にはもはや意識がほとんど無かった。片腕からの組織破壊は既に内蔵にも到達しており、造を駆り立たせていた物は、もはや娘への親心のみだったからだ。

朦朧とする意識の中で、もはや身体にも痛みは感じない。後は死を待つのみであった。


(ワシもこれまでか…。まだ三途の川とやらは見えないな。身体がやたら寒い…。なにか暖かい飲み物でもほしいな…のぅ、紫…。)


あたりは漆黒の空間にに飲まれ始めていた。

造は静かに目を閉じる。すると、背中に懐かしいような匂いと共に暖かな温もりを感じた。

重い瞼をそっと開けると、そこには背中にしがみついた月夜が居た。


「ツフィア!」


「つ…月…夜!?どう…し…て…!!」


「お父様…。私はお父様と常に一緒…です。お怒りになるのは、どうかお母様の前でお願いします。私は…離れられませんでした。」


月夜は、造からルーファを引き剥がすと造を思い切り抱きしめた。

一瞬どうして戻ってきてしまったのかと、絶望していたが月夜の表情を見て造は全てを察した。

彼女の目は覚悟がすでに決まっている者の目だったからだ。

造の生命力は既に乏しい。もはや月夜に声を掛けてあげることも出来なかったが、そっと月夜の腰に手を掛けると、静かに月夜と過ごす最期の時を待った。


【艦船。私の転移がこの野蛮人のせいで、おかしい事になっている。もはや無理やりでも構わない。転送装置のレベルを上げろ。時間が無い。】


ルーファはもはや、選択の余地のない緊迫した状況だと理解すると、転移を無理矢理にでも実行するように指示をする。


【ルーファ兄様、このような現象は初めての事です。我々が無理やりレベルを上げると何が起こるか分かりません。宜しいのですか?】


【構わん。急げ。どうせこのままだと私達は、恐らく永遠に戻れないほど遠い彼方へと飛ばされる。それでは星父様の意にそぐわない。】


【かしこまりました。では、出力最大にします。】


このルーファの判断は間違いであった。

転移側の出力を無理に引き上げてしまったせいで、繊細な力の均衡が崩れてしまう。辺りの影響された空間の歪みは取り返しのつかないほどねじ曲がり、その場に大きな宇宙空間のようなものが現れていく。

それらは、造達やクロノア人達はおろか、辺り一帯を全て吸い込んでいき、光り輝く世界へといざなっていった。木々などの自然のお生い茂っていた山はその面影を無くすほど木々は消え去り、荒れた大地のみが現れたのだった。


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